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カニを食べてたはずなのに《ショートショート》

 タラバガニを食べている手が止まる。

 さっきまで、わいわい話していたはずの何人かがいない。

 え?どの瞬間から?

 広い部屋ではないが、友人を何人かでコタツを囲んでカニを食べるお食事会をしていたはずだ。

 カニは手元にたくさんある。

 手にも持ったままだ。カニ用のスプーンも握っている。

 寝てしまったりしたわけではない。

 さっき、一瞬の出来事だ。

 ただ、目の前にいた友人が消える瞬間を見た覚えもない。

 コタツ机の上には、食べかけのカニが置かれた皿やスプーンが複数個。

 いつの間にか向かいの部屋の奥側が見えている。

 待て。待て待て。一体どういう事だ。
 今の今まで確かに向かいや両隣には人がいた。友人だったはずだ。

 もしかして、私は意識を失っていたのか?

 友人たちはその間にどこかに行ってしまった?

 そして、その友人たちの名前を呼ぼうとした。

 しかし、名前が出て来ない。

 向かいに座っていた親友とも呼べるあいつ。
 両隣には、学生時代にできた共通の友人で仲がとても良かった。

 しかし、名前が出て来ない。

 どうして…。

 カニを手にして、何年ぶりだとか、学生時代にやったよな、なんて話していたはずだ。

 ビールも飲みさしのものが置かれている。

 どうして…。

 そんな焦りを言葉にも出来ずに呆然としていると、

≪ 迎えに来てやったぞ。妄想してないで、諦めてこっちに来い ≫

 頭の中に言い表せないほど、汚い声が響いている気がした。

 待てよ、

 そうか。

 俺にはそんな友人は、そもそも一人もいなかった。

著:T-Akagi

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