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【書評】カイタイ新書

こちらのnoteに訪れてくださった方々には、本書籍の紹介の前に是非一度以下のブログの幾つかに目を通して頂きたい。

このブログは世の中の様々なジャンルのヒットコンテンツを、定量的な分析からトレンドとなった考察、ビジネスチャンスの提案の3部構成で定期的に展開している。広告代理店ならではのプラニングプロセスの一端を定期的に見ることの出来る、とても上質なブログである。(筆者も良くチェックしている)

このブログ、ヒット週間予報をリリースしているのが博報堂にあるヒット週間メーカーズであり、このカイタイ新書の著者団体である。

書籍には、上記のヒット習慣予報で紹介させる数々の事例を総括した、これからの商品・サービスを開発するための思考プロセスが整理されたPACフレーム(Prediction/Addiction/Conversation)について紹介されている。Prediction(兆しを予測する)、Addiction(魅力の設計)、Conversation(話題の拡散)と定義され、それぞれが展開されているのだが、このフレームの中でもAddictionのポイントとして記載された触媒というキーワードが印象に残っているので、この点について記載したい。

触媒:商品やサービスを下支えする超・定性的な魅力

触媒という言葉をググると、以下のような意味で説明されている。

触媒【しょく・ばい】
化学反応の際に、それ自身は変化せず、他の物質の反応速度に影響する働きをする物質。

言葉の意味のまま考えると、この言葉がどのようにコミュニケーションプラニングに関係するのか?は分からないと思うが、カイタイ新書では例えば歯磨き粉のミントの香り(歯が綺麗になったスッキリ感を増長する香り)や、加熱式タバコの着火させる行為(タバコを吸う行為を象徴する儀式)が触媒と表現されている。つまり、歯磨き粉にしても加熱式タバコにしても、香りや行為が失われても商品の機能的価値に変化はないが、それがあることで体験の習慣化が著しく促進されるものを触媒と表現しているのである。

この触媒の重要性をカイタイ新書ではそれ単体の章があるくらいに厚く説明されている。そして筆者も、この触媒という要素にこれからのコミュニケーションの可能性を感じていたりするのである。

生活者の行動や心境を測るデータの種類として、定量データ・定性データという言葉がある。定量データというのはデモグラデータ、Webトラフィックや購買データなど、属性や行動を数値で蓄積し、活用することが出来るデータである。定性データと言われるのはこれ以外の、回答者の心情・感情に依存するデータであり、パネルデータという名称で収集されたりする。定量データは元より、定性データも最近は心情や感情を数値化するアプローチも幾つか現れており(筆者が良く行うソーシャルリスニングもそのひとつ)直近は定量データと定性データの境界線も少しずつ曖昧になってきている印象を受けている。

だが、カイタイ新書で説明される触媒は言語化し得ない本能的快感に近いものであり、数値化が取り組まれている他の定性データよりも一段定量化の難易度が高いように感じる。例えば本書で紹介される触媒のひとつである決済アプリ使用時の電子決済音がとても快感だ、というデータはアンケートやソーシャルリスニングではなかなか出てこない。現時点でこれを抽出する手段としては属人的に商品・サービスの利用シーンを分解し、整理をすることであったり、利用シーンについて複数人でのグループディスカッションをする、などのアプローチでないとなかなか生まれない気がする。

触媒のように、日常に自然に溶け込んでいる商品・サービスの特徴に着目し、これをコミュニケーションプラニングに組み込むアプローチにハッとさせられるし、テクノロジーによってあらゆる定性データの数値化が進められているなか新たに発見された金脈のように思わずにはいられない。このような時代において感情を超えて本能に訴えかけてくる超・定性的な魅力をどう商品・サービスに宿すのか?が語られている点こそ、本書の魅力なのではないか?と筆者は考えている。

これからの時代の体験をどう考えていくのか?

本noteを書いている今は、緊急事態宣言の延長が発表された、コロナ禍の渦中である。これまでの生活での習慣化に成功していた企業も、生活者の日常の変化により戦略の転換が余儀なくされている状況だ。例えば直近ニュースになっていた無印良品のAmazon参入もそのひとつだろう。

有事の事態によってこれからの販売活動、広告活動、CRMの到来が急速に接近している今、中小・大企業を問わず、激変する生活者の日常でどのような価値を提供するか?を考えることが必須となっていると言える。

この時に、本書で展開されているメソドロジーを用いて、これからの習慣化について考えるのはひとつのアプローチであるように思う。本書の終盤にはPACフレームを用いたワークショップの実施方法についても詳細に記載されている。きっと訪れるであろう宣言解除の日に向けて、ZOOMを使って頭の体操のためにこのワークショップに取り組んでみる、というのもなかなか有意義なリモートワークになるのでは?と筆者も考えている。(というか、リモートワークショップ、開催されたら筆者も受けてみたい。)

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