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映画時評『バービー』

遅ればせながら話題の『バービー』を見てきました。実は劇場で見た予告編からずっと気になっていた映画でした。予告編で僕が気になったところは、現実世界に現れたのであろうバービー人形が女の子に話しかけるも、「もうバービーでは遊んでない」と一蹴されてしまう短いやり取りのところ。
『トイ・ストーリー3』風味の相手にされなくなったおもちゃの悲哀を描くのだろうか。ぼんやり思った。

現実世界にバービーがやってくるという展開には、否応なく“バービーとは何か”という問いが潜んでくる。そういうコンセプトもなんだか気に入った。
映画のルックは女の子向けだけども、名作の雰囲気を感じとり、劇場に足を運びました。

あらすじ

バービーランドは、埃がたまらず、散らからず、ゴミも出ない理想の世界。あらゆるピンク色に囲まれ、バービーたちがハッピーに暮らす世界。標準型バービー(マーゴット・ロビー)は楽しく踊り明かす毎日のなかでふと、“死”についての考えが頭をよぎり、徐々に調子が狂い始めていく。バービーは“変わり者”と呼ばれるバービーのところへ元に戻る方法を尋ねにいく。そこで変わり者バービーが示した解決策は、現実世界に行き、自身の“持ち主”に出会うことだった。
バービーは、役に立ちたいと名乗り出たケンを連れて、バービーランドを離れ現実世界へ旅に出た!

感想

映画の冒頭で始まるのは、バービー人形が少女たちにもたらした革命の歴史である。
バービーが登場する以前の女の子向けのおもちゃの人形とは、赤ちゃんを模した人形(キューピー人形みたいな感じかな)だけで、それは少女たちに対して母親の役割を演じさせるようなものだった。人形のお世話をしたりして、おままごとをして遊ぶような人形。
そこへ現れたのが“バービー人形”である。
長い足、スリムな体系、美しいブロンド。1959年に突如現れたこのモノリスは、類人猿が手にした骨の武器のごとく、少女たちを覚醒させた。(このシーンのバービーが記念すべき初代バービーでオークションで380万円だそうです…)

母親を演じて遊ぶ人形から、自身の理想を投影する人形へと少女たちの憧れが変化したのだ。なんかもうここだけで既に面白くて元が取れた感じがする。
(ちなみに同じく59年には、マリー・クワントがミニスカートを発表します。バービー登場とともに、当時の女性像の変化が読み取れると思います。)

ところで僕はバービーについて何も知らない。映画で初めて触れる。
バービーは女の子(じゃなくてもいいけど)が人形に自分を投影しやすいようにさまざまなモデルの展開に注力している。1969年に黒人のバービーが、2015年ごろには消費者の要望を受けて、車椅子、義肢、カーヴィーな体型のバービーなど、どんどん多様性が広がっている。

おもちゃが子供に与える影響は計り知れないだろう。
自分と同じバービーがいることが、多くの子どもたちに肯定感を与えることと思います。
何より、スマホアプリやアニメ、動画のようなコンテンツとは違って、バービーは触って遊ぶことができるおもちゃです。アナログなおもちゃにスポットが当たるというのが、僕は大切で価値あることだと思った。

僕がバービーで一番好きなシーン、自身の産みの親であるルース・ハンドラーとかわすセリフが最も熱くて感動した。初邂逅のシーンもノスタルジックなムードに満ちている。
また、標準バービー(マーゴット・ロビー)の持ち主であるグロリアとの思い出(娘の記憶かと思いきや、という気の利いたミスリードも絶妙)も、おもちゃと人との不思議なつながりを感じさせてくれるものだと思う。

僕自身は『バービー』をファンタジー映画として見ている。
バービーランドの美術は、とびきりポップで、過剰なくらい元気をくれる。おまけに出てくるキャスト全員、白い歯を剥き出してどいつもこいつもいい笑顔だ。
バービーランドでは階段を使わないし、コップはいつもカラ。
限界まで開脚させられたヘンテコなバービーは、乱暴に遊んだことのある子どもなら誰しも覚えのあるネタ。
この愉快な想像力が、『バービー』の魅力の核心だろうと思います。

この映画は知的でユーモラスなファンタジーとして見ることができないと、魅力を感じ取ることができないものだと思います。社会派映画として見ようとすると、リアリティに欠けていて、深みがないと評してしまいがちになるのではないだろうか。(ファンタジーにとっては問題外)
宗教的な側面を指摘する評もあるようですが、そもそもファンタジー映画なのでこれも問題外ではないでしょうか。イメージや象徴を用いた想像力を使って物語を語るので、神話の内容と隣接する。宗教的なメタファーを見出そうと思えば、簡単に見出せるだろうと思います。ことさら鬼の首を取ったように振る舞うのは滑稽な話かもしれない。
なので僕はファンタジー映画として、豊かな空想と想像力の飛躍を評価したいと思いました。

空想を通じて、柔らかく優しく世界のありようを知っていくのが、『バービー』というファンタジー映画なのではないか。

ときに、子どもたちに愛されるおもちゃというのは幸福だ。なのでケンのことも大事に扱ってあげてほしい。

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