クリスマスイブ前夜の事件
十数年前の12月23日、クリスマスイブ前夜。
ベルギーのパティスリーで働いていた時の話。
菓子屋にとってもっとも忙しいのは、日本でもヨーロッパでも同じで、やはりクリスマスだ。
ベルギーへ渡り3ヶ月ほど経ち、仕事や言葉にも慣れて、ヨーロッパで迎える初めてのクリスマス。
クリスマスイブ前夜の23日は、夜11時から仕事が始まる。24日朝の開店に向けて、夜通しクリスマスケーキの仕上げを行うのだ。
1ヶ月以上かけて準備をし、「さぁ、やるぞー‼︎」と気合いが入っていた。
23日の昼に仕事を終えて、晩ごはんの食材を買いにスーパーへ。
いつもは簡単にパスタとかで済ませるんだけど、今夜は体力勝負だ。
ならやはり肉でしょ!ということで奮発。
450gのステーキ肉を購入。
(若かったな…。今は無理!)
ベルギーのスーパーではこのサイズのお肉は普通に売っていた。日本ではこんな大きなサイズはあまり見かけないけどね…。
やっぱり食べる量が違うんだね。
体デカイはずだわ…。
付け合わせはベルギーでは定番のフリット、いわゆるフレンチフライだ。
このフリット、レストランではなんとおかわり自由なのだ。
食べても食べても足してくれる。
さすがジャガイモ文化の国だ。
ガッツリ食べて、ひと眠りして夜に備えよう。
そう思いながらキッチンのフライヤーに電源を入れた瞬間。
バチッ‼︎
「⁈」
なんだか嫌な音が…
漏電か⁈
ブレーカーが落ちたみたいだ。
僕が住んでいたのは店から離れたところにある、大きな厨房の屋根裏部屋。
その厨房に隣接している離れ小屋のキッチンを使っていたのだが…
嫌な予感がした…。
心配になって厨房へ。
落ちてる!
オーブンも冷凍庫も成形したパンが眠っているホイロの電源も!
冷凍庫のクリスマスケーキがダメになる!
明日のパンもダメになる!
アイスも溶けてしまう!
「終わった…」
「クビだ。絶対クビだ。店を追い出される。」
どうしよう…、どうしよう…
電話だ。
とにかくシェフに電話だ!
あー、めちゃくちゃ怒られる。
なんて言えばいいんだ。
とんでもないパニック状態で、めちゃくちゃなフランス語で説明した。
「あー、またブレーカー落ちた?よく落ちるんだよねー。フライヤーでしょ?OK!すぐに行くから待ってて。チャオー。」
「…」
全然怒ってなかったな。
電話の向こうで笑ってたな。
なんだよ、最後のチャオーって…。
どうやらフライヤーのコードの調子が普段から悪かったらしい。修理しといてよ。とほほ…。
結局その夜は電気を使うのが怖くて、厨房に転がってる冷たいパンを食べてすぐに寝た。
それにしても一番の勝負どころを前に、どっと疲れてしまった。
まあ、その後問題なくクリスマスを乗り切ったから、終わりよければすべて良しだ。
毎年12月23日には必ず思い出すほろ苦い記憶。
みなさん、良いクリスマスを‼︎
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?