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趣味のデータ分析053_男女賃金格差の謎④_職種・学歴は重要か?

これまで年齢や職階による、男女の賃金格差の検証を行い、勤続期間の差、職階の差、年齢の差、業種の差、企業規模の差を全て統制したとしても、男女の賃金差は50%程度しか説明できない(だろう)という結果を得た。
残り50%を記述統計量から説明するのは、まあデータの関係で無理なのだが、職種というデータが賃金構造基本統計調査から取得可能なので、こちらの分析をしてみよう。

何のデータを使用できるか?

職種は、職階と比較的近い概念で、事務職か、研究職か、営業職か…という区分である。職階は部長、課長、非役職みたいな区分で、職種データでは多分「管理的職業従事者」という区分に入っていると思う。また業種とも親和性があり、詳細データでは「金融営業職」「自動車営業職」とかの区分も存在する(そこまで詳細じゃない場合も多い)。
これまでの検証では、隣接概念である職階、業種のデータを取得していること(この2つのクロスは取れなかったけど)と、職階のデータについて、他の要因とクロスであまり取れなかったことから、直接検証とはしなかったが、思った以上に052までで説明できた男女の賃金格差が小さかったので、分析をやってみたいと思う。

検証方法については052と完全同じ方法とする。なお詳細は末尾にまとめるが、最大の問題は、基本的なユニバースが常用労働者(正規職員+非正規職員)になっていること。さすがに所定内給与とはいえ、正規か非正規かは、給与の差も男女の数も違いが大きいので、一緒には分析できない。一応雇用形態別のデータもあるのだが、その場合ほとんどクロスデータが取得できないし、何より肝心の職種のデータが粗すぎて使い物にならない。
ここでは涙を呑んで、雇用形態の差を一切無視して分析することにする。その場合、クロスで分析できるのは、(詳細な)職種と性に加え、規模と「経験年数」である。経験年数は、これまで分析してきた勤続年数とは異なり、当該職種で勤務して何年か、という指標である。他業種での経験も含むので、場合によっては勤続年数より長くなる。また、規模別は前回見た通り格差にほとんど影響を与えていないので、今回は統制対象としない。よって、統制するのは職種と経験年数のみである。

職種別男女格差の実態

最初に、職種別で仕分けたときの、全体の男女格差の状況を確認しよう。全体をグラフ化するのは無理があったので、表1、図1のように表示する(表1は、黄色が100%以上、橙が90%以上、薄青が60%以下、水色が50%以下)。並びは労働者数が多い順で全部で145種類、合算すると常用労働者全体となっている。
驚くべきことに、こんだけ職種があって女性の方が給与が高いのは美容サービス・浴場従事者(美容師を除く)、保健師、航空機客室乗務員の3種類だけ。差があると言っても、前者2つは5万円以下、3%以下の差である。航空機客室乗務員(要するにスチュワーデスさん)は82万円、30%以上の差があるが、これは男性乗務員の経験年数が1~4年しかいないというのに多分に原因がある。ていうか、「美容サービス・浴場従事者(美容師を除く)」てなんだろう。銭湯従業員?若干性的なかほりもするが、だったらもっと給与差ついてるような気がする。
業種別の構成比としては70%台が多く、全業種のうち約半数の74業種がここに属する。

表1:業種別平均所定内給与(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図1:男性を100とした場合の女性の給与水準の分布(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

人数ベースで言うと図2で、格差が90%以内の職は女性も比較的多い(図示しているのは各性別内での構成比だが、実数でも女性が多い)が、実際に労働しているボリューム層は70~75%台で、40%近くを占める。この階層で労働者数が多い職種としては、販売店員、総合事務員、営業・販売事務従事者、食料品・飲料・たばこ製造従事者、庶務・人事事務員、その他の運搬従事者、生産関連事務従事者、飲食物調理従事者、企画事務員等が並ぶ。飲食系と事務系と、さもありなんというか…非正規職の女性が多く勤めてそうな感じがすごい。

図2:男性を100とした場合の女性の給与水準別労働力分布(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

平均だけを見ると、同様の定義で取得できる2020年~2022年で図3のようになっている(ラベル化したのは2021年)。時間軸での差はほぼなく、全体では80万円、25%前後の差である。経験年数でも並べてみたが、経験年数0の時点でまず差があるうえ、経験年数が上がるほど差が大きくなる(0年時点では54万円の差が、15年以上で98万円まで拡大)=男性の方が経験年数による給与の伸びが大きい、という結果となった。

図3:職種別データに基づく平均所定内給与
(出所:賃金構造基本統計調査)

前整理が長くなったが、052と同様の処理を行った場合、男女格差はどれくらい埋まるだろうか。結果は図4で、約23万円、26%の格差縮小となった。
期限の定めのある職員が含まれており、前回の結果と比較するのも難しいが、改善度が高いとは言えないだろう。

図4:常用雇用の男女の平均賃金と補正後女性平均賃金(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

まとめ

データの質が悪いのはあるが、それでも職種は25%程度の影響しか持たなかった。職種は業種・職階との相関、経験年数は年齢・勤続年数と相関しているだろうから、仮に職種と経験年数を統制に加えても、052で得られた50%の格差縮小が、70%とかになるとは考えにくい。というか、実質ほぼ影響はないだろう。賃金格差の小さい職種に女性が比較的多い、というのは一つの発見だったが、ボリューム層でもなかった。

ちなみに不完全燃焼感が強かったので、これまた052でオミットした学歴による統制もやってみたが、図5のとおり、ほとんど効果はないし、何なら全統制の結果は、052より悪化している。

図5:期間の定めのない男女の平均賃金と補正後女性平均賃金
(出所:賃金構造基本統計調査)

男女の賃金格差は、公表データで分析できたのはせいぜい50%で、残りはなんか色々他の事情がありそうだ。

なお、今回の職種は、③資格の差に近い概念のデータとして分析してみたが、その場合、資格の賃金への影響はあまりない、ということでもある。実は同様の結果を示唆する分析が、「職業に関する資格所持の有効性の検討」と題して労働政策研究・研修機構(JILPT)の報告書内で2010年に提出されている。詳細はここ
より最近のサーベイ論文では、資格が賃金に上昇効果をもたらす、という結果もあるようだが、上昇を示唆する論文もリーチは必ずしも広くなさそうで、なかなか解釈は難しい。

あと一つ、賃金構造基本統計調査からは、賃金の分布に関するデータも取得できるので、最後にそれで遊んで、このテーマは閉じようと思う。

補足、データの作り方等

いつも通り、賃金構造基本統計調査がソースである。
今回の職種別データは、時系列で大きな断絶があり、今回は2020年以降でデータを整理したが、それ以前では、職種の区分法だけでなく、おそらくカバレッジがまったく異なる。というか、2019年以前のデータは、雇用形態とかについて、何をどこまでカバーしているのか、まったくわからない。少なくとも労働力総数がやたら少ないので、かなりカバレッジが狭いことは間違いない。
またクロスで取得できる範囲だが、そもそもこの職種別データは、小区分、大区分、そして特掲という3種類の形で公表されており、それぞれクロスで取得できるデータが異なる。大区分は雇用形態や複数のクロスも取得できるのだが、小区分をサマライズする形で整理されており、不詳含め12区分しかない。さすがに粒度が粗すぎて使い物にならなかった。この粒度なら、業種別とほぼ同じである。実際大区分なら、業種とのクロスが取得できるが、大体の職種が特定の業種に偏っており、業種別と対して変わりない結果になりそうである(大区分で、期間の定め無しのみ取り出してごく簡単に検証したところ、効果はプラスだが、学歴よりちょいマシ程度の補正効果しかなかった)。
特掲は、小区分のうち106個だけ抜粋したデータ群…2/3カバーしているので、抜粋と言いつつ結構多い。そして、いまいち抜粋基準がわからない。基本的には労働力数が少ないものが落ちているようだが、別にその順で落ちているわけでもない。特掲は小区分とクロスの種類がさほど変わるわけでもない(経験年数×年齢のみ追加)し、どの職種が落ちているかは有効水準の問題なんだろうが、クロスの種類が微妙なので、いまいち有用性を感じなかった。ちなみに特掲でも平均賃金を計算したが、小区分との誤差は2%くらいなので、その意味で使えないということはないと思う。

もともと検証したかったのは正規職員の男女差(非正規は勤務のあり方含め多様すぎるので)で、職階別はまあ許容範囲として「期限の定めのない雇用」でデータを取得したが、今回は常用雇用しかなかったのは辛い。まあ145種類もの職種で別れているので、致し方ない部分もあるだろうが、せめて正規職員か非正規職員かは分けてほしかった。でも大区分はやっぱどう考えても使いもんにならねぇんだよなぁ。。。。

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