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Vol.4 日本酒の造り方について

※蘊蓄を語る上での基礎知識として簡易的なイメージを持ってもらう事を目的に記載していますので、正確性に欠けます。細かい本当の工程を知りたい場合は本やサイトで別途お調べください。

1.日本酒の始まり

 日本酒種の原材料は、日本人の主食”米”です。これまで(vol.3まで)を読んでいた方は、ピンと来たと思いますが、お米=炭水化物=でんぷんですので、そのままではアルコール発酵が起きないです。という事はその昔どうやってお酒を造っていたか?が気になりますよね。

 という事で、記述の残っているもので古いものWikipediaから引用して記載しておきます。参考までに。

①口嚼ノ酒
 ”『大隅国風土記』逸文(713年(和銅6年)以降)である。大隅国(今の鹿児島県東部)では村中の男女が水と米を用意して生米を噛んでは容器に吐き戻し、一晩以上の時間をおいて酒の香りがし始めたら全員で飲む風習があり、「口嚼(くちかみ)ノ酒」と称していたという。口噛み酒は唾液中の澱粉分解酵素であるアミラーゼ、ジアスターゼを利用し、空気中の野生酵母で発酵させる原始的な醸造法であり、東アジアから南太平洋、中南米にも分布している。現代日本語でも酒を醸造することを「醸(かも)す」というが、その古語である「醸(か)む」と「噛(か)む」が同音であるのは、この口嚼ノ酒に由来すると言われているが、異説もある”

②カビ(麹)の酒

 ”『播磨国風土記』(716年(霊亀2年)頃)である。携行食の干し飯が水に濡れてカビが生えたので、それを用いて酒を造らせ、その酒で宴会をしたという記述が見える。こちらは麹カビの糖化作用を利用した醸造法であり、現代の日本酒のそれと相通じるものである。このように、奈良時代の同時期に口噛みによるものと麹によるものというふたつの異なる醸造法が記録されている。のちの万葉集(759年以降成立)にも濁り酒、黒酒、白酒、糟湯酒などが歌の中で読まれている。”

 vol.3までを読んでいた方は上記見て、なるほどと思ったので花入でしょうか?①の口噛み酒はまさしく、小学校の実験のごとくご飯を噛んででんぷんをブドウ糖に変換。②の麹(こうじ:カビ)はカビ自体が糖化作用をもっており、お米に麹を付けることででんぷんをブドウ糖に変えています。いつもながら昔の人の知恵というか観察力、洞察力には頭が下がります。良くこんなことに気がつきましたよねー。ただ、当初は現在のように透明な清酒ではなく、どぶろくのような濁ったものだったと思います。

2.日本酒造りの工程(きもと造り)と用語について

 1.で昔ながらの造り方で麹を使ったものや口噛みが出てきましたが、現在の主流は麹を使ったものになっています。これまでの流れだと、

お米(デンプン)
 ↓ 麹と水を加える
ドロドロになったお粥になった様なもの
 ↓ 酵母を加える(アルコール発酵)
日本酒の素

といった感じで、デンプンを糖化させて、その後に酵母を加えてアルコール発酵させるイメージかと思います。もちろんそれでも作れると思いますが、日本酒造りにおいては世界においても稀有な平行複発酵を行っています。これは、その名の通り『デンプンを糖化させる事』と『ブドウ糖を酵母でアルコール発酵させる事』を同時に行っています。
 
両方がうまく同時に進行するためには諸条件があり、それらをバランス良くコントロールしなくてはいけない為、高度な技術が必要となります。その為、杜氏といった専門の方がそのコントロールを行い、技術を引き継いできたということがあります。

では最初に昔ながらの作り方での工程を説明していきたいと思います。ちなみにこの昔ながらつくり方のことを『生酛(きもと)造り』と呼んでいます。細かい部分でい色々とありますが、まずは、ざっくりと把握して貰えればと思います。
日本酒は色々と聞き慣れない難しい言葉がでてきて、その意味がわからないことによってブラックボックス化している部分があると思っています。実際に私も勉強し始めた当初、全然意味が分からなくて直ぐに諦めた経緯があります。実際に蔵に見学にいき、自分で作業を行わせていただいた事でその作業の内容や意味合いがやっと分かったという感じでした。
過去に私がまとめたきもと作りのまとめサイトも下記に添付しておきます。

https://matome.naver.jp/odai/2149309936032225801

 ということで、最初にこれから出てくる言葉の説明を先にしたいと思います。

①麹菌(こうじきん)
 一時期塩麹とか流行りましたよね。あとは麹味噌とか言葉は良く聞きますが、それ何?と言われると結構、説明困るかと思います。凄〜くシンプルに覚えてもらうとすると『でんぷんをブドウ糖に分解してくれるカビ』だと思ってください。

②米麹(こめこうじ)
 蒸したお米に麹の素を振りかけ、コメの表面や中にじっくりと麹菌を育成させたものです。この米麹が育って、お米のデンプンを分解していく為の種となります。実は、この麹がお米にどういった形で付着させるか?が今後の工程ですごく影響してきます。細かいことはさておき、この米麹作りが日本酒つくりにおいては非常に重要だという事は覚えておいてください。

③乳酸(菌)(にゅうさん(きん))
 乳酸菌自体は、ヨーグルトの宣伝でよく出てくる言葉なので、聞いたことはあると思いますが、意外となんの働きをしているのか?はよく分かっていないかと思います。
 乳酸菌は、糖類をたべて乳酸を出す&悪臭の原因となる腐敗物質も排出しない菌の事を言います。だから善玉菌とよく表現されているんですね。
乳酸を出すことによって周りを酸性にしてたの微生物の繁殖を抑える役割をします。
 昔ながらのお酒造りでは、空気中に漂う乳酸菌を取り込み、それを増殖させることによって腐敗菌の繁殖をおさえる役割を担っています。
 近年のお酒造り(速譲作り)では、最初からこの乳酸(菌ではない)を材料に加えることによって腐敗菌の増殖を抑えています。これによって安定的に品質の高いお酒を造ることができるようになっています。一方で、より蔵のオリジナリティーを出そうということであえて昔ながら蔵に住んでいる酵母や乳酸菌を取り込んでのお酒造りも増えてきています。
 
 ビールの作り方の所でビールを糖化させた後にホップを加えたかと思いますが、この乳酸を加えるといったのが同様の機能を果たしています。ワインの所では、簡素化の為に割愛したのですが、ワインも醸造の過程で腐敗を防ぐために亜硫酸を添加していますが、こちらも同じような役割です。これらを対応させていくとどのお酒も同じような考え方で造られていることが理解できるかと思います。

④精米(歩合)(せいまい(ぶあい))
 お米の表面をけづることを精米といいます。玄米の表層の部分は栄養価は高いですが、味的には雑味となる成分を多く含んでいます。そこで日本酒を作る際は、より多く磨いた方がすっきりとして雑味の少ないものが出来ることから、この精米を行います。もちろん削れば削るほどクリアな味わいになりますが、その分お酒になる部分が減るためより高価なお酒になります。
 また、どれくらい削ったのか?を表す指標として精米歩合というものがあります。こちらは
 精米歩合 = 精米後の重量 ÷   玄米の時の重量 × 100 (%)
で算出します。仮に20%分を削ったお米の場合は、残っているのが80%になりますので、精米歩合80%と表現されます。
 仮に精米歩合80%と40%のお米があったとして、それぞれが仮に400gあったとしたら、それを作るのに必要な玄米の重量は違うということです。

 精米歩合 80% で 400g  なので、玄米としては500g必要
 精米歩合 40% で 400g  なので、玄米としては1000g必要

になりますので、精米歩合が低いお酒の方が同じ量のお酒を作る際には
「より多くのお米が必要=原価が高くなる」ので必然的に売値も高くなり、高級となるといった事が分かると思います。
 ここで重要なのは、精米歩合が低くなると絶対に原価が上がるので価格が高くなりますが、それが美味しいかどうか?は飲む人の好み次第ということ。味に関しては、感じ方は千差万別なので絶対はありません。
 作り手の方の思いの入ったお酒に値段は関係ありません。どんなお酒も大切に飲んで欲しいと思います。
 
 ※参考:お米の精米歩合によって名乗れる特定名称が変わります。
  普通酒 :規程無し(一般に73~75%程度)
  純米酒 :規程無し(※2004年以前は精米歩合70%以下)
  本醸造酒 :70%以下
  特別本醸造酒 :60%以下
  特別純米酒 :60%以下
  吟醸酒(純米吟醸酒) :60%以下
  大吟醸酒(純米大吟醸酒) :50%以下

⑤酒母(しゅぼ)
 こちらは、字のごとくお酒造りの母となるべきもとになる材料のことで、アルコール発酵をする酵母を大量に増殖させたものです。
 米麹と水、そこに蒸米を加え、櫂をつかって米や米麹を磨り潰していく作業を行います。この磨り潰す作業の中で空気中の乳酸菌を取り込まれやすくなり、その結果、大量の酵母と乳酸菌の入ったどろどろの液体=酒母(しゅぼ)が出来上がります。

 ちなみにこの磨り潰していく作業のことを山卸し(やまおろし)といいます。明治時代にこの山卸しの工程でお米を摺り下ろさなくても酵素の力で自然とお米が溶けることが分かり、寒い時期に重労働となるこの山卸しの工程をやめられないか?の研究が進みました。その結果、この山卸しの工程を廃止したお酒造りも編み出され、このお酒造りの方法を山卸し廃止仕込み=山廃仕込みと呼んでいます。

 近代のお酒造りでは、自然の乳酸菌を取り込んで培養し、乳酸を発生させるのではなく、最初から乳酸を添加するといった方法で作業時間の短縮をしています。これをいわゆる速醸(そくじょう)作りと呼んでいます。
仕上がり味や風味の違いはそれぞれに違いが出ます。ざっくりのイメージとしては、きもとや山廃は、様々な種類の酵母や乳酸菌が入り込むため、複雑(濃厚)な味わい、速譲つくりは、均一な酵母・乳酸で造られるため雑味のないクリア(すっきり)な味わいになりやすいです。

⑥醪(もろみ)
 酒母をタンクに入れ米麹、蒸米、水を加えてたもののことを醪(もろみ)と呼びます。ここでアルコール発酵がどんどんおきますので、すでに日本酒の元となっている状態です。以前にも記載していますが、ここでは平行複発酵が起きています。これは、その名の通り『デンプンを糖化させる事』『ブドウ糖を酵母でアルコール発酵させる事』を同時に行っています。
 とても複雑な反応を起こしているので、一気に材料を入れません。3度に分けて材料を入れていくということを行っています。この3回に分けて材料を追加していくことを「三段仕込み」と呼んでいます。頭の片隅にこの3段仕込みがスタンダードだと覚えておいてください。銘柄によっては、ここで変化つけてくる場合もありますので。。。

⑦上槽(じょうそう)
 
醪(もろみ)を絞って(圧搾)、酒と酒粕に分ける工程のことを上槽と呼びます。
 この絞り方によってもできるお酒の味わいが変わってきます…奥が深いですね。。。参考までに絞り方の代表的なものを記載します。

 ・槽搾り(ふねしぼり)
  槽(ふね)と呼ばれる昔ながらの搾り機を使った絞り方。
  醪(もろみ)を布袋にいれ、それを槽(ふね:ステンレスや木でできた大きなバスタブをイメージしてください。)の中にいっぱいになるように敷き詰めて、上部から蓋をして圧力をかけて絞っていきます。絞った後は布袋の中に酒粕が残ります。

 ・袋吊り・雫酒
  醪(もろみ)を布袋にいれ、自重で一滴一滴たれてくるのを集める方法です。華やかで繊細なお酒を造ることができますが、歩留まり悪く、時間もかかるので、高価なお酒となります。時間もかかるので酸化にも気を配らなくてはいけないため、手間暇がかかります。

 ・自動圧搾(じどうあっさく) 
  現在一番多い絞り方です。アコーディオン型をしており、間に何枚もの布の板を重ねた構造になっており、その中に醪(もろみ)を入れ、圧搾していく方法です。
  よく見る板状の酒粕は、こちらの機械を使ってできた酒粕の塊です。

 ※参考知識
  上槽の際にしぼられて出てくるタイミングによって、名前が付けられています。もちろん味わいも変わります。
  ・最初に出てくるお酒:「あらばしり」
  ・中間に出てくるお酒:「中取り(なかどり)」や「中汲み(なかぐみ)」
  ・最後に出てくるお酒:「責め(せめ)」
  といいます。

 ⑧濾過(ろか)
  その名の通り、できたお酒を濾過する工程です。いわゆる日本酒=清酒とすると酒税法においては『清酒』は必ず、濾過していなくてはいけません。(そうですよね清酒なのに濁っていたらおかしな話ですので…)
  ということは、ラベルに清酒と記載されているものに関しては、絶対に濾過の工程を行っています。ここ重要です。でも清酒なのに、無濾過とうたってるお酒たくさんありますよね。これ、謎ですよね。ここに関しては、またそのうちに説明しようと思います。

 ⑨火入れ
  その名の通り、加熱殺菌処理をすることを表しています。通常は圧搾後に貯蔵する前と貯蔵後に瓶詰めをする前の2回行っています。
 最近よく聞く「生酒(なまざけ)」はこの火入れを一切していないお酒のことを言います。フレッシュ感のある味わいになりますが、温度変化による品質の劣化が起きやすいため、しっかりと管理することが大切となり、信頼できる流通でないと単純に品質劣化を招いてしまい、作り手の意図と違う味わいになってしまうことのある商品でもあります。
 
 火入れと生のいいところをとるために『生詰』『生貯』といった商品もあります。これらは、先ほどの2回の火入れのうち1つだけ行っている商品です。

・日本酒造り(生酛(きもと)造り)の工程

日本酒の作り方

 日本酒造りは『一麹、二もと、三造り(いちこうじ、にもと、さんつくり)』と言われ、日本酒造りにおける重要な工程を表しています。※造りは醪造りを示しています。
 もちろんどの工程も大切ではあるのですが、この3つの工程が酒質のメインを決める部分であるので、特に気を配り管理しています。

3.アルコール添加について
 日本酒を勉強していると『アル添(あるてん)』といった言葉を聞くことがあります。結構悪い意味で使う方もいらっしゃり、誤解される方もいるかと思うので、解説したいと思います。

 ・『アル添』の歴史
  『アル添』とは日本酒に醸造用アルコールを添加することを示しています。アル添酒といったら、アルコール添加された日本酒の事を言っていることが多いです。
  もともとは、日本酒にアルコールを添加する文化はありませんでしたが、戦中・戦後のコメ不足により、通常の製法では日本酒の生産量が大幅に減ってしまうということもあり、それを回避する方法として編み出された製法でした。
  とにかく量を増やすために、アルコールや糖類や酸味料、グルタミン酸などの旨味を加え、本来のそのお米から作ることのできるお酒の量を3倍にした『三増酒(さんぞうしゅ)』といった現在と比べたら粗悪なお酒が市場にたくさん出回りました。
  その品質の低いお酒のイメージを持った方が、アル添酒は美味しくないであったり、品質が低いといったことを今でもおっしゃられていたりします。もちろん現在でも安いでは、風味を補正するためにアルコール添加やうまみの添加は行わていたりしますが、昔の『三増酒(さんぞうしゅ)』のようなお酒は作ることは禁止されていますので、ご安心を。

 ・現在も『アル添』されている意味
  ここまで読んで、『アル添』は安いお酒に行われている製法なんだと思われてしまうのですが、実際には高いお酒にも使われています。
  じゃあ、なんで?わざわざ高いお酒にアルコール添加するのか?について考えてみたいと思います。
  冷静に考えるとわざわざ手間をかけて添加するということは、何かしらの期待できる効果があるということだと気が付きます。では、どんな効果が考えられそうでしょうか?
  アルコールの高いお酒といえばウォッカを思い浮かべる方が多いかと思いますが、ウォッカを想像してもらえれば何となくイメージできるかと思います。アルコール度数が高まるので、
  ・飲み口が辛口になる
  ・飲んだ後にスッキリする

  といった効果が見込めます。また、それ以外にも効果があって、においの成分は水に溶けずらいといった性質があります。香水を思い出してほしいのですが、香りで水に溶かしているものはないですよね。必ず揮発性の液体(アルコール系)のものに溶かしていると思います。はい、そうです。アルコールにはにおいの成分が溶け込みやすいのです。ですから香り高い日本酒を作る際にはアルコールを添加してあげた方が、その香りを保持しやすくなるのです。ということで
  ・香豊かにする
  といった機能もあるんです。みなさんのよく知っているような、東北の吟醸酒なんかは、このアルコール添加をしているものが結構ありますので、注意して見てみてください。

   ということで、現在のお酒作りにおいては、アルコール添加は、目指すべきお酒の味わいや香りを実現するための一つの手法だということです。

 ※精米歩合の所で出てきた純米と名称につかないお酒は、全部アルコール添加されているお酒です。(太字になっているお酒)
  普通酒 :規程無し(一般に73~75%程度)
  純米酒 :規程無し(※2004年以前は精米歩合70%以下)
  本醸造酒 :70%以下
  特別本醸造酒 :60%以下
  特別純米酒 :60%以下
  吟醸酒(純米吟醸酒) :60%以下
  大吟醸酒(純米大吟醸酒) :50%以下

4.まとめ
 ・日本酒の原料はお米
 ・でんぷんの糖化とアルコール発酵を同時に行って(平行複発酵)作る世界的に珍しく、非常に技術の高い醸造法で造られるお酒
 ・精米歩合によって特定名称が変わる
 ・清酒は必ず、濾過の工程を行っている
 ・日本酒造りは『一麹、二もと、三造り(いちこうじ、にもと、さんつくり)』
 ・アルコール添加は、
目指すべきお酒の味わいや香りを実現するための一つの手法


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