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狩猟のためのナイフ考 PART5

獲物を解体する

今回、いくつかのナイフを使って、シカとカモの解体を行ってみた。シカの解体で問題になるのは、ナイフに脂肪がついてあっという間に切れ味が落ちてしまうことだ。

シカの脂肪は硬く、まるでロウのようにこびりつくので、木の皮などにブレードをこすりつけても完全には除去できない。

ランドールのO1鋼鍛造ブレードは本当にスパスパとよく切れる。
シカやイノシシなどの解体にはある程度大型のナイフが使いやすく、
最低でも4 インチのブレードが必要

そんなとき、ツルツルした鏡面ブレードのありがたさがよくわかる。ブレードをピカピカに磨いてあるのは、見た目の美しさだけではなく、シカの脂肪付着対策という意味合いも大きいのだ。逆にいうと、ショットブラスト仕上げのような、表面がザラザラしたナイフは解体に向かない、ということになる。 

また、ハンドルにパラコードが巻いてあるナイフも、シカの解体には使えない。ハンドルごと血まみれになってしまうので、解体のたびにパラコードをほどいて洗って巻き直すならともかく、衛生的には完全にアウトだ。

パラコード巻きハンドルのナイフで大型獣を解体するとこのように悲惨な状態となる。
ほどいて洗う以外に洗浄する手段がないため、 狩猟用ナイフとしては避けたほうが無難だ

その点、各パーツにすき間のないシースナイフなら、どんなに血脂まみれになっても問題ない。使用後はお湯と中性洗剤で丸洗いすれば、かんたんにキレイになる。

使用後のメンテナンスが一番楽なのはやはりシースナイフ。
解体作業でナイフ全体が血脂まみれになったこの写真を見れば、
各部にすき間のない物を選ぶべき理由がわかるはずだ
フォールディングナイフもハンドル内部に容赦なく血脂や肉片が浸入するが、
丸洗いして 軽く水分を飛ばせばキレイになる

ブレードの形状は、好みにもよるがやはりドロップポイントが最も使いやすいだろう。先端が上を向いたクリップポイントの場合、スキニング(皮剝ぎ)がやりやすい半面、腹皮を切るときに多少のコツが必要だ。いうまでもなく内臓を破ってしまっては大変なので、エッジを上に向ければポイントも上を向くドロップポイントのほうが扱いやすい。

スキニングには専用のスキナーというブレードもあるが、皮剝ぎに特化した形状のため汎用性が低く、場合によってはナイフが2本必要になってしまう。複数のナイフを持ち運べる状況でもないかぎり、あまり出番はないかもしれない。

どんなナイフでも必ず切れ味は落ちるので、携帯用シャープナーを使って
タッチアップしながら作業する

カモの解体で気をつけたいのは、ナイフの大きさとブレードの厚みだ。鳥類の解体にはあまり大型のナイフは向かないが、特にブレードの厚い物は避けたい。ブレードの厚いナイフを使うと、胸肉を外すときなど、骨側に肉がたくさん残ってしまい効率が悪いのである。なるべく多くの肉を取り出すためにも、3㎜以下、できれば2㎜程度の薄いナイフを使うべきだ。

薄いブレードのナイフなら胸骨にピタリと沿わせながら刃が入るため、
肉が多く取れる上、 断面がキレイになる
ブレード厚5㎜のナイフでカモの胸肉を削ぎ落とそうとすると、
斜めに切り込む作業がしにくいため一度に刃が入らず、断面がギザギザ になってしまう
右はブレード厚5㎜、左が2.5㎜のナイフで カモの胸肉をカットしたところ。
薄いブレードを使ったほうが肉を薄く切り分けやすい

もし手羽や足を断ち切る必要があれば、そこはキッチンバサミを使えばいいわけで、鳥類の解体に頑丈なナイフは必要ないのである。

※当記事は『狩猟生活』2017VOL.1「狩猟のためのナイフ考」の一部内容を修正・加筆して転載しています。

Profile
こぼり・だいすけ

27歳で散弾銃を所持し、その後、狩猟免許を取得。 第一種銃猟・わな猟・網猟と3種の狩猟免許を持つ。これまでに扱ったナイフは200本以上、所持した銃の合計は30丁と、豊富な知識と経験を活かし2013年からライターとして活動を開始。国内ではほぼ唯一の狩猟・銃・ナイフの専門ライターとして、狩猟専門誌などで執筆を続けている。現在、一般社団法人栃木県猟友会の事務局長を務める。趣味はオートバイ。共著に『狩猟用語事典』(山と溪谷社)がある

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