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ベーシストあれこれ 1:ミシェル・ピポキーニャ, ジャコ・パストリアス, リチャード・ボナ, モヒーニ・デイ

先週、ブラジルのギタリストの新星、ペドロ・マルティンスについて書いたが、その中で、ピポキーニャも少し紹介した。

ピポキーニャもお気に入りでよく聴いている。一発聴いてノックアウト、というより、ペドロ・マルティンスと聴いているうちに、ジワジワときた感じだ。最新のアルバムは2020年に出たばかり、上記記事にもSpotifyへのリンクしておいたペドロ・マルティンスとの Cumplicidade。

私がゴタゴタ書くよりも、いい記事があった。引用しておこう。

レパートリーは二人のオリジナルをはじめエルメート、カルトーラ、ドミンギーニョス&アナスタシア、ドリ・カイミ&パウロ・セーザル・ピニェイロ、ギンガ&パウロ・セーザル・ピニェイロ、トニーニョ・オルタ、アミルトン・ヂ・オランダまでと実に多彩。(中略)例えばカルトーラの名曲 "Desfigurado" では固定概念にとらわれない解釈で聴く者をあっと驚かせてくれたりもする。そんな作品に華を添えるゲストもモニカ・サルマーゾ、トニーニョ・オルタ、チアゴ・ハベーロと申し分なし。

2017年のアルバム、Luaはかわいらしいジャケ写もいいし、こちらも粒ぞろいの楽曲で何度聴いても飽きない。

1曲目から聴きやすいポップな曲で思わず引き込まれる、LUA、娘さんのかわいらしい声が入るタイトル曲もいい。

この人も、気負った感じがない、ひけらかすところもない、明るくしなやかな感じがとてもいい。

粒のはっきりした音やよく歌うフレーズはジャコ・パストリアスを思い起させる。そういえば、子どもの声が入るといえば、ジャコ・パストリアスも、リーダー作の中であった。ジャコが率いたビッグバンド Word of Mouthの "John And Mary"だ。

白夜のジャケ写が美しいし、ジャコの名曲ぞろいだ。このワード・オブ・マウス、日本でのライブを収録した Invitationもいい演奏ばかり揃っている。1曲目の Invitationは楽しいなかにも緊張感が感じられるし、The Chickenももちろんいい。この中で特に気に入っているのは、7曲めの緊張感Maxの Reza/Giant Steps/Rezaだ。ドラマティックな最後のあと、Faniie Maeで締めるのはニクイ。

ベーシストの人の意見はいろいろあろうかと思うけれど、ジャコ・パストリアスは、独特の奏法やテクニック、音色とともに、バンドにおけるベースという楽器の位置づけに革命を起こし、ポピュラー音楽に最も大きな影響を与えたミュージシャンの1人だと思う。華々しい活躍とともに、晩年は精神を病み、その最後は泥酔状態でクラブハウスに入ろうとして警備員と乱闘になり頭をコンクリートに強打し、死亡してしまうという劇的な一生も人をひきつけてやまない。

ジャコはジャコであり、ジャコだからジャコなのだ。

そういえば、小林秀雄のエッセイ「歴史」(考えるヒント収録)にこんな一節があった。

誰も、変り者になろうとしてなれるものではないし、変り者振ったところで、世間は、直ぐそんな男を見破って了う。つまり、世間は止むを得ず変り者であるような変り者しか決して許さない。だが、そういう巧まずして変り者であるような変り者は、世間は、はっきり許す、愛しさえする。個性的であろうとするような努力は少しもなく、やる事なす事個性的であるより他のないような人間の魅力に、人々はどんなに敏感であるかを私は考える。と言うのは、個性とか人格とかの問題の現実的な基礎は、おそらくそういう処にしかない。

ジャコの音楽を聴き、エピソードを知り、本当にそう思う。

Weather Report での演奏でもいいのがたくさんあるし、ジョニ・ミッチェルとの共演も素晴らしいものばかりだけど、別に譲ろう。いずれ、ジョー・ザヴィヌルやピーター・アースキン、ウエイン・ショーターを取り上げることがあるに違いない。

さて、ピポキーニャ、ジャコ、と来て、似たようなテイストのベーシストとして私が思い出すのは、アフリカはカメルーン出身のリチャード・ボナだ。ジャコとゆかりの深いジャズ・ミュージシャンたち、ジョー・ザヴィヌルやパット・メセニーとの共演もいい演奏ばかりだ。しかし、この人はソロアルバムがいい。ボーカルがとてもいいのだ。優しい明るい声で、聞くと幸せになって元気が出る。

ちなみに、このアルバム、タイトルが Bona Makes You Sweat だが、私は Bona Makes You Sweet と間違えて覚えていたが、彼の優しい笑顔と歌はやっぱりみんなを Sweet にするのではと思っている。

ついでに、若手のホープのベーシストで、この数年、私が注目してよく聴いているのが、インドのモヒーニ・デイだ。B'zのバックバンドでベースを務めたことがあるので、知っている人も多いだろう。私が知ったのは2-3年前だったと思う。次のYouTubeは少々長いソロだし、ちょっと荒っぽい感もあるが、勢いあるし、聴いていて飽きない。が、エキサイティングなパートだけつまみ食いしたい場合、2分42秒あたりからのスラップ、あるいは、5分あたりからの、インドのリズムの応酬から盛り上がるスリリングな後半をまず聞いてみるとよいだろう。

チック・コリア・エレクトリックバンドのドラマー、デイヴ・ウイックルとの共演の次も楽しい。

インド音楽とジャズとの融合も、今また、熱い(と思う、たぶん)。こちらの音源も聴いてみてほしい。

まだまだ書きたいことの10%も書けていないような気もするが、今回はこのくらいにしておこう。

そうそう、昔、ジョン・アバークロンビーのギターを評して、「まだまだ、もっと弾きたいし弾けるけど、このくらいにしとこうか」といった大人の余裕がいい、と聞いたことがある。

そんな、私が天上の神様と崇めるジョン・アバークロンビーも4年前の8月に天国に召されてしまった。人生はあまりに短い。


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