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『心』を揺さぶる愛すべきB級作品


卒論の提出日が差し掛かる去年の師走、何故か忘れたけど、FODに加入していた私はサブスク代を回収せんがために、ドラマを漁っていた。
そこで偶然、ドラマ版の「のだめカンタービレ」の一話を観て、不覚にもどハマりしてしまった。おかげで卒論は進まないし、先生に檄を飛ばされながら何とか最終提出することになったのだが、観て後悔はない作品だと言い切ることができる。

もともと、映画版は前編・後編ともに観ていて、原作もドラマも観ていなかったので映画版は見入りながらもつまらないなーとは思ってしまっていたのだが、今回ドラマ版をみてこの作品への見方が根本的に変わり、社会人を目前に昔のように無邪気に夢をみることを諦めていた私に彩りと新しい夢を感じさせてくれた作品だった。

まずのだめ役の上野樹里さんの演技がいい。
映画版ではだいぶ大人になってナイーブな表現のシーンが多かったためか、彼女の他の作品よりは引き込まれなかったが、ドラマ版、SP版ののだめは原作を知らない私が「This is Nodame!!」と言い切りたくなるほど、愛さずにはいられなくなってしまう。
「ぎゃぼーん!」をあれほどナチュラルに言えるのは上野樹里さんくらいだと思う。

上野樹里といえば私が小4のとき、第二次歴史ブームに入るきっかけを作った『江〜姫たちの戦国〜』で主役の江を演じていたが、当時は「江がのだめにしか見えない」と酷評されるネット記事を目にしたこともあった。
実際、上野樹里さんも付き纏う周りからの「のだめ像」に苦しめられたそうだが、のだめを後から観た私からの眼では「江」と「のだめ」は全く別物だ。
ただ、成長した私の感想としてはのだめがあまりにもハマりすぎていた、とは思う。

そして、千秋真一役の玉木宏。
当たり前に顔が良い。今も様々な少女漫画の実写化がされたり様々なアイドルが世に送り出されているが、千秋役の玉木宏が本当の「イケメン」だと思わせるほどのビジュアル。
そしてのだめを突き飛ばすコメディな役柄が妙にフィットしている。私はクラシックは本当に初心者でオーケストラもまだ実際に観たことがないため、指揮の演技への評価はできないがハートに伝わってくるまっすぐさがそこにはあったと思う。

そして今にして思えば超豪華メンバーな名脇役の存在。峰役の瑛太と真澄役の小出恵介がハマりすぎている。真澄ちゃんなんて、ビジュも原作とまんますぎる。
Sオケ、R⭐︎Sオケの醸し出す「青春感」は、2000年代の良きドラマの空気を纏いつつ、「クラシック音楽」がテーマというのがこれまたギャップで、唯一無二の世界観を作り出している。 
ハリセンこと江藤先生がのだめと千秋のラフマニノフの演奏を聴いて、心を入れ替え、のだめの才能を伸ばそうとするストーリーも胸を打たれた。(勿論おなら体操も好き)

ドラマの青春感がSPでも続くのかと思いきや、
ヨーロッパにいった途端、音楽と向き合うシーンが多くなる。
ああ、本場に飛び込んでいったんだ、という感じ。
なのに、ギャクゼンスはドラマのまんま。
映画の印象はあまりないと言いつつ、オクレール先生の「Bebeちゃん」は愛らしくて覚えていたので、SP版第二夜のコンヴァトでののだめの奮闘、そしてオクレール先生の愛と厳しさある指導は心揺さぶられオクレール先生というキャラクターをもっと好きになってしまった。

あとはのだめと千秋先輩の一筋縄でいかないラブコメ展開。変態なのに、俺様なのに、ゴミだめの部屋で出会っているはずなのに、「音楽」という共通言語を通して、刺激し合い、高め合っている2人の姿に何故かジーンときてしまう。

私はピアノを10年間あまり真剣に習わなかった程度で、クラシック初心者すぎて、「バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』はなんか荘厳で好きですー」みたいなことしか言えない人間で、しかも小さい頃に読んだモーツァルトとヴェートーベンたちの伝記に波瀾万丈すぎて拒否反応を示していたため古典音楽に対して微塵も興味がなかった。
それなのにベト7も、2台のピアノのためのソナタも、名前を知りもしなかったラヴェルも、のだめマジックにかかってしまえば心を躍らせる音楽に変わっていた。

映画版はやっぱり観るのに少し勇気と辛抱強さが必要な気がした。まだRuiと自分を引き比べて闇落ち(じゃないけど)して、シュトレーゼマンに誘惑されるのだめの心情は深いところまで落ちない。(映画制作時に、原作者の二ノ宮さんが産休前にプロットだけ渡したため、漫画の世界観を想像しにくかったこと、端折られたシーンが多いことが大きいらしい)


とりあえず、これだけ語りたくなるくらいみハマってしまった。4周はしてしまったと思う。私ものだめみたいに、のだめのフランス語字幕があればフランス語覚えれるかもしれないと思うくらい沼ってしまった。
そして4周目が終わった今日、玉木宏の指揮に関する経験者側からの視点が書かれた記事や映画版の否定的なレビューを目にした。
「演出が悪い、くだらない、クオリティが低い」

私はクラシック音楽の世界もまだまだわからないことだらけだし、洋画のスケール感についていくだけの映画・映像通でもない。
ただ、あえて「宗教」という世界を深く学んできた立場から言うなら
このB級作品は、人の『心』を揺さぶるB級作品だと言い切れる。そしてそんな私だからこそ
のだめの魅力を語り尽くして残しておきたいと思った。

千秋の楽譜を愛し向き合う姿がモーツァルトやヴェートーベンの波瀾万丈の人生のなかで最高の音楽を紡ぎ出す精神を掘り起こさせ、画面を超えて現実社会を生きる私に心を躍らさせる。

私から言わせてみればツッコミどころがあっていい、それよりも『心』なのである。
また、この作品の制作陣の原作の世界観とキャラクターたちを純粋に愛する姿勢が感じられた点も私の中では評価ポイントが高かった。
技術より、心。
伝えたいという思いは必ず鑑賞側にも届くのだ。


アニメ版の最終話でこんなシーンがあった。
ピアノの勉強のために普通の学校には通わず家庭教師に勉強を習い、音楽の道にまっすぐ進むリュカ。「上を目指す」ことを葛藤してきたのだめの問いにリュカがこんなセリフを遺した。

「おじいちゃんがぼくの才能は神様がくれたんだからちゃんと世のため、人のために使いなさいって言ってたよ。それにまあやっぱ音楽が一番好きだし。」

アニメ『のだめカンタービレ フィナーレ』The Last Lessonより


7年間通った宗教学校で教わった「高貴なる義務」を果たすことの大切さ。
私はのだめみたいな天才性もないくせに
現実逃避癖だけは一丁前だが、バイト前にベト7を聴いて心を躍らせる純粋さが残っていたことが嬉しかった。魂が躍る、この感覚。

やっぱり神様から頂いた天分を最大限に磨いて思いっきり発揮して、そして、与えられた課題にまっすぐ向き合って、世のため人のために生きたい。

苦しみがあったとしても歌うように、楽しく生きてやるんだ。
そう思える感動が詰まった作品と出会えた冬になった。

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