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【ハンドクラフトも猟師のたしなみ】シカ革グローブをつくる 荒井裕介
自ら仕留めたシカの革で、世界で一双の自分の手に合うグローブをつくろう
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獲物を余すところなく利用する
『狩猟生活』VOL.5で仕留めたオスのシカを東京都の山口産業のマタギプロジェクトになめしを依頼した。通常、オスの皮は加工品に向かないとされているが、仕上がった革には傷もなく美しい。向かないとされる理由は、格闘による傷が多く、皮が分厚いからだと以前に聞いたことがある。しかし、シカ革のグローブは高級品で、買うとなると尻込みする金額のものもある。それではつくってしまえと安易な考えで始めたが、手袋は立体的に製作する必要があるため難しい。そこで、ふだん愛用していた古くなり穴のあいたレザーグローブをばらしてから型を取り、製作することにした。グローブをそのままレザーの上に置いてコピーしてもいいが、厚紙できれいなラインを取り直しておくことが仕上がりを左右すると考え、型をつくった。
グローブは強度が必要になるうえ、可動部分が多いアイテムでもある。できるだけパーム(手のひら)はシカの背中の中心辺りの革から取るようにしたい。どの動物でもそうだが、脊椎とくっついている部分は皮が厚く丈夫なのだ。また、パームの強度をもたせる一方で、指の股部分は柔軟なほうがいいので、背骨から少し外すか、尻側の皮を利用すると可動性能は上がる。元々、柔らかいシカ革だが、こうしたことに気を配るとより快適なフィット感が得られるのだ。
縫うために必要なアイテム
家庭用ミシンはパワフルで引き糸の調整をオートにしても、しっかり縫えるほど高性能だ。厚物をいとも簡単に縫い上げられる。しかし、レザーは別問題。まず用意するものは、レザー用の針とテフロン押さえだ。
これがあればシカ革は簡単に縫える。布と違い一度縫ってしまうと針穴があいてしまうレザーは失敗が許されない。レザー用の針は先端が刃物のようになっている。織り目のないレザーを穿ちながら縫い上げていくようになっているから失敗すると穴が目立ってしまう原因になるが、慎重に進めていけば大丈夫だ。実際、僕はなんとか縫えた。手先が特別器用な訳ではなく、時間をかければ誰しもがミスを減らすことは可能なはずだ。とはいうものの、縫い代をあまり広くとれないのがグローブだ。多くとってしまうと装着した際にそこが指と当たり違和感になる。特に可動部だと、関節と当たり、痛みが出てしまうこともある。縫い目から5㎜程度が理想の余り方なのだが、縫うときはもっと多くても構わない。裏返す前に、合わせが多く残っている部分を切りそろえれば問題ない。
シカ革のしなやかさは病みつきになる
グローブが縫い終わり、実際に装着しながらオイルを塗り込んでいくと手のシワに沿うようにグローブ自体が手に馴染む感じだ。スキーをしたことがある人なら使ったことがあるのではと思うのだが、スキーブーツのインナーを熱成形していくあれによく似たフィット感だ。ホースオイルやベアオイルを塗り込み、仕上げに柔軟性と撥水性をもたせるためにミンクオイルを使用する。ミンクオイルをよく塗りこむようにしていると、さらにパームの部分が手に馴染みはじめる。まるでゴルフ用のグローブのような一体感が生まれるのだ。
試しに銃を構えてみると、しっとりとよくホールドできる。トリガーを引く感触も悪くない。またレザーグローブ特有の丈夫さもあり、登攀中の手の保護や転倒時などでも有効なアイテムといえる。今回は自然の色合いのなめしだったが、カラーも選べる。自分が普段使用しているウエアとの相性や森で目立つ色をチョイスするのも粋なコダワリになるはず。レザーグローブは狩猟はもちろんキャンプにも使える便利アイテム。ディアハンターなら、ぜひ挑戦してもらいたいし、獲物を余す所なく使い尽くすハンターも増えてほしい。
それではつくってみよう!
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教えてくれたのは荒井裕介さん
一年中、 山野を駆けまわるアウトドアメディア・クリエーター。単独猟で猟期の大半を過ごす。ブッシュクラフトにも造詣が深い。著書に『サバイバル猟師飯』『アウトドア刃物マニュアル』『タープワーク』(ともに誠文堂新光社)がある。写真は2018シーズンに獲ったオスのシカ。なめし専門業者に皮を送って革に変わり、この記事でグローブになった!
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※当記事は『狩猟生活』2020VOL.7「シカ革グローブをつくる」の一部内容を修正して転載しています。