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100年の孤独/放哉に想う〈Vol.29〉 独居無言のなかで

夕べひよいと出た一本足の雀よ

尾崎放哉全句集より

神戸・須磨浦海岸のベンチに腰掛け、お昼をとっていました。しばらくすると雀が一羽、また一羽と近づいてきました。なにもされないとわかると一気に距離を縮めてきました。その群れの中に足の不自由な雀がいました。一本足とまではいきませんが、片方の足指がなく、これでは電線にとまることもできないにちがいない、と思われました。
米菓子を砕いて、その雀に放り投げました。しかし、どうにも動きが緩慢なために、ことごとくほかの雀たちに横取りされてゆくのでした。近寄って与えようとしたら、パッと飛び去ってしまいました。

1924年(大正13年)、放哉は須磨寺の大師堂堂守として10カ月足らず、この地で暮らしていました。念願の独居無言の生活は、放哉の自由律俳句を大きく飛躍させて、多くの名句を生み出すこととなりました。

「私は……一日物も言はずに暮らす日があります、知人は一人も無きことゆゑ無言でゐる事が大へん気持がよろしいのです……」――須磨寺時代、放哉が師に宛てた葉書の言葉に、なぜか一本足の雀がひよいと立ち現れる気がするのでした。



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