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何もかも憂鬱な夜に | 中村文則 | ☆☆☆☆

何から書けばいいのか。

全体的にネタバレします。ご注意ください。

死ぬことでどうのこうの

まだ、中村文則は3作品しか読んでおりませんけど、避けられない死とか、圧倒的に勝つことの出来ないものと対峙する人の事を書くのが好きなのかもないという点。
生死を彷徨う大病とか、死刑とか、その先には死ぬことしか待っていないような状況で人間は何を思い抱くのか。
絶望する。鬱々とした気分のまま、死ぬことを待つ。
死ぬことで、この世界の苦しみから逃れる。解放される。自由になる。鎖を作っていうのは自分自身なのに、その鎖を解き放つということ。それは自分でできるはずなのに、そっち側に考えが及ばない。なぜか。絶望しているから。頭がそっち側に働かないから。

最近、また、鬱々とした気分を抱きながら生きています。
日々に絶望している。絶望?言い方が違うかもしれないですけど、相変わらず未来に期待していなくて、このままいなくなっちゃってもいいよな、って思うことが多くて、希死念慮の一つなんでしょうけど、

そういう気分の時にこういうのを読んだせいか、主人公、もしくは山井にものすごく共感できたような、気がします。

怒る、とはまた違う。施設長のような圧倒的な、神のような存在、それに主人公は強く惹きつけられる。あからさまにそれを肯定することはせず、無意識にそっちの方向に気持ちが向かっているのだけど、それを遮るなにか。そのなにかがはっきり分からず、もがき、目の前にあるものを傷つける。生い立ちに原因があったのかもしれないし、それよりもまず、その、ぼんやりとしたものがはっきり見えなくて気持ちが悪くなります。

いや、そもそも、孤児院で育ったという点で、施設長とは圧倒的な差があったのかもしれません。生い立ちベースで人生が決まるというのは少しだけ同意します。だけどね。そこで諦めちゃうのはどうかと思うけどね。マイナススタートかよ、って知ったところで遣る瀬無い思いを抱いてしまって、そういう、むしゃくしゃした気分というのが、上の段落で書いた「ぼんやりしたもの」の根源なのかもしれません。私の読解力ではこれが限界です。

もしかしたらそういう世界とか、感情を知らないまま生き、死んでいったほうが幸せなのかもしれません。
だけど、人生に深みをもたせるのであれば、こういう系のものを知ることは、重要なことのように思えます。

星4つ

心に澱んでいる気持ちを残すことなく浚い、文章として作り上げた素晴らしさに対して付けています。この人が人気のある理由っていうのは、まだ3作目なのでにわか程度の感覚ですけど、そこなのかな。
あと、ひとつ上の段落にも書きましたけど「孤児院で育った男」「人を殺めてしまった男」「それを隠している男」そして、「死刑宣告を受けた男」が思い描いている(であろう)頭の中を知る必要は本来は無いのかもしれませんけど、そういうところを知ることで、人生における感動することに厚みが生まれるはずだ、という願望に対しても、星4つです。

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