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【読書】フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』

ミステリーの短編集です。
ドイツの大衆車みたいに、ムダのない文章。2012年本屋大賞(翻訳小説部門)受賞作品だけあって、読みやすくて、おもしろい。でも図書館で借りて読めば十分だったかなあ。好みの問題なんでしょうね。ミステリーはぼくの性に合わないのかもしれない。

最終話「エチオピアの男」が一番好きです。

──臆測と証拠を常に峻別できるほど人間は客観的ではないからだ。(P215)

それから、一番最後のページにやけに含みのある一文があります。

──Ceci n'est pas une pomme.
(これはリンゴではない)

どういう意味?

説明を期待してページをめくったら、この本には「あとがき」や「解説」がありませんでした。オーノー!気になるじゃないかよ!(本書収録の一編「棘」のフェルトマイヤーさんみたいな心境です)

そこでググってみると、WEB上に訳者、酒寄進一さんによる若干の説明がありました。

『犯罪』ここだけの訳者あとがき 前編(2011年6月)
http://www.webmysteries.jp/afterword/page/sakayori1106-2.html (※)

この言葉は、ルネ・マグリットというシュールレアリズムの画家の同名の作品からとったものらしいです。写実的なリンゴの絵の上に「これはリンゴではない」とフランス語で書かれている絵画で、見えているものが「実体ではなく虚像(観念)にすぎない」ことを示しているのだそう。

言わんとするところは、この本の扉に書かれた以下の引用と同じなのかも知れませんが、著者の真意は酒寄さんの解説でもぼかされていて、しかとは分かりませんでした。

──私たちが物語ることのできる現実は、現実そのものではない。 ヴェルナー・K・ハイゼンベルク

ハイゼンベルクというのは、ドイツの理論物理学者で、1932年にノーベル物理学賞を受賞しているそうです。

ところで、本書に収録される11編のエピソードにはすべてリンゴが登場しているとのこと。気がつきませんでした……いやはや、手が込んでいます。酒寄さんも「ここだけの訳者あとがき」で、まだ仕掛けがあるような含みを持たせているし、もう一度読まないと本当の面白さに気がつけないのかもしれません。とすると、いつでも再読できるように、やっぱり買ってよかったのかもしれない。

なるほど、これがミステリーの世界か。恐れ入りました。

(2013/1/8 記、2024/1/8 改稿)

※ ページが移動したようでリンクが無効になっていました。移動先へのリンクを末尾に貼っておきます。(2024/1/8)


フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』東京創元社(2011/6/11)
ISBN-10  4488013368
ISBN-13  978-4488013363


『犯罪』ここだけの訳者あとがき 前編(2011年6月)-1/2
https://www.webmysteries.jp/archives/12245525.html

『犯罪』ここだけの訳者あとがき 前編(2011年6月)-2/2
https://www.webmysteries.jp/archives/12245533.html

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