見出し画像

父のやりそうなことだもの。

朝の八時と言えど、もう陽は照りだして、草取りをする背中をさしてくる。
檀家のお墓掃除の日、私とすぐ上の姉と母と、虫除けスプレーをして、汗が目に入るほど這んで草取りをした。

「こんな草生えて、ご無沙汰しちゃってごめんなさいね、お父さん。」

と母が言うから、私は父の声真似をしながら

「そんなこたぁ〜、えぇわ。」

と返して笑う。私は父親似。

草取りをして、姉が墓石をブラシと濡れタオルで磨いていく。

「お父さん、こんな黒い石だとあっついねぇ。」

拭いたそばから乾いていく石を、苔を取り、彫りを磨き、丁寧にふきあげていく。

「こりゃー気持ちええ。」

父の言いそうなことを声真似で言う。

花立の水を換えようとした姉が、ヒャア!と驚いて、見るとカエルが中にいた。

「絶対お父さんの仕業だよね!!」

父は常識人だったけれど、たまにそういう子どもじみたイタズラをして、イェーイと喜ぶような人だったから。

墓掃除には私たちが来ると、わかってやっているのだ。父のやりそうなこと。


花を生け、蝋燭と線香をたてる。
手を合わせ、般若心経を唱える。

ポタポタと垂れる汗のまま。

ズズッと鼻をすする姉は、近ごろとみに涙脆い。

墓から見える青田は、漣。

「こりゃ、えぇ。」

父はきっとそう言って、
お供えの缶ビールをあけているだろう。

カエルがピョンと踊るから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?