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世界でいちばん悲しい寿司の話

水曜日の昼には、ひとり寿司を食べると決めている。照りつける太陽に背を向けて、会社のビルからいつもの寿司屋に向かった。

今日も満席だった。赤坂という土地柄か若者はあまりいない。スーツを脱いだ白いシャツが店内を埋めていた。席に案内されるまで少し待つのも、昼どきの水曜日ならいつものことだった。席に案内されて、980円の「特盛り寿司」のエビ抜きを注文した。

生エビを食べると喉がチクチクと痛むので、火を通したエビもあえて食べないようにしている。甲殻類アレルギーというやつだ。「オーダー、特盛りエビチェンジ!」と威勢のよい女性の声が店内に響いた。

ふと時計をみると12時45分になっていた。13時から大切なミーティングがある。徒歩とエレベーターの乗り降りの時間を合わせると、会社に着くまで10分はかかる。いますぐ寿司がテーブルにおかれたとしても5分で完食しなくてはいけない。寿司がこないよ。こないよ寿司が。

12時47分、特盛り寿司ついに来たる。寿司15貫に茶碗蒸しと味噌汁つきとなかなかにボリューミーである。12時50分、寿司15貫の完食。さらに茶碗蒸しの熱さに上顎をヒリヒリさせたところで時間切れとなった。

席をスッと立つ。さきほど寿司をもってきてくれた店員さんがビクリとした。3分で席を立つことに驚いたのだろうか。会計をSuicaで済ませて、大急ぎで会社に戻らなくてはいけない。

さて、あなたは知っているだろうか。寿司を3分でたいらげる悲しさを。寿司を食べられない日々の悲しみよりも、3分で食べなくてはならない寿司のほうが悲しい事実を。

#コラム #夏 #グルメ #雑文 #日記


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