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金をほどこす。

レースのカーテンを揺らす乾いた風は、肌に涼しく、芝刈り機の音や、裏の男の子の幼い声が歌っている。

黄色。

まだ浅い秋の光が、水槽を揺らす。

11%の金液に、口の細いケミソルの瓶で数滴。長刀筆で撫でるように溶く。

                                                                           金溶き。

部屋じゅうに、金の匂いがたちこめる。

レースのカーテンも全部開け、タッセルで留め、すべり出し窓のハンドルをグルグルと、いっぱいに回す。

うっかりしていると、ケミソルはすぐに乾いて、長刀筆はパリリと毛羽立つ。

来月の美術展に出展予定の陶板の、金仕上げをいよいよ。

さりげなく、

それでいて、引き立つ金を。

サワサワサワサワっと窓から木々の気配がして。

いつもの部屋にたちこめる、秋風に薄まった日曜に広がった薬品のにおい。

黄色。

登りきる前の、昼間の日差し。

「昨年も出展してくださいましたね。
    作品、楽しみにしております。」

事前申込みの窓口で、肩のあたりでカールした髪の女性は、にこやかで、ああ、と思い出して。昨年、作品の搬出に、エレベーターまで送ってくださった方だ。

「素敵な才能ですね」

と軽やかに送り出してくれた。

ちょうど今日のような、明るくて乾いた緩やかな風のような言い方で。

ふいに気持ちも軽くなる。

「楽しみ」を膨らませて。

トンネル窯で焼成してもらう。
 
いい金に出るといい。

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