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言い負かしたかっただけ。

「お父さんやお母さんから “うそはついてはいけません” と教わりませんでしたか?あなたはさっき“うそ” ついたんですよ、“うそつき” なんですよ」

受話器からそんなこと、まったくの赤の他人から、おそらく声からして歳下であろう関西なまりの人から、「うそつき」呼ばわりをされ、鼻息を荒く、指先が震えるほど、久々にフツフツと沸く怒りをフガフガ抑えていた。

電力会社(を名乗る)からのしつこいセールス電話に出てしまった、だけなのだけれど。

「うちは結構です、すみません」
とガチャッと母が切った直後、ベルが鳴る。
無視しておけばよかったものを、代わりに私が出たのがいけなかった。

「急に電話切れたんですけどっ」
からはじまった男性の声は、不機嫌で、
「ちゃんと話も聞かずに電話を切るのはやめたほうがいいと思います」
とかなんとか。

いわく、3~4割ガス代電気代が割引されるというご案内、だそうだけれど。
とりあえず要件を聞いたのち、
「うちは必要ありませんので結構です」
と切ろうとすれば
どうして必要ないのですか?」と食い下がる。

面倒なので
「この家はいつまで住むかわからないから、もう変えなくて大丈夫です」
と適当なことを言って切ろうとすれば
「引越しが決まっていますか?」
「はい」
「1年以内ですか?」
「はい」
「日にちも決まってますか?」
「はぁ」
「また1年後電話して繋がったらあなたは
うそ
をついたことになります。うそは──」
と、冒頭の「うそつき」呼ばわりへと続くのである。

しつこい…。

「何度も言いますが、うちは必要ないです」
と言えば同じ説明が再び…という始末
イラついて、「これ以上は迷惑です」と言えば
「安くなる提案をしてどこが迷惑ですか?」
なのだ。

そのうち、気がつけば私の口調まで、関西なまりになってしまっており、
「いらん、いうとるんすよ、しつこいなぁ」
と苛立ちながら言うと
「だからガス代と電気代が──」
という途方もないループ。なんなら、高齢者へ説明するようなゆっくりとした口調になり、まるで小馬鹿にされたような気にもなってくる。

「迷惑なので二度とかけてこないで下さい」
と言うのに
「どうして迷惑なんですか?」
と食い下がってくる。

なんや コイツ…
頭おかしいんか…
いらん言うとんねん…
電話かけてくるな言うとんねん…

イライラは募り、心拍数が上がっているのがわかる。手は震え、怒りを抑えながら、
「お断り」をするけれど、埒が明かない。

結局、電話口で勝手に喋らせておき、一言も発せず黙って聞いていると
「また夜にかけなおします」
と電話を切られた。


んのぉーーい!!


いや、かけてこんでええねんっ!
腹立っつわぁー!!

                              

                            ・・・・・・

コホン。取り乱しました、すみません。

ということがありまして、私は久しぶりにその電話口で、震えるほどの怒りをおぼえたわけですけれども。

私はおそらく、「口で負かせられない」ことが、真剣に気に入らなかったのだ。
何を隠そう私には、「人を理詰めで論破する線」なる手相があるらしく、かつて占い師に「気をつけて下さいね」と言われたことがあるのだ。嫌な手相だこと…。

けれどもその手相は、やはり当たっていると思わざるを得ない。なぜなら、その午後じゅうずーっと、私の頭の中では例の電話口での対応を、何パターンも飽きもせずシュミレートしていたのだから。
言い負かしたかったが為に、だ。

それはたとえば、

パターン①
「急に電話切れたんですけどっ」
と不機嫌な男性に
「ごめんごめーん」とやたらチャラく始め、
「でぇ?なんだったぁ??」と続け、説明を聞くけれど
「へぇーわけわかんなぁーい 笑笑」
と電話を切る、とおバカさんモードで乗り切るいうのはどうだろう?

あるいは

パターン②
「急に電話切れたんですけどっ」 
と不機嫌な男性に
「ん?どちら様?」と丁寧に対応。その後、
「あー!なーんだ!誰かと思いましたよ。
ご無沙汰しております。お元気でした?おじ様とおば様もお元気でいらっしゃいます?」
と質問責めにする。
「電気代とガス代の──」
の件がはじまろうが、名乗ろうが、相手の出方にかまわず「久しぶりの親戚」モードで話続ける、というのはどうだろう?


そうなると、

パターン③
「急に電話切れたんですけどっ」
と不機嫌な男性に
「え?どちら様ですか?」
と名乗らせ、電気代とガス代の──の件を話はじめたら、「フムフム」と興味深く聞き、
「なるほど。と、いうことは、年金は個人で今のうちからかけておいたほうがいいっていう話ですね…ほぅほぅ」
と、先の先の先を読みすぎてもう訳の分からない話へ持っていくというのはどうだろう?


いや待てよ?

パターン④
「急に電話切れたんですけどっ」
と不機嫌な男性。
「ごめん…」としおらしく。
「ちゃんと話も聞かずに電話を切るのはやめたほうがいいと思います」
「うん、だからごめんって言ってるじゃん。
だってずっと待ってたのに。全然電話してくれないんだもの。仕事忙しいって言ってたから、これでも私、我慢して待ってたんだよ。でもなんか寂しすぎて、そのうちになんで私だけこんな寂しいって思うんだろって…」
メソメソと、寂しさからこじらせちゃった彼女になって情に訴えてみるのはどうだろう?

ん?

#なんのはなしですか


そんなことを考えているうちに、プルプルと震えるほど怒っていた自分が、なんだか可笑しく思え、なんなら「また電話かかって来ないかな…」とか思うものだから、全くもって

#なんのはなしですか ?なのだ。

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