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趣味のデータ分析049_子どもを持つということ⑮_結婚と仕事と学歴b

前回「配偶関係×所得×学歴の公的データは、瞥見の限り確認できなかった。」とか書いたが、普通に存在に気づいてしまった。経年では取得できないのだが、2022年の就業構造基本調査で普通に取得できた。何たるミス。
というわけで、今回はその反省から。

所得と配偶関係

ただ、荒川氏は2017年のデータも存在しているのだが、私は確認できてない(めっちゃ自信ないけど)。どうやって取ったんだろう。ともかく、2022年分だけグラフを復元した(図1)。所得別生涯未婚率(50歳の未婚率)である。データ上50歳の数字はないので、50~54歳の数字をそのまま採用した。

図1:所得階層別未婚率(50~54歳)(2022年)
(出所:就業構造基本調査)

結婚と所得の関係では、このグラフが「カネがないと結婚できない」ことを示しているとされる。形状的に男女がクロスしているのが興味深く、男性は低所得のほうが結婚できず、女性は高所得のほうが結婚できない…となっている。実際、男女の未婚率がクロスするのは年収400万円台で、ただこれ、見せ方でまた印象も色々変わる。所得の累積分布を取った場合が図2、頭数の単純分布が図3である。
図2のとおり、50%地点を越えるのは未婚男性より未婚女性のほうが早い(グラフの左側にある)。つまり、分布上未婚女性のほうがそもそも稼ぎが少ない。500万円以上の所得がある未婚女性は10%程度しかいない。図3のとおり、絶対数では男性の方が多く、200万円以上のすべての所得階層で、依然同水準またはより高所得の男性を「選べる」立場にある。なんせ、未婚女性は年齢ごとに急速に減るのだから(図4。ただし地域性は別)。
「上昇婚」については、定義からして複数あって複雑なんだが、50歳での年収の意味での上昇婚は、マクロの数合わせ的な意味では十分可能である。

図2:所得階層累積分布(50~54歳)(2022年)
(出所:就業構造基本調査)
図3:所得階層分布(50~54歳)(2022年)
(出所:就業構造基本調査)
図4:未婚者数分布
(出所:国勢調査)

というか、既婚男性の稼ぎが多すぎるのではないか。このデータからだけで男女配偶関係別の平均所得をざっくり計算したが、圧倒的である。

表1:男女別平均所得試算(千円)
(出所:就業構造基本調査)

学歴、所得、地位、配偶関係

さて、ともかく今回、配偶関係×所得×学歴×年齢×職業上の地位のデータが単年だが入手できたので、他の変数をすべて統制して、純粋に所得の影響を取り出せる。
前回確認できたのは例えば、男(女)性の未婚率が学歴に比例(反比例)していること(図5)、既婚と未婚で、正規職員割合の大卒高卒差に差がある(図6)、ということだった。これは純粋に所得の問題なのだろうか?

図5:性別学歴別未婚率の、同性同年代平均との差(有業者のみ)
(出所:就業構造基本調査)
図6:正規職員割合の、大卒と高卒の差
(出所:就業構造基本調査)

まずは、所得ごとの人数分布等を見てみよう。
最初に有業者全体の分布と人数(図7、8)をみると、正規職員では
男女ともに、所得構造に学歴の差、特に大卒か否かの差が大きく、学歴が上がるほど高所得の割合が大きくなっている。
男性では、年齢ごとの高所得者の増加(色の薄い線より、濃い線の右テールが厚くなる)が、どの学歴でも概ね機能しており、大卒にその傾向が特に強い。
・女性では、割合ベースでは同様の傾向はあるが、人数ベースでは右側が厚いというより左側が薄い形になっている(要するに、全体が減少している)。大卒では特に明瞭。
他方、非正規職員では、上記の特徴がいずれも見られない。学歴が上がろうが年齢が上がろうが、分布はほとんど差がない。
また特に人数について、学歴に関係なく、男性非正規職員は女性の非正規職員より圧倒的に少ない。

図7:有業者の性別地位別分布
(出所:就業構造基本調査)
図8:有業者の性別地位別人数
(出所:就業構造基本調査)

しかし、同様のグラフを、未婚者に絞ってみると、やや様相が異なる。比較をわかりやすくするために、未婚の分布(図9)、及びその既婚との差(図10)として示そう。総数と比べると、
男性の未婚有業者において、特に30歳以降の大卒男性の高所得への偏りが大きく消滅。ただし、それ以下の学歴に比すと、年齢の上昇による年収の増加の程度はまだ大きい。
・結果、男性正規職員では、400万円以上なら既婚、それ未満では未婚がほぼ全年齢、全学歴的に多い。
男性非正規職員は同じく300万円以上なら既婚、それ未満では未婚がほぼ全年齢的、全学歴的に多い。
・女性正規職員はまちまち。
・女性非正規職員は、200万円以下で既婚、それ以上では未婚の方がほぼ全年齢的、全学歴的に多い。

図9:未婚有業者の性別地位別分布
(出所:就業構造基本調査)
図10:有業者の性別地位別分布の、既婚と未婚の差
(出所:就業構造基本調査)

繰り返すが、正規職員になるか否かにおいて、配偶関係が問われることはほぼないはずだ。実際、女性についてはそうした関係はほぼ見られない。男性正規職員について、既婚か未婚かで分布に大きな差が見られるというのは、非常に不思議である。
またこの分布でみる限り、25~39歳の範囲では、年齢や学歴が、分布の割合上「既婚と未婚のどちらが多いか」に影響を与えている感じはあまりなく、単純に所得のみがしきい値になっているように感じられる。

さて、分布の謎は多いが、一旦学歴と既婚率について改めて確認しよう。図5では、男性の未婚率が学歴に反比例している、つまり特に30歳前後以降で、学歴が低いほうが未婚率が高いことを見たが、これは所得や職業上の地位で仕分けても主張できるのか?
まずは、職業上の地位だけで仕分けてみよう(図11)。この仕分けでは、正規職員では35歳以上から高卒の未婚率が高いが、非正規男性では概ね大卒のほうが未婚率のほうが高い。この正規と非正規の特徴が合わさって、図5では、30~34歳から、高卒の方が未婚率が高いという形に収まったのだろう。

図11:有業者の未婚率の、大卒と高卒の未婚率の差(性別職業所の地位別)
(出所:就業構造基本調査)

さて、では本丸である、職業上の地位別所得別ではどうか。これを示すのが図12である。

図12:有業者の大卒と高卒の未婚率の差
(出所:就業構造基本調査)

驚くべきことに、高所得の非正規職員を除き、所得、地位に関わらず大卒のほうが未婚率が高い。図5とは真逆である。ただ、これは絶対値でみるとまた面白い(図13)。
正規職員の未婚率が、ほぼ完璧に年収に比例している。短大・高専等以上の25~29歳層では、未婚率が高いが、高卒や30歳以上では、きれいに年収比例で未婚率が下がる。一方で、非正規でもそういった傾向は見られるが、400万円台まで見ても未婚率は50%前後と比較的高い。男性非正規職員で年収400万円以上は、大卒35歳でも10%に満たず、ほとんどいないレベルなのだが。また、同じ年収でも、正規と非正規では、概ね正規職員のほうが未婚率が低いこともこのグラフから分かるだろう(図17も参照)。

図13:有業者の未婚率(男性・職業上の地位別年収別)(2022年)
(出所:就業構造基本調査)

最後に、図12と図13からほぼ明らかだが、職業上の地位を除いてグラフ化する(図14)と、全面的に大卒のほうが未婚率が高くなる(500万円以上の収入かつ35歳以上では、ほぼ差はなくなる)。ただし、絶対水準では(図15)年収が高くなるほど、全年齢、学歴でリニアに未婚率は下がる。

図14:有業者の大卒と高卒の未婚率の差(男性・年収別)(2022年)
(出所:就業構造基本調査)
図15:有業者の未婚率(男性・年収別)(2022年)
(出所:就業構造基本調査)

まとめ

さて、大量かつ野放図にグラフを並べてきたが、まずは学歴と未婚率の関係について結論を出そう。
・(図6)高卒の方が非正規率が高い。
・(図9)非正規職員のほうが年収が低く、かつ年齢や学歴による年収の差(伸び)が少ない。逆に正規職員では、年齢が上がると所得が多い層が増えるが、非正規ではその傾向が見られない(明確化のため、図16でも掲げておく。わかりにくいが、年齢層で年収分布を取ったとき各年収層が占める割合について、35~39歳と25~29歳で差分を取ったものである)。
・(図11)学歴別でみると、特に35歳以上の正規職員では、学歴が高いほうが未婚率が低い。
・(図12、14)職業上の地位と年収が同じ条件では、高卒の方がむしろ未婚率が低いし、そもそも同一所得でも高卒の方が未婚率が低い。
・(図13、15)同一の年収でも、正規より非正規のほうが未婚率は高い。ただし、年収が上がると全年齢、学歴で未婚率はリニアに下がる。

図16:未婚有業者の、35~39歳年収と25~29歳年収の割合の差分(2022年)
(出所:就業構造基本調査)

以上から、
①(条件を整えれば、)学歴は低いほうが未婚率は下がる。
②年収は高いほうが未婚率は下がる。
③学歴が低いと非正規率が上がり、また非正規は年収が低いことが多い。
④年収の上昇による未婚率の下落(②)は、学歴の上昇による未婚率の上昇(①)を上回る効果を持つ

ため、結果として(マクロで学歴別にみると、)学歴が上がるほど未婚率が上がる、という形に落ち着く、といえる。思った以上に複雑な構造だった。

更に踏み込んで言うと、図12や14で分かる通り、25~29歳では、年収が高い層でも、高卒の未婚率がそれ以上の学歴に比して遥かに低い。要するに、上記②の効果が発揮されるのは特に30歳以上で、それは図5でみた学歴による未婚率の差が、30歳以上で逆転することと完全に符合する(実際は25歳~29歳でも、各年齢で未婚率には相当差があると思うので、もうちょっとミクロに見たほうが良いかもしれないが、年齢区分はこれ以上細かく取得できない)。
また、図13のとおり、同じ年代、年収でも、正規職員のほうが非正規職員より概ね未婚率が低い(図17でも明確化)ことを踏まえると、「正規職員か否か」も、結婚の相応の条件になっているように感じる。

図17:有業者未婚率の、正規職員と非正規職員の差(2022年)
(出所:就業構造基本調査)

これらを踏まえると、結婚には年収が一定水準以上(図10からみると、300~400万円が一つのボーダーか?)あることだけでなく、「正規職員である」、つまり「これから年収が伸びる」という期待感も必要なのではないか?(もちろん、正規職員のほうが待遇等が安定している、という点が考慮されている可能性もある)
その場合、「若い層の年収を増やす」のは、婚姻率を上げる直接的な方法ではあるが、「非正規でも年収が伸びる」という期待を形成していく、つまり「非正規でもスキルアップして年収を伸ばす」というモデルを作っていくことも有効なのではないか(というか、大昔のフリーターとかは、もっと「自分のスキルで稼ぐ」という職人的イメージだったと思うので、長期的な目線では、むしろ非正規がこういうモデルじゃなくなった、というべきかもしれない)。まあこういう人たちは、非正規というより、一部の有能派遣とかフリーランス系なのだろうが。

ただ個人的には、こっちの手法のほうが「若い人の年収を増やす」というふわっとした話よりはまだ現実的だと思う。なにせ、若い人≒スキルのない人であり、そこの年収をあげるということは、(年功序列でなくとも)全雇用者の給料を上げるということに等しい。ま、退職金積立という謎の制度を取っ払ってその分を普通に給料に回せば多少は上がるかと思うが、特に若いうちはたかが知れてるだろう。
なお、非正規の正規化を進めるという話でも良いが、これは若干放湿的ではないと思っている。そもそも正規と非正規は定義も明確でないし違いも定かではないのだが、基本的には働き方の差と、それに起因する賃金の差、そしてそれに基づく基本的な(法令で定められている)社会保障等の有無が違いである。そして、フルタイムでなくともある程度の規模の会社で、ある程度長時間働いている場合、社会保証の有無は正規職員と変わりなくなる。非正規の正職員と比べた(結婚における)差は、給料水準が低い、昇給がない(ことが多い)、雇用が不安定であることだと推察されるが、実際のところ、それは正社員にも起こりうるもので、非正規はその割合が高い、ということに過ぎない。非正規を正規に転換しても、こうした不安定性が直ちに転換するとは考えにくい。個人的には、むしろ非正規でも不安定性に負けず生きる、というビジョンを提供するほうが良いと思う。
またこれは、無能なおじさんおばさんが偉そうに高給でのさばっている、ということとは無関係である。もちろん代わりに、有能な若者の給料を上げることは有意義だが、無能な若者には関係ないし、それは、婚姻率を引き上げる、という文脈での「若い人の年収を増やす」こととは異なるだろう。
そういう意味で、副業とかリスキリングとかはもっと促進されて然るべきと思う。ブルーロックでも言ってるとおり、能力は掛け算で考えるべきで、単一の能力だけでなく、様々な能力を組み合わせることで、より簡単に差別化して強みとなるのだから。

超絶長くなったが、個人的に学歴と結婚、ついでに年収の関係については割と整理できたので、これで一旦終わりとする(上昇婚はまだ気になるけど)。次からは、「そもそも結婚に金が必要なのか」というところを見ていきたいと思う。

補足・データの作り方など

前回同様データソースは国勢調査就業構造基本調査。仕分けも前回と同じ。

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