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堀場芳数「無理数の不思議」

孫が1歳の誕生日を迎え、育休の期限が来たとのことで、孫は保育園に入園し、娘が職場復帰、頑張り屋の娘が無理していないかと心配だ。

なにしろ、つい最近、女性は話が長い、飲み会を断らない女、など議論とバッシングが沸騰していたばかりだ。ほんと世の中割り切れない話ばっかりだな、というわけで、無理数とはなんだっけ、とばかりに本書を読んでみた。

無理数がいかに私達に近い存在であるのかというところをうまく説いている。三角関数表や対数表、実用としての様々な図形のヘンの長さとか面積、そしてポケコン(懐かしい!)による Basic のプログラムなど、当時の一般読者の興味をひくように、実用的な解説書としてうまく構成されている。

ただ、逆に無理数のどこが不思議か、不思議で面白い点がどこか、はどちらかというとぼやけてしまっていると思う。私は個人的には、エピソード系の第一章の「数の生い立ちと無理数√2の誕生」、第五章の「無理数に関係のある大数学者たち」がとても面白く楽しめた。

そういえば、「無理数の不思議」の文章は無駄が多い。先日投稿した西岡久美子氏の「超越数とはなにか」の読者にいっさい媚びるところのない文章と対照的で、エピソードや個人の感想など、本文のプロットからときに脱線する文があちこちに挿入されている。

たとえば、本書の7章には実用性満点のはずの語呂合わせでの記憶術が書かれている。

ホテルのコマーシャルに,「伊東に行くならハトヤ,電話は良い風呂,4126, 4126」などといって,数字の語呂合わせが電話番号の記憶に用いられているようですが、もともと「数字の語呂合わせ」は、長い数字の列を記憶するために用いられるものです。

無駄な一文だなー、と思いつつ、子供のころにテレビのコマーシャルでやっていたのを思い出した。

せっかくだから、いくつか引用しておこうか。

√2 ≒ 1.4142135623 .....  = ひと夜ひと夜人見頃兄さん。
√3 ≒ 1.7320508075 ..... = 人並みにおごれやおなご。
√5 ≒ 2.2360679774 ..... = 富士山麓オウム泣く。なかなかよい。
e ≒ 2.71828 18284 59045 23536 02874 71352 ....
 鮒ひと鉢ふた鉢ふと鉢ふた鉢、しごく惜しい、兄さんござろく、鬼やな夜内産後に。
π ≒ 3.1415926535 8979323846 2643383279 5028 ....
 産医師異国に向こう、産後厄なく、産婦みやしろに、虫さんざん闇に鳴く頃にや。

・・・・いや、私は知らん、そんな桁数までは覚えていない。対数表だって三角関数の表もいらない。今なら表計算アプリもってれば誰だって計算にはこまらないのだ。必要な人は、ざっと暗算できるようによく使うヤツだけ、3桁くらい覚えておけばよいので、πが3.14、√2が 1.41 というくらいでよいと思う。そういう意味では、この章全体が実用性をみせかけながら、案外、面白い無駄とも言える。

そう思うと、西岡久美子氏の「超越数とはなにか」のほうが、定理ー証明、定理ー証明でそっけない中身で実用性のありそうな部分など微塵もないが、より普遍的な内容だ。本のほとんどの部分が、時代によって価値が変わるところがない。

なんとなく、言いたいこと、私が面白いと思うところ、わかっていただけるだろうか。つまり、実用性と無駄というのは相対的なものだし、時代につれて大きく変化する。実用性一点張りというのは、普遍性に欠けがちでかえって実用に欠ける場合あるということだ。

さて、上の2冊で比較し、いきなり一般化すると、男性のほうが話が長いうえ無駄な部分が多いがそのぶん親しみやすく、女性の話のほうが簡潔で無駄がなくそっけない、となるだろう。

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女性が、男性が、とひとくくりにして議論したくはないし、日本における男女差別の実態や改善案、社会への提言などを論じるつもりはない。だいたい「仕事ができるかできないか」ということが重要で、必死に仕事して成果を出そうと思えば、仕事で関係する人の性別は関係なくなる。

ただ、私のこれまでの経験では、女性のほうが無駄なくさっさと仕事をする人が多かった。単にそういうめぐり合わせだっただけだと思うけれども。

飲み会で、自己憐憫、クラブ同窓会系の昔話、言っててもしようがない上層部批判などでダラダラだらしなく際限なく飲んでいるのは男性が多いように思う。実際、「あんたちには付き合ってらんない、帰る!」といって途中で店を飛び出していった女性がいた。

そういえば、30年前だったか、不良品が多発して問題になった工場に先輩社員と訪問した。ラインの外観検査で男性の工員が入るとポロポロ不良品が流出してくる。見ていると「なんで俺こんなことやってるんかなー?俺の人生ってなんだろう、もっと人生かけられる仕事あるんちゃうやろか。」といった雰囲気でチンタラしている。そこへ女性の工員が入ると、ピタっと流出が止まる。「とにかく仕事をどんどんこなしてぱっと定時にあがらなきゃ、よけいなことしているヒマはないんだから」とばかりに迫力満点だ。・・・いや、男女の差ではないのだろうけど。

10年くらい前だったか、私が開発に関わった製品の工場技術の現場のリーダーは女性が数人いた。組み立て工程は私たちに任せてと制服の着こなしも凛々しく、責任感が満点、ハキハキ、ビシバシものを言う、そんな人ばかりで、課長も部長もその迫力にいつもタジタジ、そして工場の皆が信頼をおいていた。あるとき、現場の派遣社員の1人が配置転換で別の部署に移ることになった。最終勤務日の終業時、帰ろうとする彼のひょろっとした前かがみ気味の背中に、女性リーダーの1人が「次の職場でもがんばって、応援しているよ、なんかあったら言ってきてよ、みんな仲間なんだからさ!」と大きな声をかけた。当時、開発が遅れに遅れ、犯人さがしで殺伐とした技術開発の現場で結果が出ずに吊し上げにあっていた(←ちょっとかなり大げさです)私は、それを傍で聞いていてジンと来て泣きそうになった。休日出勤のときに「差し入れー」といって、プライベートも忙しいだろうに、すっとお菓子なんかを持ってくるのも彼女たちだった。仕事ができるうえに気持ちが暖かい。・・・いやいや、男女の差ではないのだろうけど。

また、数年前、何度も出張した中国のオフィスでも顕著だった。かの国ではマネージャやエンジニアでも女性の比率はかなり高いが、その職場では、とくにマネージャの女性が目立っていた。フニャフニャの男性とチャキチャキした女性、といった風情だ。とにかく言うことがはっきりしていて、グズグズと横道にそれた議論を始めがちで結論をなかなか出そうとしない男性陣に、「Yes なの?No なの?はっきりしてよ」「今、ここでその話する意味あるの?」「時間ないんだから本題にもどりなさいよ」とズバズバくる。・・・いやいやいや、男女の差ではないのだろうけど。

たまたま私の周囲がそういう例が多かっただけなのだろう。ちなみに私は会社の飲み会や社員旅行の類は出席率が悪い。基本はお断り、それなのに、上司にもお客さんにも言いたいこともはっきり言えず、会議でも「あーでもないこーでもない」と煮え切らず、仲の良いお友達としか遊べません、というのは昔からだ。

そういえば、この文章のようにダラダラと話が長く要領を得ないのも問題だ。

・・・いやいやいやいや、個人の問題で男女の差ではないはずだ。

それに「超越数とは何か」の感想でも書いたが、無駄は一種の贅沢であり余裕である。そこから新しい展開も生まれることもある。だから心の平安が得られる。

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さて、娘は育休からの復帰ということで比較的残業が少ない職場に配置転換になったようだが、品質管理部門と聞いたので大変だろう。品質管理なら、ガウス分布や大数の法則、その前提や限界、χ2乗分布やワイブルプロットなどを基礎として勉強する必要がある。

自然対数の底 e が大活躍する分野だ。・・・おやおやまた無理数だ。無理?いやいや、きっと大丈夫。

ここまでダラダラ書いてきたように、世の中は無理と思うような割り切れないことばっかりだ。割り切れない数字の有理数だったらまだいい。無理数のように無理かもしれない。しかし、無理数だってベキや階乗で展開することもできれば、計算に長い時間かかってもちゃんと収束もしていく。

人間の理性には限界があり、有限の時間と空間の中でしか生きられない。だが、そんな私達が無理数を扱って計算するときは、どこかの桁で打ち切ればよいのだ。人生、長い目で見て、大きくかまえて乗り切ってほしい。



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