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城跡紀行 ~岩村城~

石畳の凸凹を、よいしょよいしょと歩く。
「あと600m」から「あと500m」を、100mしか歩いていないなんて信じられない坂道。
後ろから、奉仕作業の青ジャージな中学生たちが、ダルそうに、けれども男子は少しふざけて、登ってくる。そして追い抜いていく。


「城跡にいこう!」

近ごろ脳内が戦国時代な夫のお誘いだった。

この辺りは、織田信長や明智光秀や豊臣秀吉やに「ゆかりの地」という場所がたくさんある。夫は、大河ドラマを欠かさず観て(録画までして!)、家康だ信長だ秀吉だ、と心酔している。俳優の名前はドラマの役名で言う方が通じるのだ。

眞栄田郷敦くんを「あぁ勝頼か」と。

日曜。
朝も9時前から「もう行けるか?」と、休日モード全開の、パジャマにもっさんもっさん…いや、軽い寝ぐせ(美容室へ行ってきました)な私を急かす。

車で20分ほど。実家からの方が近いので、初めて来るところではないのだけれど、とはいえ、城跡まで登るのは初めてだ。

【岩村城跡】標高710m、「本丸まで600m」という登城口からゆっくりと石畳を登っていく。

うっかりこの日は「一斉奉仕作業の日」だったようで。そこいらで草刈り機のおじさんや、消防団の人たちがハシゴで石垣の草を取っていた。地元中学生もわんさか登っていく。なんかごめんなさいね、と「観光客」を決め込む。

しんとした森。

見上げれば、優しく葉っぱが覆う。
晴れた、気持ちの良い日。


苔むした石垣に、いにしえの武士たちの歩みを聞く。


本丸へ。

立派な正門があったであろう本丸への入口。
緑が侵食し、それでも、見事に組まれた石垣は然として。


本丸より見下ろす景色。

「女城主おつやの方」として知られるという岩村城。永きにわたり、この景色をどんな思いで見下ろしていただろう。城主の偉大さを思う。

町をあげて、保全に、奉仕作業をする方々にささえられて、こんにちも尚、その威厳をたたえている。

中学生たちは標高710mの本丸にて、あらかた刈草を集めると、日陰で涼んでいた。

戦などない平和な日曜。

ついこの間、Netflix「キングダムII」を観たばかりの私は、この地での血なまぐさい決闘を想像してしまう。この凸凹した石畳に、軽快に太刀まわったかと思うと、当時の武士たちの身体能力は計り知れない。

帰り道。
急な石畳の坂道は、下りの方が足に負担がかかる。ズルッといきそうで、へっぴり腰だ。
世が世なら、と思うとなんとも情けない。

「おかえりなさいませ」

行きに奉仕作業中、挨拶をしてくれたおっちゃんが、また笑顔で迎えてくれた。

ツワモノどもは夢のあと。


「今度は岐阜城だな」
と、清々しい顔の夫。

え。

行くんですね、また。

                                  【つづく。    と思われる】

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