渡り廊下と四葉
弾むボールの音、湧き上がる歓声や拍手、ホイッスルの音。
体育館へつながる渡り廊下の階段にすわって、そんな音を聴きいていた。休日の校舎はしんと静かで、そこからつながる外廊下には人気がない。
中の熱気とは裏腹に、よく晴れた夏日のような日向と、心地よく風がなでる日陰。
隣のグラウンドの隅では、シロツメクサが蜜蜂たちをあやしていた。
大きな蟻が近づいてきて、また彷徨い、階段の端をつたい遠ざかる。
日向と日陰の境目で、再読の文庫本に目を落としていた。確かに読んだはずなのに、ミステリーの記憶は曖昧で、東野圭吾の作品ばかりを追っていた頃があったから、内容が綯い交ぜになってしまったのか、初めて読むような気さえした。
物語は本題に入ったところ、頁をめくっていくと、栞のように挟まった一枚。
押花になった、四葉のクローバーだ。
あの日も、
こんな青空でよく晴れた日で、日陰で私は本を読んでいたんだった。この本を。
トントンと肩をたたいて、
「見て」
と、得意げに四葉のクローバーを差し出したのは、珍しく半袖の彼女だった。
「あげる」
私はそのまま文庫本に閉じ、読書など諦めて
「私も」
と四葉のクローバーを探したけれど、結局、見つけることはできなかった。
「私、四葉 見つけるの得意なんだ」
シロツメクサの花飾りも上手に編む彼女の言うことは、正しかった。
ミステリーに夢中になっていなければ、彼女のことばかりを追ってしまうのに、いつも彼女はこうやって、私を惹き戻す。
こんなに時が経ったって、なお。
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