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あいつは可愛い年下の男

「あいつはあいつはかわいい~年下の男の子~♪」

幼少の頃、母親が頻繁にカセットテープから流していた歌で、私もよく口ずさんでいたが、最近またこの歌を口ずさむのがクセになっている。

私の名前はユカ。38歳の一人暮らしの独身女。お一人様が増加傾向である昨今であっても、シングルを貫くのは結構しんどい。

実家に帰れば「あなたはいつまでひとりでいるつもりなの?」と親には煽られる。訪ねてきた親戚たちは私の顔を見る度に「誰かいい人いないの?」という言葉が挨拶代わりのようなものだ。

別にひとりでも良いではないか、放っておいてよと強がってはみるものの、このまま年老いていったらどうなってしまうのか、得たいのしれない不安が襲ってくることがままあることも否めない。

[婚活にて]

私は結婚相談所の会員登録を行った。

親や親戚の言いなりなる様で内心腹立たしい気持ちもあったが、出会いが少ないのは事実で、良い相手に出会えたらいいなという期待もあった。

活動内容は主には、プロフィールを元に志向が一致しそうな男女を相談所でマッチングを行い、その両者を事務所で引き合わせて20~30分の会話後にまた会いたいか否かを事務所に連絡するというシステムで、そこで両者がまた会いたいとなればカップルが成立という形となる。その後は自由交際という流れである。

38歳の私に引き合わされるのは、40代後半か50代の男性が多い。おじさんはあまり好きではない。だがこの年齢まできてしまうと、年下男性からのニーズはあまりないそうなので仕方なく年上もOKとしている。

しかしながらアラフィフ世代ながら独り身の男性というのはちょっとひとクセのある方が多いのが私の正直な感想だ。

やたら理屈っぽかったり、収入の大部分を趣味に注ぎ込んでいたり、冴えないくせに若い頃の武勇伝を延々と語り続ける男もいた。

お見合いの回数を重ねれば重ねるほどうんざりしていたので、気分を変えて私はパーティーに参加してみることにした。私が登録している紹介所ではお見合いの他に、会員の出会いの場を広げる目的で定期的にパーティーが開催されているのだ。

[あいつとの出会い]

パーティーとなるとちょっと雰囲気は変わる。年齢層は20代後半から30代の層がメインだ。私の年齢でこの場に溶け込むのはギリギリセーフというところだが、年齢層の少し若い男の子たちに相手にしてもらえるのかちょっと不安な気分だった。

パーティーの進行は男女交互で席に座り、一定の時間が過ぎたら席替えをして別の異性と会話をして最後はフリータイムという流れで、最後の締めの時に気に入った相手の番号を数名記入するという流れだ。

私は最後のフリータイムの時に隣に座ったあいつが気になってしまった。その男は29歳の温厚な雰囲気のサラリーマン。彼の女性慣れしていないおどおどした雰囲気が逆に愛おしく感じた。そしてお互いプロ野球が好きで、好きなチームも一緒という共通点にも親近感を持ったのである。

アルコールも入ったせいだろうか少し喋りすぎたかもしれない。彼は私の番号を書いてくれただろうか。

年甲斐もないけれどこんなドキドキ、ウキウキする感情は久々のことだ。

そして数日後に吉報は届いた。彼は私の番号を書いてくれていたのだ。封書の中にはあいつの電話番号が記載されている。あいつの家には私の電話番号が記載された封書が届いているはず。このような場合の連絡は男からするもの?いや、そんな事にこだわってはいられない。電話は私からかけたのであった。今考えれば9つも年上の私の焦りでしかなかったなと思う。

[デートのちサヨナラ]

あいつとは2回デートした。1回目はランチの後にカフェでいろんな話をした。そして2回目のドライブの約束もした。最初は緊張気味だったあいつもだんだん喋ってくれるようになり、可愛いなって内心そう思ったんだよね。そして2回目のドライブ中に私はあいつについ聞いてしまった。「私は9つも年上だけど大丈夫?」って。そしたらあいつは「年の差なんて関係ない」って言ってくれたんだ。その時は嬉しくてさ。

次は2人で飲みに行こうと、あいつは言ってくれたんだけど、その後あいつからは連絡してくれなくなった。

メールでだけど私、あいつを問い詰めちゃったんだ。「私の事嫌いになったの?」って。

丸1日ほど間をおいてからあいつから返事が来た。他の女性の方と交際する事にしました。ごめんなさいという内容の話だった。

そういえばパーティーでは気に入った人の番号を複数書ける事になっていた。つまりは複数の人とお付き合いして良い相手を選びましょうというのが、この結婚相談所のシステム。だからあいつの行為は二股とは言えないのだけど、結局私は保険を掛けられた女という事。同世代との彼女とうまくいかなかったら私と付き合おうという思惑だったんだって私は悟ったのだ。

ここであいつに泣きすがるほど私はバカじゃない。誰かの歌の歌詞みたいにもう恋なんてしないなんて絶対に言わない。いつかみつけてやるんだ、あなたよりも可愛い年下の男の子を。そう返信は・・しなかったけど心の中で言ってやった。そしてまた口ずさんじゃったんだ。

「あいつはあいつはかわいい~年下の男の子~♪」

ー完ー

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