【短編小説】暗雲
ある日
親友とのLINEのある会話を皮切りに
彼が僕を題材にした小説を書いてくれた。
彼の趣味のひとつ。
おもしろかった。
この場を借りてご紹介します。
自分の住んでいるこの世界こそ
あらゆる中心となる。
そう人に言いながら
その実、たくしは自分の住む世界を中心と信じて疑わない。
- あともう一周 -
汗ばんだ額をぬぐい、習慣のランニングを再開しようとした時だった。
不意に空に一筋の閃光が走り、小さな点のような穴が開いた。
たくしは、その穴から目が離せなくなった。
その点から同心円状に波紋が立ち、一番外側の波紋が視界から消えた瞬間のことである。
何かが起こる...そう直感した。
遠くでひぐらしがカナと哭いた。
…ガンッという音を皮切りに、大地が震え海がうねり、彼は立っているのが困難になった。まるで地震だ。大地震。体験したことのない災害に直面したと感じた。
それでもなぜか、視線を点から外さず見つめてしまう。町はうねる大地に飲み込まれ、阿鼻叫喚の地獄絵図が瞬間作り出されている。
足元で子どもが一人、地割れに飲み込まれ、消えた。太陽を雲が隠したかのように、閃光が途絶えた。空が暗くなる。
点のように開いた穴の向こう側で、黒い玉のようなものが右側からズズと現れギョロリと動いた。
彼はその時ようやく
世界がどういうものか理解したようだった。
- 早くしなさい -
母の呼ぶ声がする。
こら、そんなに揺らしたらダメでしょう。
母は少年を叱った。
少年は穴を開けのぞいていた水槽に蓋をし、夏の空の下へ駆けていく。水槽の中で、生き物が蠢く音がかすかに聞こえる。
ある夏の昼下がりの午後。
遠くでひぐらしがカナと哭いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。