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好き を描く。

私の大好きな画家さんに、成田淑恵さんという方がいる。

地元の新聞で、国展で国画賞を受賞された記事で初めてその画家さんを知った。

白と黒と赤とで描かれた、象の油絵。

象牙の乱獲の残虐さに衝撃をうけたことが、作品のきっかけになっている、という。
その新聞記事の絵ですら、迫力に惹きつけられた。ぜひ、この絵を肉眼で、真近で見てみたい、そう思った。

しばらくして、その方が地元近くの市の美術展へ出展されるという。あの絵を、この目で見られる、と興奮して足を運んだ。

市の美術展とはいえど、とてもレベルの高い作品が犇めく中、やはり、彼女の絵に釘付けになった。
ただただ、その絵を前に立ちすくむ。

象の、撫でるような、ゴツゴツした質感。
生々しすぎず、静寂の中に、いつまでも響く残虐さ。切られた象牙を鼻で抱える子象。


幸運なことに、その画家さんがご在廊されていた。お声をかけると、快くお話して下さった。

象牙は高額で取引され、乱獲されるのに、爆薬でドカン!と象を吹っ飛ばしているのだと。その事実に衝撃を受け、この作品が生まれたのだと、語ってくださった。

彼女は動物の絵を描く。
「動物が好きなんです」と。
実物を見に、動物園へ行って写真を撮ったり、触れてその毛並みや仕草を捉える。
彼女の描きだす動物たちは、ゴワゴワしていたり、ゴツゴツしていたり、ふわふわしていたり、フサフサしていたりする。その質感や、仕草や躍動感を表現するために、絵の具をそのまま乗せて引っ掻いたり、飛沫をあげてぶっかけたり、垂らしたり。筆よりも効果的な表現が出来ると思えば、自由な方法で描いてゆく。

ジブリ映画の、人間と自然と動物の共存、というスケールの大きな世界観を、思い出す。
にこにこと、可愛らしく活き活きと語る彼女からは、描くことが好きで好きでたまらない、という、何かに夢中になる子どものような無垢さと純真さが溢れていた。

その後も、彼女の活躍は多くの人を惹き付けていく。銀座のギャラリーで、グループ展をしていたり、と活躍の場が広がっていく中。

今週、彼女が初めて個展をした街の文化センターで、10年ぶりとなる個展が開かれた。

またあの絵を、真近で見られる。

偶然にも、個展の開かれる文化センターの近くの高校が、次女の受験校で、なんとその合格発表の日が個展開催中だった。
無事、合格していたら、そのまま一緒に個展を見に行こうと決めていた。

無事、合格。
一頻り大きな喜びと、深い安堵に浸った後。

心待ちにしていた個展へ。

展示室には、すでに多くの人がいた。
たくさんの作品が、並んでいた。

一つ一つの、込められた思いや、細部の表現、動物たちの豊かな表情、よく観ると見えてくる発見や驚き。次女と2人、まるで映画を観ているような反応をしながら、作品と対峙していく。

コロナ禍の日本人を思って描いたスズメの群衆。108羽、煩悩の数とされるスズメたちの個性豊かな表情。

よくよく観ると、小さな飛行機が飛んでいたり、富士山が描かれた、夢見るクマ。ピンポンパールが泳ぎにくそうに、いじらしく泳いでいる。

森林火災の中の、コアラたち。焼け落ち、熱で溶け、キャンバスまで実際に火で焼き焦がし穴があいていた。

歴史深い梟。

澄んだ目のライオン。

たくさんの動物たちの、それぞれの世界観が広がっていた。

そして、またその画家さんご本人とお話することができた。

10年ぶりとなった地元での個展、10年を経て何か変わりましたか?と質問させていただくと、

「変わらないもの、もあります。けれど、一番変わったと思うのは、見に来てくださる人の数です。初めは自分の知り合いや、親族の知り合いがほとんどだったのですが、今はこうして私自身を知らなくても、作品を見に来てくださる方がいて」と。

私のように、絵に惹き付けられ、吸い寄せられるように、ぜひ真近で、この目で見たいと思われる方がたくさんいるのだ。

そのあとも、一緒に作品を観ながら、描き方や表現の仕方、どういう思いをもちながらこの絵を描いていたのか、を語ってくださった。

変わらない無垢さと純真さで。

ご挨拶をして展示室を出るころ、私は、絵を描くときの「わくわくする気持ち」を思い出して、興奮していた。
「好き」を描いていきたい。

 


                 ~成田淑恵 展 によせて~

【⠀黒いライオン  】
【⠀夢見る夢  】
【⠀Forest fire  】
瞳の美しさ


【⠀明日へ  】
個性豊かなスズメたち
表情もそれぞれ


作品のお写真も撮らせていただけました。


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