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美しいと認識する力・4:イマニュエル・カント「判断力批判」

ようやく「判断力批判」の上巻を読み終えた。7月頭から読み始めて、上下で6か月くらいで読むつもりでいたが、上巻だけでちょうど半年かかってしまった。さっそく下巻を注文したら、すぐに届いた。

言わずと知れたカントの主著である三批判書の三部目だ。他の「純粋理性批判」や「実践理性批判」と同様、やはり難解だし、全部理解できているとは言えず、途中居眠りしながら読んでいるようなところもあるが、三部の中では一番面白く読んでいる。

なによりもカント本人が楽しく書いたのではないだろうか。

ここで、判断力の位置づけを少し復習してみよう。人間の認識の種類と適用範囲は次のように分類できる。

適用範囲:「自然」
・心的能力の全体・・・認識能力
・認識能力・・・悟性
・ア・プリオリな原理・・・合法則性
適用範囲:「芸術」
・心的能力の全体・・・快・不快の感情
・認識能力・・・判断力
・ア・プリオリな原理・・・合目的性
適用範囲:「自由」
・心的能力の全体・・・欲求能力
・認識能力・・・理性
・ア・プリオリな原理・・・究極目的

「判断力批判」上巻 p.67 の表を、フォーマットを変形して引用

「純粋理性批判」は、自然に対する考察だった。世界がどのようにあるか、私達が世界をどのように認識しているのか、について明らかにする。私達が自然を認識するときには、私達があらかじめもっている感官器官を通じて得た現象を、あらかじめ持っている枠組み:三次元空間、時間軸、因果関係、にしたがって認識しているわけであり、自然そのものと認識の枠組みによって構成される法則に従う。法則はあくまで法則であって、私達は自然の内にあり自然の法則に従い、過去も未来も人間の意志とも理性とも関係はない。そこに意志の自由はない。

「実践理性批判」は意志の自由の考察である。つまり、世界がどうあるべきか、その中で何を道しるべに生きていくべきなのか、について考察される。世界がどうあるのか、をいくら分析しても研究しても、世界がどうあるべきなのかはわからない。しかし、私達は世界がどうあるべきなのかわかっているのではないだろうか。未来は私達の意志で、あるべき方向に変えることができるはず、そこに私達の自由がある。だからこそ、私達は、守らなければならない道徳、義務のための義務を持っているはずなのだ。

「判断力批判」は美しいと感じる心の考察だ。つまり芸術について扱う。私達は、自然の世界を認識してそれに従って生きるだけではない。また、理性に従ってするべきことをするだけでもない。そして、単なる遊び以上に、生きていくなかで美しさを感じ表現せずにはおれない。これが絶対に美しいという教条的なもの、あるべき世界があるわけではなく、かといって自然そのままの美しさではない、なおかつ、世界中の人々が認める崇高な美がある。私達が創り出す、そのような何かがあり、そこには私達が共通に美しいと感じる何かがあるのだ。

「純粋理性批判」は、途中で熱を帯びた盛り上がりを見せるものの、かなり慎重に論議を進めているように感じる。考えながら書いているような印象だ。「実践理性批判」はどちらかというと信仰の告白という性格があるせいか、説教という感じだろうか、楽に書いている感がある。そして、判断力批判を書くころには、それらの内容がきっとカント自身の中でも整理され考え方の枠組みが強固にできてきたからではないだろうか。美学、そして芸術を扱うが、論の進め方は鮮やかで迷いも見られない。

前にも書いたが、純粋理性批判と実践理性批判のよいまとめにもなっているように感じている。

自分の専門領域ではない芸術について、そして自分の愛する芸術について、自分の得意な小難しい議論を展開して思う存分に論じるのはさぞかし楽しかったのではないか、と推測する。

下巻のカバーにゲーテの言葉が引用してある。それを孫引きしておこう。

カントの学説は引き続き影響を与えてきたし、またドイツ文化に深く浸潤している。たとえ君が彼の著作を読んだことがないにしても、彼は君にも影響を与えているのだ。・・・君がいつか彼の著者を読みたければ「判断力批判」をお勧めする(「ゲーテとの対話」)。

「判断力批判」下巻カバーより

上巻は美学的判断力について存分に語られた。下巻は、100ページ程度、目的論的判断力について、自然科学に対する考察がなされる。そして120ページほどの付録「目的論的判断力の方法論」がつづき完結する。下巻にはさらに100ページほど、上巻冒頭の「序論」の別バージョンらしき「第一序論」が収録されていて、全部で320ページほどだ。まだまだ先は長い。

2022年の上半期をかけて読むことになるだろう。明日死ぬかのように生きよ、永遠に生きるかのように学べ。

私達はどこから来てどこに行くのだろうか。


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