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【読書感想文】シェニール織とか黄肉のメロンとか


作家の民子、自由人の理枝、主婦の早希。そして彼女たちをとりまく人々の楽しく切実な日常を濃やかに描く、愛おしさに満ち満ちた物語。
江國香織〝心が踊る〟熱望の長編小説。

帯 より。

江國さんの描く女性だなぁ、と胸を踊らせながら読みました。

立場も考え方も性格も違う、「三人娘」のそれぞれの日常と、三人がお互いにそれぞれの「らしさ」を分かりあっているという心地よさ。そして、歳を重ねた(おそらく50代)彼女たちの、自由度がとても気楽だ。

「お互いが相手を意識していて、空気がそこだけぴりっと張りつめたみたいになって、周りに誰が何人いようと関係ないの、二人だけにそれがわかって、でもまだ何も始まっていなくて、でもすでに始まっているとも言えて、ああ、もう、思いだすだけでうれしくなっちゃうけどあの感じ、わかるでしょ?あれがいいんじゃないの」

理枝の力説のシーン。

結婚はもういいけれど、恋人は欲しいという発言が、いかにも、理枝だ。作家の民子と母の薫の家へ、家が見つかるまで居候させてほしいと、半ば強引に転がり込んできた理枝。カラフルでパワフルで、なんというか圧倒的な人だ。

かたや、民子は早希にしてみれば、夫も子供も犬もなく、さぞ淋しい味気ない生活なのだろう、なのだし、理枝と生活できるなんて(一時的にとはいえ)生真面目で寛大で勇敢な人だ。

いっぽうで、早希は、いまだに腕時計のフェイスを内側につける「昭和の淑女」、世話する対象が必要な「ある種の女の人」らしい。

それぞれがそれぞれに、「そう言うだろうな」という発言に、「やっぱり」とそれぞれが納得しながら、三人が三人のまま過ごしていく様は、とても風通しがよく清々しい。

この年齢になったから、なのか、もともと、なのかは分からないけれど、とても素敵な関係だと、読んでいてほこほこになった。

そして民子の母、薫。

夫はもう死んでしまったから、私はいつでも好きなときに、彼を思いだせるし、彼の存在をすぐそばに感じられる。生きている男性はいてほしくないときにもいるし、いてほしいときにはいなかったりするものだ。(中略)生きている男性とつきあわなくてはならない人たちは大変だわねと薫は思う。

本文 より

歳を重ねるということは、こと女性においては、いろいろなものから「解放」されていくことなのかもしれない。

そして、この江國さんの描く女性たちは、年々その人らしさに素直になっていく。

私は七年後、五十代だ。
とても楽しみになってきた。
理枝のように「恋人がほしい」わけでもないし、早希のような「ある種の女の人」ではないから、きっと民子のようにマイペースに過ごし、男女に括られない関係性の人たちとお茶をしたりして…。

きっと愉しい。

そんなことを思わせてもらえる本でした。

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今年一冊目の読書感想文です。
そういえば、昨年の一冊目も、江國香織さんの本でした。やっぱり、好きなのです。


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