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中島義道著「晩年のカント」

先週、COVID-19のワクチンを第一回目接種してきた。職域接種なのでモデルナ製のmRNA型のワクチンだ。午前中に接種、午後になって「そういえば、腕動かすと肩にちょっと鈍痛があるな」という感じ、その日の晩から次の日一日くらいなるほど筋肉痛という感じの鈍痛が続いたが、その程度で終わった。その間少し普段より体温高いかなという感じだった。副反応も怖いが副反応がないのも怖い。何もなかったら、保管用の冷凍庫の電源が切れていたのか、それとも、生理食塩水を間違って打ちました、とかそういうのを心配したほうがよいかもしれない。ということで適度な副反応で、まぁまぁよかった。モデルナなので次回は4週間後だ。

さて、そうは言っても、やはり身体の変調がないか、どうしても気になった。そのせいで仕事アレルギーが発症して一日仕事に手がつかなかったのは、だらしがないという誹りを受けるかもしれないが、まぁ、許してほしい。

そんなこともあるだろうと、ちょっと軽い読み物でも読もうと、前日の晩に中島義道著「晩年のカント」を購入していた。野にいる日曜哲学愛好家でカントのファンを自認する私にとって、とても楽しく読める本で、夢中でその日のうちに一気に読んでしまった。

著者の中島義道氏について、そしてこの本について、高橋昌一郎氏が note で紹介しているので、あらためて私がここに紹介することはないかもしれない。引用しておこう。

“本書の著者・中島義道氏は、1946年生まれ。東京大学教養学部および法学部卒業後、ウィーン大学大学院哲学研究科修了。東京大学助手、帝京技術科学大学助教授を経て、電気通信大学教授。現在は「哲学塾」主宰。著書は『カントの人間学』(講談社現代新書)や『醜い日本の私』(角川文庫)など多数。”

著作数も多いし、メディアでの発信も多い。少し前だが、こちらが、悩める読者諸氏には多いに参考になるだろう。


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カントの主著とされる三批判書、「純粋理性批判」「実践理性批判」「判断力批判」は、長いし重たい。もの自体、現象、感官器官、経験、悟性、理性、カテゴリー、図表、超越論という言葉や概念もわかりにくい。理性と論理を駆使し、理性の限界を明らかにし、世界がどうあるのか、世界はどうあるべきか、それらをどのように考えるべきなのかを考える。去年、一昨年と取り組み、「純粋理性批判」と「実践理性批判」は読んだ。苦労したが読んでよかったと思う。そして、まだ、頭の中で熟成中である。

しかし、中島義道は、これらの書は、「形而上学」を書くための方法論、予備学にすぎない、という。

なぜ「批判」に留まるのではなく「形而上学」なのか?人類ではじめて「批判」という正しい方法を見出し、その方法の上に立って、独断的な(批判を受け容れていない)アリストテレスの形而上学に代わる「自然の形而上学」と「人倫の形而上学」を確立することができれば、その上にすべての学問を基礎づけることができる、これがカントの展望だからである。

カントが「純粋理性批判」を刊行したのは1781年、57歳のときであった。そして「判断力批判」を書き終えたのは1790年、66歳になっていた。そして1804年に没するまで、ついに自らの「形而上学」を完成させることはできなかった。

三批判書を完成させるまでのすべてを掴もうとうとする充実した力強い知性のころの後、若き哲学者フィヒテとの確執、自説への様々な反論や官憲からの圧力と敢然と戦い、そして自らの老齢とも戦いながら、子供に返ってしまったようにチーズを食べすぎて亡くなる最後まで、たんたんと追いながら、ときに著者本人の感慨が重ね合わされ、非常に興味深い。

哲学者は、カントも含め、皆、尊大になるという。

こうして、さまざまなレベルで尊大になったまま、老境を迎えその思考を停止する。そして、虚しいことに、自説にしがみつきながらも、じつはそれにはほんの少数の人しか賛同しないことを知りつつ、納得しない気持ちを抱いたまま、やがて死ぬのである。いや、さらにさらに虚しいことに、少なからぬ哲学(研究)者は、自分の成し遂げた乏しい成果を前に、「自分なりにやり遂げた」と自分に言い聞かせて、自己欺瞞にまみれた満足感に酔いしれたまま、やがて死ぬのである。


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本書で語られる豊富なカントのエピソードや言葉は、それぞれがカントの人物を浮かび上がらせ面白い。全部紹介すると、本書の丸写しになってしまうのでやめにして、一つだけカントの「人間学遺稿」からの引用をここに孫引きしておこう。

みずから美しい作品を生み出すことのできるひとは、それについて哲学することなどしないで、作品一本に打ち込んだ方がよい。哲学することなどは思想家にまかせておけ。(「人間学遺稿」446ページ)


私達は、どこから来てどこに行くのであろうか。


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