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天才同士の対話:Jim Holt ”When Einstein Walked with Gödel”

アインシュタインは1933年にアメリカに渡り、以後22年間、プリンストン高等研究所で研究生活を送った。アリストテレス以来の史上最高の論理学者とされるゲーデルは1940年の始めにアメリカに渡りやはりプリンストンで研究生活を送った。風貌も性格もまったく正反対と言える二人だったが、朝と夕に、ドイツ語で語りあいながら、一緒に歩いてプリンストンに通ったということである。

世界は、どこにいるどんな人間にとっても同じように感じられるはず、誰が観測しても、すべての人にとって物理法則は同じになるはずである。そこに絶対的な空間は必要ない。絶対空間を否定し相対性理論をうちたてたアインシュタイン。

公理と純粋な論理で組み立てられた数学の世界でさえも、真であることを証明できない命題を作ることができる。不完全性定理を発見し、人間の理性と論理の限界を示したゲーデル。

一般相対性理論にはさまざまな解が見出され、その中にはアインシュタイン自身も認めがたいものもあった。ゲーデルが導いた解もその一つである。アインシュタイン自身は、時間の流れが動きと重力によって変わることを示したが、過去と未来の事象は相対的な関係であり、時間軸での順序や因果関係に関しては絶対的であると考えた。

過去と未来がつながり回転する宇宙。ゲーデル解は、ラディカルなものであり、過去のどのポイントにでもさかのぼることができるという。すなわち、時間旅行が可能であり、タイムパラドックスを引き起こすこともできる。そこには因果関係や順序があるとはいえない。人間が人間の意識によって順序として認識し、因果関係として経験するだけ、となる。

ゲーデルは時間などは存在しないと考えていた、という。

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二人の晩年は必ずしも幸せなものではなかった。アインシュタインは物理の統一理論を目指したが実を結ばず、量子論を受け入れず反論を試みたがこれもうまくいかなかった。ゲーデルは衰弱し餓死した。世界は、宇宙は、こうあるはずだ、こうでなければならない、という信念や、こうであってほしい、という願いは、動かしがたい現実を前にして、アインシュタインやゲーデルのような世紀の天才でも、ときに空回りし寂しい思いをすることがある。しかし、それは私たちの外部に、私たちの意識とは独立した、論理的でなんかない、そんなような実物があり他者があるということの証左なのだ。

現象を観測したときに、現象を法則で説明しよう、という強い意思がないかぎり、法則を見出すことはない。世界は理性と論理、あるいは確率事象で説明できるはずだ、という強い信念がなければならない。しかし、一方で、科学はすべてを疑う姿勢が必要でもある。科学に正解はない。しかし、正解を求めようとする強い情熱と愛があって始めて新しい知見が得られる。が、その愛が自己の認識を硬直化させ、次に開ける新たな地平に立つことを妨げるのだ。

ちょっと不思議だが、二人の対話の内容については触れられていない。どんな話をしていたのだろうか。直面している数学の解法の課題なのか、神の存在についてとか、時間と意識について、それとも、もっとたわいのない、私たちのレベルの話をしていたのだろうか。なんとなく二人とも孤独感を強く持っていたのだろうか、それが二人を引き寄せたのだろうか、などとも考えてしまう。

アインシュタイン、相対性理論、ゲーデル、不完全性定理、これからも引き続き努力して少しでも理解できるようになろうと思った。

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さて、この二人のエピソードから始まるこの本は、24のエッセイと、15の短いエッセイ、それぞれ、数学のトピック、コンピュータやアルゴリズムの話、少々の物理と哲学、などを、それぞれの研究の内容と歴史だけでなく、関わっている人たちのエピソード、人間模様を、コンパクトにうまくまとめてあり、楽しく読める。

英文も平易ですいすい読める。序文には次のようにある。

My ideal is the cocktail party chat
getting across a profound idea in a brisk and amusing way to an interested friend by stripping it down to its essence.
The goal is to enlighten the newcomer while providing a novel twist that will please the expert.

もし、あなたがパーティで少し知的な話題で場をもたせたいと思うなら、是非、読んでみたらいかがだろうか。少し数学の基礎知識がないとつらいかもしれない。が、本全体の表題となっている、一番最初のアインシュタインとゲーデルのエピソードだけでも読む価値があると思う。



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