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掌編SF小説|惑星γ3

 あなたが初めて買った小型宇宙船は、惑星γ3に引き寄せられていきます。最大手の宇宙船メーカーの、中古品です。
 あなたは最近になって、ようやく操縦にも慣れてきました。しかし、まだ不安が残っています。大気圏突入の緊張が、脂汗となって滴り落ちてきます。
「まさかもたないんじゃないだろうなあ」
 あなたはいつもの口癖を繰り返していました。
「イジョウハアリマセン。イジョウハアリマセン」
 AIもいつもの反応でした。
「本当か」
「ホントウデス」
「いつもより暑くないか」
「スコシアツイデスガモンダイアリマセン」
「ふうん」
 あなたはメインカメラによって映し出される、大画面を見ます。画面いっぱいにノイズが映し出されています。
「アトスウビョウデカメラガキノウシマス」
 AIのいうとおり、数秒で地表が映りました。そして降下速度が少しずつ遅くなり、宇宙船は完全なかたちで着陸に成功しました。
「よし」
「イマノトコロカンゼンニイジョウアリマセン」
「ハッハッハ」
 あなたは思わず笑ってしまいました。
「外気に関して情報をくれ」
「ウチュウフクハヒツヨウアリマセン。カイテキナリゾートチノヨウナカンジデス」
「敵は」
「アキラカナテキハイナイヨウデス」
「ちょっといってくる」
「ワカリマシタ」
 あなたは宇宙服を脱いでリュックをしょい、コンソールのボタンを押して出入り口を開けました。そしてゆっくりと砂漠に足を踏み出しました。
 前方にある街へ、あなたは歩きはじめました。歩きながら振り返ると、宇宙船の出入り口は閉じていました。

 街にはすぐに着きました。いろいろな星の人間が行き交っています。あなたは必要なものを買い込みました。そしてレストランに腰を落ち着けます。
 隣のレストランで、暴力団員と思しき宇宙人が暴れているのが目に入ってきます。あなたは食事を続けます。
 あなたはベルを押して店員を呼びました。
「このアイスティー、ぬるいんだけど、交換してもらえる?」
「かしこまりました」
 店員が去るのと入れかわりに、さっきの暴力団員が、発砲しながらこの店に暴れ込んできました。「キャー」という女性の大声があちこちから聞こえてきます。あなたは自分の銃を一発撃ちました。
 ドサッという音がして、暴力団員が床に倒れました。あなたは自分の銃をベルトに収めました。
「たいへん失礼致しました」
 騒ぎを無視するかのように、店員がアイスティーを持ってきました。
「ありがとう」
 あなたはアイスティーを一口飲んでみました。じゅうぶん冷えていました。そしてあなたは溜め息をひとつつきました。

 街をあとにして、あなたは自機の前までやってきました。そして腕時計にむかっていいました。
「開けろ」
 ゆっくりと出入り口が開きました。カツンカツンと音をさせて、あなたは自機に乗り込みました。
 そして荷物を収納し、宇宙服を着たその時、機体が傾くほどの爆発音が響きました。
「来たな糞野郎」
 スクリーンには、敵機が大写しになっていました。
「復讐のつもりか」
「ソノヨウデス」
「オートで対応する」
「ワカリマシタ」
 AIは、小型ミサイルを一発撃ちました。敵は、避けようとします。しかし、一瞬遅く、敵機は被弾しました。
「おれも撃つ」
 あなたは、標準砲を撃ちました。斜め上空に浮遊していた敵機は、ド真ん中に弾を喰らって、ボボボボボという音を発すると同時に、完全に爆発しました。
「いくぞ」
「ウチアゲタイセイヲセッティングシマス」
「よし」

 こうしてあなたの宇宙船は打ち上げられました。次の目的地の候補は、AIが高速で計算中です。
 あなただけでなく、だれもが宇宙を彷徨っています。生きる目的が、見えなくなってしまっているのです。なにかのはずみで戦闘が起こり、弱い者は強い者に滅ぼされます。生き方が問われているのです。
 だれもが賢者であれば、一定の秩序が成立するのでしょうが……。
〈了〉
 


みなさまだけがたよりでございます!