勝ち組になるために

休日。

いつもなら裁判所に出かけるところを思いっきり寝坊し、別に遅刻を咎められるわけでもないんだから寝坊したって出かけたらいいのにそんな気も起きず「今日はもういっそ何もしないどこにも行かない日にしよう」と二度寝を決めこんでいた。もとより誰に頼まれて裁判所に通ってるわけでもない。気が向かなければ行かないなんて当たり前の話だ。
二度寝から三度寝にいたりそれでもまだ布団でグズグズする、ある意味では最高の休日である。
でも「何もしない」というのもそれはそれでしんどい。暇なんだ。でも暇だからといってどこにも行かないと決めた以上、どこにも行けない。行きたい場所もない。となると必然的にスマホに手が伸びる。

そういうわけでグダグダとまとめサイトなんかを見ていたわけだけど、なんですか、「頂き女子」とかって言うんですか、その女の子の記事をいくつか目にした。
まあ、興味もない。サラッと流して終わり。恋愛感情を利用して男からお金巻き上げて…時折あるような事件である。そのやり口のマニュアルを売る、というのはちょっと珍しいが情報商材売りなんか今は巷に腐るほどいるからやっぱりありがちな出来事だ。なんとなく気にかかってアニータさんの名前をググるなどしたが、彼女は彼女でチリで幸せに暮らしているそうだ。


頂き女子ちゃんは今25歳だそうで。
「あー、なんか…そっか…」
と感想にもなってないよくわからない納得感はあった。
10歳下の女性がどう育ってどう生きてきたかなんて知る由もないけども、生きてく上で目標にしたいような人って彼女の周りや、いや周りにいなくてもテレビやなんかでそう思えるような人っていたのかな、と思ってしまう。
本屋を歩けばよくわからない自己啓発やら「楽して稼ごう!」なオーラを前面に押し出したよくわからないやつやら…そんなのばかり目立つようになったのはいつ頃からだっけ。スマホゲームの広告も今やそんなのばっかりだ。昔、エロ本の表3とかに載ってた札束風呂みたいな下品なやつ。ああいうのを令和の御代でも見ることになるとは思わなかった。
男から巻き上げた金で何千万とかの大金を稼ぐ…それって彼女にとって「勝ち組」の生き方なのだろうか。「勝ち組」ってそもそも何なんだろう。

どう勝つか。そういう話はどこでもいくらでも聞ける。でも、どう生きるべきか、それを聞かせてくれて考えさせてくれる場所ってあんまりないような気がする。
色川武大みたいな話になるけど、結局人生は星取表にしてみれば勝ち負けなんてトントンなんじゃないかと思う。勝ったり負けたり、勝たせたり勝たせてもらったり負けたり負けてあげたり…そうやって五分五分でみんなもたれかかり合いながら生きていく。男から巻き上げた時はさぞかし楽しかっただろうし気分も良かったことだろう。勝つのってやっぱり気持ちいい。でも多分、何か足りなかったんだろう。誰にももたれられないし誰ももたれかかってこないんだから。そうやって得たお金でホストに通う、ホストに行ったことがない俺がわかるなんて言うのもおこがましいけど、でもやっぱりなんかわかる気がする。

お金って物差しだけで人生の勝ち負けを判別するなら、金持ちのおっさん騙すのって正解の道すじだと思う。「コスパ」も「タイパ」もいいし。
それに「負けた」人ってもう今の世の中じゃゴミかカスみたいなもんだから、頂き女子ちゃんだって「勝ちたい」って思うに決まってる。倫理観だなんだなんて言ってられない。それを責められる人なんて今そんなにいないんじゃないかな。どう勝つか、それはもちろん大切なんだけど同じくらい「どう負けるか」だって大切なはずだ。色川理論なら人生の半分は負けなんだから。でも今の世の中は「負け」を許しちゃくれない。勝つしかない。そうなったら倫理観なんて放り出す人だって出てくる。


「勝ち組」だと標榜している人(それを口に出すほど下品なやつはいないが態度や物腰で標榜してるやつのことね)で、ゆとりのありそうな人ってあんまり見ない。俺が見ないだけで本当はいるのかもしれないけど、メディアによく出て悪目立ちしてる人ってなんだか余裕がなさそうに見える。俺みたいな本当に余裕のない貧乏人に「余裕がなさそう」なんて思われるのってよっぽどのことだよ。ニヤニヤ冷笑してるみたいな表情はつくって「負け組」とか「弱者」を踏みつけにするような発言をしてたりするんだけども、なんだか必死というか今にも泣きそうに見えてしまう人がいる。もちろん余裕ぶってるのもいるけどさ、そんなポーズなんか誰だって見透かす。前澤なんて見てて哀れみさえ感じるもの。そうやってどうにかこうにか自分に言い聞かせてるんだろう、「俺はコイツラとは違うんだ」って。そうでもしないと不安で仕方ないのかもしれない。


「億り人」なんて言葉を耳にしたのは去年か一昨年くらいか。仮想通貨とかで見る見るうちにお金が増えて大金持ちになりました、みたいな人たち。
いいなあ、なんて指をくわえて見てたわけだけど、あの人たちってどうなったんだろうか。
仮想通貨で稼ぐ、別にそれはいい。でもそれは誰にも利益をもたらさない。利益よりももっとウエットな言葉にしたほうがわかりやすいかもしれない。誰も幸せにしてない。個人はもちろん、社会にもまったく貢献はしていない。そうやって稼ぐ人がいなくなったところで誰も困りはしない。というか、このあたりの投機に流れるお金って市井の人の経済活動で得た果実から流用してるだけでむしろいなくなった方がいいよね、というようなことを言ってる人さえいる。

その状況で大金だけ手に入れて…それで人は満足できるものなのだろうか。こんなことを言えば貧乏人のひがみだなんて言われてしまいそうだし、たしかに間違いなくひがんでいるからそれは当たっているけれども、ひがみだけで言ってるわけじゃない。
「働く」ってお金のためだけにするものなのでもない。もちろんお金は大切だけれども、それだけではないはずだ。「働く」って書くとイヤな気持ちになるから言い換えるけども、「生きる」ってそういうことじゃないはずだ。
誰も幸せにせず労なくして手に入れた大金、俺ならホスト…は行かないしキャバクラもそんなに楽しめるタイプじゃないから行かないとして、そうなってみないとわからないけどきっとそういうところで散財してしまうかもしれない。もしそうなれば礼儀として楽しそうに振る舞うけども、そんなに楽しくなさそうだな。


働きもせず、一切賃金が発生していないというのに柄にもなくお金のことばかり考えてしまった。目先のタバコ代にも事欠く有り様の人間が他人の懐事情なんか考えても仕方ない。頂き女子ちゃんは機会があれば裁判所で会えるかもしれない。その時にでも何を思ってたのか聞いてみたいところだ。できたら人生観みたいなことを聞きたいが、それはちょっと法廷では期待できそうにない。

長々と書いたこととは相反するが、俺はお金がほしい。苦労せずお金を稼ぎたい。勝ち組になりたい。
ということでお願いします。お金、お金、お金をどうか恵んでください。私を億万長者にしてください。下のサポートというところからお金をください。どうかよろしくお願いいたします。




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