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"貧困の終焉"の読書感想文

2006年の古い本だが、貧困の終焉を読んだ。途上国開発支援を続け、タイム100に連続してノミネートされたジェフェリーサックスの貧困を終わらせるための超大作。

近代成長の本当の姿といえば、ある地域の総生産がかつてない長期的な成長を持続して世界でも例を見ないレベルにまで達したのに、他の地域ではそれに比べて成長が緩慢だったというのが正しい。豊かな社会の所得を長期的に増加させた大きな推進力は科学技術であって、貧しい地域からの搾取ではなかった。

著者は、成長は搾取ではなく科学技術の進歩であったに過ぎないという。どこで差がついたのか。

現実の経済では、一般的に一人当たりのGDPの上昇はこれら4つのプロセスが同時に働いた時に見られる。貯蓄によって資本が蓄積され、専門化が進んで通商が盛んになり、テクノロジーが進歩して、一人当たりの天然資源が増えた結果なのである。

この4要素が大事だという。

経済的に外部との接触を絶ったセカンドワールドとサードワールドはグローバルな経済成長とテクノロジーの進歩の恩恵からも切り離されたコスト高の地元産業を育成したが、国際的な競争力ではーたとえ競争することを選んだとしてもー全く勝ち目がなかった。

閉じた産業は腐敗の温床になりがちで、4つのプロセスが回らない。

豊かな国々は2世紀に渡って近代経済成長の恩恵を受けてきた。貧しい国々は何十年も遅れてやっと経済成長のスタートを切り、しかし様々な障害に行くてを阻まれた。中には、大国の植民地にされて容赦ない搾取に苦しめられることもあった。地理的な悪条件にも恵まれなかった。

現在の貧困国にこの4つのプロセスを回すためには何が大事か。それは医学の教訓をそのまま挿入できるという。

教訓1:人間の体は複雑なシステムで成り立っている
教訓2:複雑であるがゆえに、個別の診断が重要になる
教訓3:あらゆる医療は、家庭医療である
教訓4:良い治療には観察と評価が欠かせない
教訓5:医学は専門職である

これは、前回読んだ"傲慢な援助"と同じ論調だ。国は複雑なシステムで成り立っているので、個別に診断し、生活に密着し、観察と評価を繰り返しながら個別に治療していくのだ。

1990年代後半、アメリカ合衆国がボリビアに農家のコカ栽培を根絶するように求めた時、結果は田園地帯の貧困に公共政策と開発計画で対処しようとすると、今度は国の財源が危機的状況になった。財政危機のボリビアには、アメリカ合衆国を含む海外のドナー機関の支援も焼け石に水だった。やがて市民暴動が起こり、警察と軍隊と農民が市街戦を繰り広げた。ついには政府が倒れ、ボリビアは不穏な状態のまま新たな時代に突入した。

個別治療を行うと、新たな出血を導く。この本は特に後半アフリカに焦点を当てていくわけだが、巷で流通するアフリカが貧しい理由はだいたい間違っていると言っている。

アフリカの腐敗こそが問題の原因だという主張は、現地での体験や真面目な精査によって覆されるだろう。私はこの十年間、アフリカでもかなり立派な政策を実施してきた政府ーガーナ、マリ、セネガルーが経済的に反映できず、その一方で腐敗が横行していると言われるアジアの地域ーバングラデッシュ、インド、インドネシア、パキスタンなどーが急速な経済成長を遂げている実態を見てきた。

腐敗は経済成長の決定的な理由にはならないし、

植民地時代の苦しみの後遺症やポスト植民地時代に被った西欧からの深刻な悪影響こそが長期的な経済危機の理由だとする説明も成り立たない。

ベトナムや中国を見てもこれが理由にならない。

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著者は貧困のメカニズムはこれだという。アフリカは農村に人が分布している上、インフラが整っていないので、エイズやマラリアの治療が行き渡らないし、経済活動も閉鎖的だ。そうすると自然と世帯が貧しくなる。そうすると、冒頭にあった成長のための4要素の一つ目に入れない。

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だからこそ、世帯に対してODAや公的予算を注入していこうというのが貧困の終焉のテコ入れポイントだ。ではそこにいくらを投じるべきなのか。

世界銀行の推計によれば、基本的なニーズを満たすのに一人当たり一日1.08ドルが必要だった(1993年の購買力平価による)。ラヴァリオンのチームは国勢調査をもとに、その水準未満で生活している世界の貧窮世帯の数と平均所得を算定した。世界銀行によれば2001年には1日1.08ドル未満で生活する人は世界で11億人、一人当たりの平均収入は1日0.77ドル、年にして281ドルだった。重要な点は、基本的なニーズを満たすのに、1日0.31ドル、年にして113ドルの不足があったことだ。したがって世界規模では2001年の所得の不足分は、一人当たりの年間113ドルの11億人分、つまり1240億ドルとなった。

1日1.08ドルでいいのかいと思うが、それを信じると必要なお金は1ドル100円計算すると12兆。

ドナー諸国が目標として掲げた国民総生産(GNP)の0.7%以内でこの以降が達成できるのだ。1981年にはこれが不可能だった。極度の貧困の数が今より多く(15億人)、先進国の所得も今よりかなり少なかったからだ。1980年の総所得格差は約2080億ドル(1993年の購買力平価)で、ドナー諸国のGNP合計は13兆2000億ドルである。当時なら、基本的なニーズが満たせるレベルまで極貧層を引き上げるのに、ドナーの所得の1.6%が必要だったのだ。

GNPの0.7%を割り当てることができれば、論理値的には解消するようだ。

僕も民間企業の立場で、寄付の文化を根付かせて、世の中を変えるチャレンジをしているので、ビジネスとして成り立たせるスキームを成り立たせながら、一人でも多く貧困を終わらせることができればと思う。

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