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ボーダーレスなベトナムのギタリスト: グエン・レ (Nguyên Lê)

先週、マダガスカルの音楽への愛を記事にした。そこで思いの30%も書くことはできなかったが、ヴァリハという竹筒のまわりに弦をはった箏のような楽器とその魅力に触れた。

この中で次のように書いた。

マダガスカルは、アフリカ大陸の音楽とインド洋を渡って来た東南アジアの音楽が混じり、音楽の宝庫だとも聞いている。

私自身の記事:「マダガスカルの調べ:ラジェリ、デ・ガリ、ラコト」

実は、インドネシアにヴァリハとよく似た楽器がある。ササンドゥと呼ばれるティモール島にある楽器で、ヴァリハと異なる点としては、竹筒の同様の本体のまわりに椰子の葉でできた音響反射板を持つことだ。少しネットで検索してみたら次のサイトが見つかった。ティモール島まで製作者を訪ねて聴き取り調査と楽器の入手と、動画・文献そして奏法のアーカイブと行ってきた記録ということで、非常に参考になる。

ササンドゥ|コレクション|民音音楽博物館 (min-on.or.jp)

さて、私は実は、ササンドゥを南ベトナムの楽器だと勘違いしていた。まったくもって迂闊であった。

だから、ベトナム系の素晴らしいギタリストのグエン・レのことを書く導入として、前回のマダガスカルからのスムースな導入として、ササンドゥのことを書いたわけだが、意図したようにはいかなかった。まぁ仕方あるまい。

グエン・レはフランスはパリの生まれだ。それでも、ベトナムの土くさいメロディを感じさせるフレージングと、時に暴走するソロがいい。そしてビブラフォンやパーカッション、アフリカやインドなど幅広いミュージシャンを交え、ボーカルも効果的、ボーダーレスなアンサンブルが魅力のギタリストだ。

2019年リリースのアルバム "Streams"から "Hippocampus" 動画が上がっていた。

メインで使っているギターは面白いユニークな形のギターだ。

最近は、自らのルーツに近づくといった感じだろうか、ベトナムのミュージシャンをゲストに迎えたアルバムも多く、民俗色も感じさせる。2017年の "Hanoi Duo" もいい。6曲目のTình Đàn (Heaven’s Gourd)はなかなかいい感じのビデオクリップも視聴できる。(*1)

改めて驚いたのだが、このアルバムには、以前に記事にしたことのあるイタリアのトランぺッター、パオロ・フレスも参加している。

他にベトナムの女性ポピュラー歌手のホン・タンのアルバムもいい。2008年の "Fragile Beauty" だ。

最初に知ったきっかけは、2002年のアルバムに大好きなドラムスのテリ・リン・キャリントンが参加しているということからだったように思う。なにしろ、ジミ・ヘンドリクスのトリビュートで、しかもテリ・リン・キャリントンがドラムスだけではなくボーカルも披露しているというのだ。

一曲目を聴いた瞬間、ノックアウトだ。なんと違った感覚のギタリストがいたものだと驚いたのだった。ロックの名曲のカバーというと、2011年の "Songs of Freedom"もある。こちらもオリジナルの良さをしっかりと残しながらボーダーレスな感覚のアレンジと演奏が素晴らしい。

2009年の "Saiyuki"もいい。みやざきみえこ(*2)の箏、プラブー・エドゥアールによるタブラの3人による演奏で、これが不思議に融合しているが、このような組み合わせはなかなかないと思うがどうだろうか。

みやざきみえこは、パリを中心に活躍していたらしく、そこで出会ったらしい。

ヴァリハ、ササンドゥ、箏、・・・少し強引な流れだっただろうか。

最後に今回の記事で関係ある国、フランス、イタリア、マダガスカル、インド、インドネシア、ベトナム、日本が載った地図をGoogleからキャプチャしたので貼っておこう。

右下、オーストラリアと大スンダ列島の間の赤い線で囲われているところ(拡大しないとわからないかもしれない)が、幻の楽器ササンドゥがあるインドネシアのヌサ・トゥンガラ州である。

マダガスカルとインドネシアの間、竹の筒を持ってインド洋を渡る船を想像しながら、ぼーっと地図を見ている。


■ 注記

(*1)
Tình Đàn (Heaven’s Gourd)のNgô Hồng Quangによる2021年バージョンのオフィシャルビデオがとても美しかったので貼っておく。

(*2) みやざきみえこ

白状すると、ちゃんと知らなかったので、今回この記事を書くにあたって少し調べた。

オフィシャルサイト:みやざきみえこ (miekomiyazaki.com)

このオフィシャルサイトをよく読んで知ったのだが、Saiyuki の1年前、本文にも紹介しているホン・タンのアルバム "Fragile Beauty"にも参加している。

■関連 note 記事

"Hanoi Duo" に参加している、イタリアのジャズ・トランぺッター、パオロ・フレスの記事。

なんだか、思わず知らなかったところで繋がっていることを発見したりして、こうして「好きだ」と書いているだけではあるが書いているだけのことはあると実感する。

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