昔の記憶

それは「無力感」という虫だった
それが突如 音もなく湧き出して
私の意志に食らいつくと
大きな穴を開けてしまった

私は雑踏の中にいた
通り過ぎる人々の影と足音とに
私はおびえ 震え上がり
ひとり 縮こまっていた

━━耐えがたい痛みの色は"含羞がんしゅう"
私は自らの存在を恥じて
蟻よりも小さく 軽くなった

冬の日の木立みたいに灰色で
穴だらけになった意志に
風は 鋭く吹きかかっていた


(2024.1.3)

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