記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画時評『ザ・クリエイター 創造者』

不安な予告だった。ドンパチの映像ばっかで、人間vs機械の単純なストーリーしか読み取れない。

ギャレス・エドワーズ監督の映画は、ハリウッド版『ゴジラ』『ローグ・ワン』の二作を見ていた。映画を見終えたあとで、初めて認知した。

まず『ゴジラ』の話からさせて頂きたい。
こいつは正直、大味な怪獣映画で、あまり印象に残っていない。印象に残っていないが、ある点において個人的100点満点のジャックポットを叩き出している映画でもある。

このOP。
陰謀論めかした記録映像風になっていて、なんというか、すごく琴線に触れる。ぞくぞくする。金曜ロードショーかなんかで放送されたときに、このOP部分が省略されていて、ふざけんな!という気持ちになったのを覚えています。ショートケーキからイチゴだけかっさらっていくようなものです。残るのはスポンジと生クリームの憐れな残骸です。そんなもの誰が観たいでしょうか? 僕はTVを切って寝ました。

『ザ・クリエイター』においても、この記録映像フェチのようなものが、冒頭のOPで発揮されていて、もうたまらない。
東西冷戦が引き金となった、宇宙開発競争の代わりに、ロボット工学が発展したIFの未来とでも妄想できそうな映像がスクリーンからたれ流され、僕を洗脳する。
あのアシモフのロボットものの世界が正史なのだ。この世界線では。

余談だけど、ニール・ブロムカンプ監督、Oats Studios製作の一連のSF短編に出てくる『密林の悪魔』も、そんなフェチを満たしてくれた映像の一つ。
Netflix契約者は、要チェック。
あとはザック・スナイダー監督の『ウォッチメン』のOPとかですね。
このかっこよさが皆さんに伝わるでしょうか?


あらすじ

ロサンゼルスに核が落ちた。大地に穿たれた爆心地グランドゼロは、西洋諸国を中心とする反AI派と、アジア諸国を中心とする親AI派との間に決定的な一線を引いた。
2065年、ジョシュアは潜入工作員アンダーカヴァーとして、敵地ニューアジアに潜伏していた。彼の任務はAIたちが神と崇める“創造者ニルマータ”の喉元に迫ること。しかしそこで、ジョシュアは情報を得るために接近したマヤという女性を愛してしまう。ジョシュアがスパイであることを知ったマヤは、楽園エデンを守護する智天使ケルビム、天空に両翼を展げる人類の砦、《遊牧民ノマド》の無慈悲な爆撃の犠牲になってしまう。
5年後、ニルマータは《アルファ・オー》と呼ばれる兵器を完成させる。ジョシュアはナビゲーターとして、兵器の破壊を命じられる。そこにはかつて愛したマヤの姿があった。死んだはずの彼女の姿が。
ジョシュアは敵地の地下施設で、《アルファ・オー》の正体を目撃する。《アルファ・オー》は日本語のアニメを齧り付くように観ていた。子供の姿をしたAIが、そこにいた。

感想

はもう冒頭から始まっているのですが、本当にセンスのいいSFでした。
ニューアジアなどという、オーウェルっぽい造語に、開幕から口元が緩む。

ストーリーの骨子は、監督自身言及している『地獄の黙示録』とその原案であるジョゼフ・コンラッドの『闇の奧』を思わせます。
ウィラード大尉とカーツ大佐の関係が、ジョシュアとニルマータに翻訳されたような感じでしょうか。
『メタルギアソリッドV』『虐殺器官』でも採用されたプロットで、SF作品との相性が抜群にいいですね。スターリング『間諜』なんかもそうかな。
ロックミュージックがしれっと流れるところまで共通してる。『地獄の黙示録』
だとローリング・ストーンズの『サティスファクション』。虐殺器官では、ジミヘンの『ヴードゥ・チャイル』、今作だとレディオヘッドの『Everything In Its Light Place』が流れる中で、航空機が敵地へと発進していく。ゴリゴリの軍人だらけのカーゴで、レディオヘッドが流れるの面白すぎません?

『ザ・クリエイター』も序盤は、第三世界へ潜入した主人公がそこで何かを目撃するというプロットで進行していき、アルフィーに出逢います。
アルフィーはテクノロジーと融合した新人類とでもいうべき存在で、神の人ホモ・デウスか、人形使いと融合した少佐、あるいは『カウント・ゼロ』のバイオチップを埋め込んだアンジーみたいな存在です。でもこの設定ではそんなに遊んでいない感じでした。

アルフィーと出会ってからは、『子連れ狼』『ペーパームーン』『E.T』『レインマン』『殺し屋たちの挽歌』を下敷きにした(らしいです)、バディものとなる。

ちょっと驚きだったのが、予告編から読み取った人類vs AIという図式が、逆だったことです。主人公はAIの側に肩入れすることになり、AIが自由を勝ち取るというエンディングで幕を下すのです。
アメリカ側がAIを規制しようとする圧政者として描かれ、アジア圏がAIとの宥和を図るグループであるという図式も、ハリウッド映画で見るのは新鮮だった。

世界観は、ポスト・サイバーパンクとも言える感じで、矢継ぎ早に投入されるガジェットのおもしろさが、ストーリーを無視して存在を主張する。
はるか上空を浮遊する要塞、ノマドが、海を走る船舶にレーザーで照準を合わせるところなんか、地図から異物を消去しているかのような寒々しい恐怖があります。
『虐殺器官』の空飛ぶ海苔フライング・シーウィードを思い出すよね。

他には、死者の意識を読み取るデバイスの冒涜的な感じとか、自爆特攻カミカゼロボのぎょっとするようなユーモアも素晴らしい。『ニーア・オートマタ』にこういう敵がいたような気がするぞ。

この『ザ・クリエイター』の世界観を支えるのは、プロダクションデザインのジェームズ・クライン。(『アバター』や『フォースの覚醒』など)
衣装のジェレミー・ハンナ。(『DUNE 砂の惑星』など)
撮影監督にグレイグ・フレイザー(同じく『DUNE』と22年版『バットマン』など)で、妥協を知らないビジュアル陣から放たれる映像の数々は、それだけで眼福というもの。
僕はシモン・ストーレンハーグシド・ミードをミックスしたヴィジュアルだと感じた。どこかレトロで、なおかつ洗練されている。

劇場はIMAXで観たのですが、全編にわたってアナログフィルムのようなザラザラした粒子感があって、デジタルとCGの生っぽさがなく、リアルな映像に仕上がっていたのが大変好み。
そして本作の最もエポックな点は、ここだろうと思う。

『ザ・クリエイター』は、何を隠そう、インディペンデント映画なのだ。製作費はたったの8000万ドルほどと言われ、この規模感の映画にしては破格の費用だ。『アバター2』が2、3億ドルくらいだと言えば、大体わかるだろうか。

エドワーズ監督はどうして、渡辺謙まで登場させたうえに低予算で映画を取ることができたのか。監督がとった手法とは、ロケ撮影した映像に、後からCGで背景物などを描画して付け足すというもので、ロケーションを一から作らない分、予算を大幅に削減できたのだ。これはちょっと革命的ではないか。
監督が元々、VFX出身で、そこらへんの知識に明るいのが幸いした。

これが何を意味するのかというと、SF映画を製作するうえでのハードルが、大幅に下がるということだ。
野心的なSF映画が製作されるきっかけになればいいですね。どんどん観たい。

全体としては、ストーリーは手堅くまとめられていて、価値観の転倒などはないものの、細部の描写には目を瞠るものがあり、強烈にインパクトを残す映画でした。

パンフレット
これクリアファイルなんですが、イオンシネマで観たらもらえました
ポストカードももらえた

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?