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「ジャムの旅 〜グレープフルーツ〜」
「やっぱり暖かいな〜。」
3月初旬。
宮崎空港から出た瞬間、優しくて暖かい風が顔に当たる。
春の匂いだ。
この冬は厳しい寒さが続いたから、南国の陽気で心が嬉しくなる。
初めて宮崎を訪れたのも3年前の3月で、その時も南国の雰囲気に感動したのを思い出した。
それからの3年間で世界の常識は大きく変わってしまったけれど、またこうして宮崎に来れたことに感謝だ。
昨年6月にも「ジャムの旅」で訪れた、日南市でグレープフルーツ栽培をされている「緑の里りょうくん」さんを目指して車を走らせる。
ヤシの木が立ち並ぶ日向灘沿いのドライブで、すっかりバカンス気分だ。
この後の怒涛のマーマレード作りからの現実逃避か…。
ちょうどこの日から気温がぐんと上がり、海岸沿いではサーファーたちが波乗りを満喫している。
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先週の徳島への「ジャムの旅」でもそうだったように、今回の宮崎も2度目なので、もう段取りは慣れたものだ。
迎えてくださる「緑の里りょうくん」の広報担当、田中さんもそれは同じ。
「今回はもう放置でいいですか?」
「自由に収穫しちゃってください!ハハハッ‼︎」
こんな感じである。
でもそれがめちゃくちゃ嬉しい。
親戚の家に遊びに来たみたいだ。
園主の田中良一さんは私用で不在だが、奥さんの聖子さんはワンちゃんと一緒に会いに来てくれた。
堅苦しい挨拶なんかはなくて、何気ない会話を楽しみ、ただただゆっくりとした時間が流れた。
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宮崎弁が好きだ。
なんとも言えない柔らかさ、温かさがある。
全国を巡っているので、その土地の言葉に触れる機会が多い。
東北、北陸、中国、四国、九州、それぞれに特徴があって、その言葉を聞くと日本の広さ、文化の多様さを感じることができる。
僕のジャムを口にして、その土地の景色や文化、人に思いを馳せてもらえたら嬉しい。
そんな物作りを続けていきたい。
放置プレイにされた僕はグレープフルーツ畑を独り占めだ。
新緑の中で揺れる黄色い果実は本当に美しい!
毎度のことだが一人でにやにやしている。
ブツブツ独り言が始まる。
「めっちゃいい匂いやん!」
「綺麗やな〜!」
「いやマジでやばいやろ!」
たぶん誰でもこうなるよ。
収穫が終わればすぐに加工場へ向かう。
もぎたての香り、閉じ込めるぞ!
柑橘は他の果物に比べて下準備に結構時間がかかる。
皮を何度も湯通しして苦味を適度に抜き、その後ひたすら刻む。
果肉と薄皮を分け、種を除く。
薄皮と種に含まれたペクチンを抽出する…。
ぐつぐつと煮える音。
トントンと包丁とまな板が当たる音。
それ以外は静寂。(田舎なので…。時には山奥の場合もある…)
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一人黙々と目の前の食材と向き合う。
忙しい東京でのレストラン業務ではなかなかできない。
食材と僕、一対一の真っ向勝負ができる。
ただ美味しさだけを追求できる、パティシエとして至福の時間かもしれない。
このジャムがお客様のもとへ届き、口にした瞬間のことをイメージし続ける。
そうするとあっという間に時間が過ぎている。
下準備だけで6時間だ…。
収穫時はぽかぽか陽気の眩しさだったのに、もう真っ暗だ。
軽く食事を済ませ、ここからが本番のマーマレード作りだ。
今回の加工場はガスコンロが一つしかないので、何度も同じ作業を繰り返す。
瓶の煮沸→マーマレード炊き→瓶詰め→煮沸
これの無限ループだ。
しんどい、でも楽しい、でも眠い…、いろんな感情で結局最後はハイになる。
そうなると独り言が始まる。
「めっちゃ美味しい!」
「熱っ!熱っ‼︎」
「あ〜マジで眠い…」
「いい感じやん!」
ブツブツ…。
夜明け前に仕込みが終わった。
収穫したてのグレープフルーツのコクとほのかな苦味。
愛媛から送ってもらった完熟ライムの優しい香り。
宮城から送ってもらったフレッシュミントの清涼感。
今回は複雑な味の組み合わせの「大人」なマーマレードができあがった。
かなりいい感じだ。
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空がほんのり明るいぞ。
これは間に合うな…。
車で10分もかからないところに港があり、そこから日の出が見れるのだ。
前回来た時も見に行って、その朝焼けの綺麗さに感動したのを覚えている。
日中は春の陽気とはいえ、朝はやっぱりまだ冷える。息が白い。
港に着いた頃にちょうど朝日が登り始めた。
そのまま大堂津海岸まで歩く。
期待どおりの美しい朝焼けが現れた。
すごい…。
眩しい朝日と砂浜に押し寄せる波の音で、仕込みの疲労感がじんわりと和らいでいく。
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「今日1日は日南でのんびり過ごすか…。」
と言いたいところだけど、昼の飛行機で東京へ帰らなければ。
30分ほど朝焼けを満喫し、加工場へ戻り怒涛のごとく片付けを済ませ、日南を後にした。
次はノープランの旅でのんびりするか…。
前回の宮崎への「ジャムの旅」はこちら↓
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