趣味のデータ分析074_弱男 vs 弱女⑥_弱者男女の30年史b
前回、弱者男女の数や割合について、時系列で追ってみるという試みを始めた。弱者男女とは、要するに未婚低所得の男女を指す。
色々統計上の問題もあるのだが、結果、15歳以上無職込みのデータで分析すると、未婚男性については、所得階層別の数や割合について、時系列で大きな変化はなさそうだが、未婚女性については、高所得方向に分布が移り変わっていることが示唆された。
今回は、無職を除いた場合のデータをまず分析することから始める。
所得分布の時系列変化・無職抜き
さて、なぜ無職抜きとするかというと、今回のデータセットは年齢の区分が全くない。070~072で実施した分析でも、年齢は15~60歳で仕切ったが、今回のデータセットではそういう仕切りが出来ない(正確には、1997年以降しか出来ない)。なので、無職高齢者(特に女性)が、分布を大いに歪めてしまっているのだ。
そもそも年金を受け取っている高齢者がバイトとかで働いているパターンについて、仮に彼/彼女が低所得で未婚であったとしても、何というか、そういう高齢者を弱者男女と呼ぶには個人的には憚られる。あくまで弱者男女という呼称は、その呼称で殴っていい人に対する呼称で、これから穏やかに人生を閉じるフェイズに入っておられる方々(人生100年時代だと、むしろこれから、という人もいるだろうが、個人的にはやめて差し上げろ、と感じる)は、たぶんそういう呼称で殴っていい人ではない。
閑話休題。ともかく、まず本節では、無職抜きでの所得分布を、時系列でみてみよう。
未婚男性
前回確認したとおり、1997年のほうが若干テールが右に厚い。2022年になって、再び右側のほうがテールが厚くなっているが、1997年のほうが若干まだ厚いだろうか。1997年は、1000万円以上のところが跳ねているのは少し気になる。
その他男性
その他男性は、1997年のテールが明らかに右に厚い。400~999万円の部分で、1997年が実数、構成比ともに多年を大きく上回っている。詰まっているので分かりにくいが、2012年頃に分布形状は底を打ち、徐々に再度右に厚くなっている。
未婚女性
変動が大きく逆に分かりにくいが、300万円以上の厚みは、2022年が最も高くなっている。女性の社会進出、労働上の地位向上を分かりやすく示しているような気がする。ただ、1997~2017年の10年間は、分布に大きな変化はないように見える。また、1987年が異常に低くて気になるところ。100万円台が最も高水準だが、どういう生活環境だったのだろうか…
その他女性
無職を抜いてみると、女性の総労働者数が、分布全体の層の厚みという形ではっきり分かるが、構成比でみると、1987年と2022年を除くと、特に200万円以上の部分では分布はほぼ団子になっている。パート勤務の制約が、30年間機能し続けているということだろうか?
男性全体
さて、1987、1992年は、男性の配偶関係を分けてみることができないが、合算値なら見ることができる。これまでのグラフと若干ずれるが、無職込みと抜きで、男性全体を見てみよう。いずれも構成比である。
これを見ると、まず、1987年は明らかに所得が低い。そして、1992年~1997年に最も高所得寄りに分布が偏り、その後2007~2017年は、「1987年よりましだが1992年よりは低いくらい」で団子状態、2022年に、それよりちょっとマシくらいの水準になっている。
女性全体
同様のグラフについて、女性全体も掲げておこう。無職を含めるとどうしても無職の数が抜きんでるが、無職を抜くと、その他女性と同じく、「1987年と2022年を除くと、特に200万円以上の部分では分布はほぼ団子」という感じである。
統計量の時系列
では、これらの分布の中央値と平均は、どのように推移しているのか。無職を入れると、グラフの意味が薄められる(中央値が0になるカテゴリが出てくる)ので、無職を抜いたデータのみを示そう。
さっそく結論から。
中央値を見ると、これまで分布で何となく見たとおりが実際に裏付けられている。
男性については未婚かその他にかかわりなく、1997年がピークで、2012年で底打ち、その後回復しているが、1997年水準とはせいぜいほぼ同じ水準である。一方女性については、総数は2007年~2012年で一度低下しているが、これは明らかに、その他女性の労働参加率の上昇(=女性有業者内での構成比の上昇)に伴う現象で、個別にみれば、未婚もその他も、いずれもおおむね上昇トレンドが継続している。
ちなみに平均を見てみると、女性は中央値に比べ差異が少ない。未婚でもその他でも、女性は高所得方面の分布にあまりが違いがないからだろう。
逆に、男性は平均値について、未婚かその他で差が中央値より大きく、男性は未婚かその他で、高所得層の分布の差が大きいということになる。
さらに、未婚男性は、1997年から2007年の平均の下落が著しい。中央値も下がっているが、それ以上の下落である。これはつまり、未婚男性の高所得層が大きく減少したということであり、図1、2で、1000万円以上の未婚男性が消滅したことに要因があると考えられる。ただこれは、未婚定義の変化――高齢≒高所得の離死別した男性が、1997年時点では未婚に含まれており、そのために高所得の分布が多くなっている可能性があり、推論は慎重になされるべきだろう。本当に、この未婚とその他の定義に切り替え問題は面倒くさい。1997年以前は、有配偶のデータしかないが、2007年以降は逆に、有配偶のデータを切り出すことはできない(総数と未婚のデータしかない)ので、完全な断絶になってしまっている。
まとめ
今回は、無職抜きデータの分布の時系列調査と、特に中央値と平均の変化を見てきた。データからは、特に以下の2点がわかった。
・男性は1997年に、未婚その他を問わず、所得の中央値も平均値も高止まりし、2012年にかけ減少、その後回復したが、せいぜい1997年の水準に戻った程度である。
・女性は未婚その他ともに、1987年から継続的に、分布全体の意味で、所得が伸び続けている。
ここで、もともとのテーマの弱者男女という意味では興味深い指摘ができる。もともと所得の中央値ベースで弱者性を定義していたが、1997年ベースの基準だと、特に男性は、圧倒的に弱者が増加するのだ。1997年の未婚男性の所得中央値は320万円だったが、2012年では283万円である。年収300万円の人が、2012年基準では弱者ではないが、1997年基準では丸ごと弱者になってしまう。こんな感じで、過去基準ベースで弱者性を定義してみると、なかなかな阿鼻叫喚が見れそうな気がする。
逆に女性は、過去基準ベースではどんどん弱者が減少している。もちろん男女格差は引き続き強力に残っているのだが、改善傾向にあることを指摘しておくことは無駄ではないだろう。
またここで気になってくるのは、空白の2002年に何が起きたのか、というところである。これまでのデータと歴史的事実を鑑みれば、男性の所得構造に変化が起きたのは、バブル崩壊後ではなく、1997年~2007年の10年間である。
バブル崩壊が日本経済に大きなダメージを与えたのは勿論そうだが、賃金という面でいえば、むしろ変曲点は2000年前後であった可能性が高い。時期的には、山一破綻やアジア通貨危機、ドットコムバブルとその崩壊らへんである。
実際賃金統計上、1998年は、1977年以降初めて、男性の所定内賃金の伸び率がマイナスになった年であり、1997年の分布の右伸長は、その直前の最後の徒花であったともいえる。賃金問題は、データの扱いなども非常に難しいので、あまり分析したくないのだが、特に男性賃金の頭打ちについては、またどこかで振り返りたいと思う。
補足、データの作り方
出所は就業構造基本調査と、賃金構造基本統計調査から。
就業楮基本調査の扱いは前回並びだが、賃金構造基本統計調査の賃金推移については、2019年にナイトクラブやバーが追加されたこと、2020年に推計法が変更されたという不連続性がある。ただ今回のグラフでは、その辺は一切触れず、生の数字でそのまま変化率を取得している。
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