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趣味のデータ分析019_老後のための資産形成論②_金持ち爺さん、貧乏爺さん

前回は老後不安という心理的な側面に突っ込んでしまってあまり分析チックな話をしなかったが、今回は「老後のための資産形成」をテーマに、ちゃんとデータっぽい話をしていこう。今回は、前々回の分析を引き継ぐ形で、そもそも金融資産が世代別にどれくらい保有されているのか、というところを細かく見ていく。

「平均的には」金持ち

何度も使うが、図1の通り金融資産保有額は高齢になるほど高い。ある意味当然ではあるのだが、世帯主の性別や世帯人数でみても頑健な結果である。絶対水準で言うと、平均値や二人以上男性世帯主は、2000万円前後の金融資産を保有している。また、高齢になっても、金融資産はあまり取り崩されていない。

図1:性×世帯種類×年齢でみた家計金融資産(総額)

ただこれは平均値であり、上方偏位がある可能性が高い。家計構造調査の結果から、その中央値を見るとどうだろうか。

図2:性×世帯種類×年齢でみた家計金融資産(総額・中央値&平均)

見にくくて申し訳ないが、図2の棒グラフが中央値、白丸が平均値である。特に40代以降は、中央値は平均値の半分以下程度。所得の平均値・中央値の乖離より大きい感じである。ただ高齢になるほど金融資産保有額が多いこと、そして取り崩しのペースは中央値で見てもあまり早くないことに変わりはない。

さて、今回はさらにもうちょっと踏み込んでみたい。世代別の、もっと全体的な分布はどうなっているのか? それを示したのが図3である。

図3:年齢別家計金融資産保有額の分布

これは性別世帯種類含めた全世帯の分布で、色が濃いほど割合が高い。縦軸が保有金融資産、横軸が年代である。若いほど表の上の方が濃い、つまり金融資産保有額が低く、右に行くほど徐々に濃い部分が下の方に行く、つまり資産保有額が増えている。
一つ注意すべきは、多くの年齢で「貯蓄なし」の層が一番多いということだ。60-70代でも8%、30歳未満ではなんと19%、5人に一人が貯蓄なしである。正直個人的にこの結果にはかなり違和感があり、これについては別途検証をするつもりだが、いずれにせよ、年齢を重ねるに連れて、表の色が全体に広がっていく感じなのが分かると思う。また、高齢になるほど、平均値と中央値の乖離幅が大きくなっており、高齢になるほど家計金融資産の保有格差が大きくなっているように感じる。
いずれにせよ、高齢者のほうが金融資産を持っている、というのは平均的な姿であり、これに外れる高齢世帯も一定存在することには注意が必要だろう。

保有金融資産額分布総ざらい!

金融資産保有額の分布図は、厚労省の「国民生活基礎調査」と、日証協の「証券投資に関する全国調査」、そして金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」でも確認できるので、そちらでも確認してみよう。データ定義や計算法などの細かい話は最後の補足にまとめるとして、まずは各データの分布を一気に並べよう。ただし、金広委のみデータが単身と二人以上で完全に分離されているので、そこは分離したデータを示す。

図4:年齢別家計金融資産保有額の分布(国民生活基礎調査)
図5:年齢別家計金融資産保有額の分布(日証協)
図6:年齢別家計金融資産保有額の分布(金広委(単身))
図7:年齢別家計金融資産保有額の分布(金広委(二人以上))

まず全体的な傾向を見ると、高齢になるほど中央値(★)、平均値(◆)いずれも上昇しており、数の多いところ(色が濃いところ)も緩やかに下の方に移っている。つまり貯蓄額が多い世帯(人)が増えている、というのが分かる。また高齢になるほど、家計金融資産の平均値と中央値の乖離幅が大きくなっていることも同様である。

ただ絶対水準は実は悩ましいところがある。日証協の水準が全体的に低いのは、質問的に「あなたが現在保有している金融資産の合計額」で、世帯貯蓄を(必ずしも)問うていないのでそんなもんか、というところがあるが、金広委の調査は、実は水準が高い。
そもそも金広委の「金融資産」の定義は、日常生活の支出のための部分を除いており、低く出てしかるべきなのだが、例えば60代単身の貯蓄平均値は1860万円で、単身も二人以上もごちゃ混ぜの他の統計と遜色ない。単身のほうが貯蓄は一般に低くなるし、日常支出のための部分を除いたらなおさらなのだが、謎である。
水準感については、貯蓄なしの割合など他にも突っ込みどころが多いのだが、まあ結果は結果なので、これ以上はごちゃごちゃ言わないこととしよう。

まとめ

まず確実にいえるのは、高齢になるほど①貯蓄額が多い世帯(人)が増えている、②平均値と中央値の乖離幅が大きい、というのはかなり堅牢な事実であると考えられる。
「老後のための資産形成」という観点では、これまで資産形成だの何だのといわれなくても、①(若いうちから準備しなくても)自然体で資産は形成されるのでは?という疑問が浮かぶが、②の平均値と中央値の乖離幅の拡大が、仮に「老後になってから」の資産保有格差が大きいということを意味するのであれば、若いうちから資産形成せよ、というのは一応筋は通る。もちろん「どうやって」という部分は更に議論が必要だし、そもそも今すでに資産形成できてない高齢者をどうするんだという問題もあるけど、それについては稿を改めることとしたい。いずれにせよ、「老後のための資産形成」という施策は、平均を論じているだけでは意味のない政策であり、分布全体に目を配った議論がなされることを岸田先生には期待したいところである。

さて、では次回は、「②は事実か?」というところを確かめよう。これまでなんとなく高齢者のほうが資産格差が大きくなる、みたいなノリで述べてきたが、ちゃんとそこも数字で確認しておくべきである。色の濃淡なんて直感的な評価は…信用ならんとはいわないが、数字で示せるのなら数字で示すべきだし、実際に数字では示せるのだ。

補足・データの作り方について

上で並べたデータは手元で結構加工した部分があるので、最後に補足しておく。
まず元データは保有金融資産の年齢別保有額階層別のデータであり、元データの仕分けは各表の縦軸と原則同じ。ただし、家計構造調査の「貯蓄なし」については、家計構造調査内の、年齢別保有額階層別のデータとは別のデータソースから、まず各年代ごとの「金融資産保有率」を用い、金融資産を保有していない世帯割合=「貯蓄なし」を算出した。そのうえで、年齢別保有額階層別のデータの「25万円以下」の世帯割合から、「金融資産を保有していない世帯割合」を差し引いて、本データの「~25万円」の数字を作っている。

一方横軸は、日証協は5歳階層別のデータがしかなかったのだが、サンプル数のデータを使って10歳階層に統合した(家計構造調査は、5歳階層と10歳階層がもともとあるので後者を使用。また金広委は70代までしかデータがない)。
中央値については、階層ごとに累積世帯(個人)割合の表を作った上で、中央値が存在する階層について、一様分布を仮定して「配分」した。例えば300万円までの累積世帯割合が45%、400万円までが60%なら、{400*(60-50)+300*(50-45)}/(60-45) = 333万円が中央値、として推計した。
実際には一様分布ではないので、間違いなくズレが有るのだが、とはいえ各階層の真ん中の値で、とするには色々無理を感じたので、こういう配分で算出している。ただし金広委のデータはもともと中央値が取得できるので、それをそのまま使用している。
また、各階級の境界値については、いずれのソースでも上限について「未満」、下限について「以上」である。

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