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祖父との約束

夏の初めに、私は船の上にいた。
父母と兄、従兄弟と祖母だけ乗せた小さな船は、波をかき分け進んで行く。

それは、祖父の願いを叶える為。
祖父との約束を、果たす為。

祖父は旅が好きな人だ。
飛行機に乗り、国々を旅する祖父は、誰よりも海の向こう側の匂いがした。
そんな祖父だから、1つの所に留まりたく無いと言うのは当然で、
硬く冷たい石の下には埋めないと、みんな笑って誓ったのだ。


やがて船が空と海しかない所で止まり、
祖母は恭しく、小さな砂になった祖父を両手に包んだ。

手向ける花は祖父の好きな薄紅色。
季節遅れのその花は門出を粧い、ささやかに海に落ちていく。

「いってらっしゃい」
「今まで、ありがとう」
「おじいちゃん、さようなら」

餞の言葉が幾重にもなる頃、
祖父は節くれた指から旅立ち、花びらの舞う波間に消えた。

濡れた頬を潮風が優しく撫でる。
どこまでも果てのない空と海に、汽笛が遠く、寂しく響いた。

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