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陰翳礼讃 | 谷崎潤一郎 | ☆☆☆☆

暗闇というのはどちらかというとネガティブなイメージで、不安とか、それ系のマインドを抱きますが、この本を読むとそれは現代の文化が放った産物の一つなのかなと思います。

この本では現代の文化の象徴として明るさを取り上げています。それまでの日本では暗闇の中に美を見つけるような文化を築いてきました。暗闇の中で楽しむということ、それはお金持ちだけの遊びではなく、例えば素朴な造りの田舎ならではの家屋でも同様に味わうことができます。

去年の夏、岐阜の合掌造り集落を見に行きましたけど、これを読んでから行ったらより深い味わいを抱くことができたのかもなぁ。合掌造りは屋根がめちゃくちゃデカいから室内は当然暗くなります。だから最低限の明かりを灯しながら日々、暮らしているんだろうな、みたいな想像を広げることによって、自分が享受する感覚がもっと深かったのかもしれない。

けど、これだけが描かれていると建物探訪、昔の家屋に佇む暗闇、みたいな話で終息してしまいそうになりますが、この人の凄さは、島原の角屋で見たという女性の話。それの記述はわずか数行でしたが、鉄漿(おはぐろってこう書くのね)をした女性が暗闇をまとってぼんやりと佇む姿があまりにも、、、みたいなところです。
タイトルの「陰翳」というのも、なんか彼の独特なセンスが感じられるような気がします。ほとんど知らないですが、そんな気がします。
私は、谷崎潤一郎が描く女性の妖艶さって際どい色気があると思ってて、その人が見た光景だからこそ、普通の人には気づかない艶やかさがあったんだろうなと想像します。正直、彼ほどの想像力を持っていないから、その箇所を5回くらい読みましたけど多分彼の言いたかったことを100%理解できていないように思います。

眉を落して鉄漿を附けている年増の仲居が、大きな衝立の前に燭台を据えて畏まっていたが、畳二畳ばかりの明るい世界を限っているその衝立の後方には、天井から落ちかゝりそうな、高い、濃い、たゞ一と色の闇が垂れていて、覚束ない蠟燭の灯がその厚みを穿つことが出来ずに、黒い壁に行き当ったように撥ね返されているのであった。
谷崎 潤一郎. 陰翳礼讃 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.532-535). Kindle 版.


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