「奥さんの強さは万国共通だ」恩師との出会い②
ピットさんに手紙を渡してから2〜3週間が過ぎた頃、返事が来た。
答えは「ノー」だ。そっか…。
なんでもここ最近は移民や不法労働の取り締まりが厳しくなり、ビザの取得が困難になっていること、また規則を破った雇い主にも多額の罰金があること、が理由だそうだ。
まだ何も決まっていないのに勝手に盛り上がっていたから多少は落ち込んだが、その反面「そんなにうまくいくはずないよな〜。」という気持ちもあった。
なら現地へ行って色々店を回って見てくるか、と気持ちを切り替え、当時のシェフに長期休暇を申請した。
フランスやベルギーを見て回って、いい店があったら交渉してみようと。
(言葉もろくに話せないくせにどうやって…)
それからまた数日が過ぎた時、休暇を申請していたシェフから「例の件大丈夫だって!」と言われた。
「休暇取れましたか! 良かった〜!」と喜んでいると、
「違う!違う!! ベルギー行きが決まったって、洋菓子協会の方にピットさんから返事があったって。やったやん‼︎」
「…⁉︎」
嬉しさよりも混乱した。
あれ⁉︎ だめじゃなかったの?
これはのちにベルギーに渡って、ピットさん家族と暮らすうちに分かったんだけど、マダム(ピットさんの奥さん)が後押ししてくれたんじゃないかと思う。
「ねえ、ピット。せっかくうちの店で働きたいっていう子がいるんだから、力になってあげましょうよ。いいでしょ?」(僕の妄想ね…)
ベルギー滞在中、ピットさんの背中を優しくさすりながら、そう諭す場面を何度も見た。
その後のピットさんの返事はいつも
「ウィ(分かった)」だ。
万国共通、奥さんの力が強いのだ。
「よっしゃ〜!!」
もやもやしていた思いが一気に晴れた。
あの時、あれこれ考えず話しかけて良かった。
行動あるのみだ。
ベルギーのパティスリー「ダム」。
行くことが決まってから知ったんだけど、有名な日本人シェフたちも修行をしていた名店だった。
恥ずかしい仕事はできない。身が引き締まる思いだった。
とはいえ労働ビザを取得するのはかなりの手間で、取得するまで半年もかかった。
ベルギーでもピットさんは何度も役所に足を運んでくれたみたいだ。
9月から働くことになっていたので、当時勤めていたホテルを7月いっぱいで退社し、残りの手続きを進めていたが、9月に入ってもなかなかビザが下りずすごく不安で焦っていた。(ほんとに行けるのか…)
不安の中で過ごしていた9月中旬、やっとビザ取得の連絡が来た!
その日のうちに旅行会社へチケットを買いに行き、慌ただしく3日後にはパリ行きの飛行機に乗っていた。
2004年9月、ようやくスタート地点に立てた気がした。
早くピットさんに会いたい!!
次回へ続く。
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