「コナミの商標登録問題」のあとしまつ -暗黒メガコーポの誕生とその背景-

(本記事は法律の専門家でもなんでもないアマチュア研究家が書いています。そこらへんをお含みおきの上、ご高覧ください)

1.暗黒メガコーポコナミの誕生の経緯


2022年5月、ネットの海を震撼させる事件が起きました。それは「ゆっくり茶番劇商標登録問題」。youtubeやニコニコ動画で広く使われる「ゆっくり茶番劇」という言葉が、全然無名の1ユーザーによって商標登録されてしまい、その上「商標の使用料として10万円支払え」と言い出したのです。

この事件の流れの解説は他の皆様の記事に任せることとして、ざっくりいうと最終的に権利放棄へと至りました。無事、ネットの海に平穏が戻ってきたのです。


しかしこういった商標絡みの事件が起きるたび、思い出したかのように叩かれる企業が存在します。

その名はコナミ(現コナミグループ株式会社)。1999年に実際に商標登録で問題を起こしたことがある企業です。その内容はなかなか入り組んでいて解説が困難ですが、概ね当時のユーザー視点から見るとこのような流れでした。

参考URL


発端はジャレコが発売していたVJが、コナミに訴えられるところからです。

コナミとしては「ジャレコの出してるVJはうちのビートマニアのパクリで、特許を侵害している」という主張で、基となる特許もきちんと取得していました(ちなみに私はリアルタイムでVJをやったことがありますが、いや、まぁ、確かにパクリだな……としか思えませんでした)。

ここまではまだわかる主張です。ここから先、コナミの主張は暴走をはじめて行きます。なんとゲームセンターを経営するナムコ相手に「今稼働しているVJ筐体を撤去せよ」という申請を、東京地裁へ起こします。ナムコ側としては「なんでウチもまきこまれなアカンの!?」という具合でしょうか。

訴えられたジャレコ側もやられるままではなく、コナミが出している「クイズ・ドレミファグランプリ」が自社の「早押クイズ王座決定戦」の実用新案を侵害している、と販売差し止め仮処分申請を行います。といっても、「クイズ・ドレミファグランプリ」は1996年の3でシリーズが終了しており、とっくに販売されていないので、単純にジャレコ側の報復以外の意味を持ちません。

事態は悪化します。コナミはさらにナムコを訴えます。ナムコの「ギタージャム」がコナミの特許を侵害している、というものです。さらにはジャレコの音ゲー「ロックントレッド」も訴えました。反撃とばかりナムコは「ゲームのロード中にミニゲームできる特許」を元にパワプロの製造・販売差止めの仮処分申請を行い、更に戦いはヒートアップしていきます。幕ノ内一歩vs千堂武士ばりの足を止めた乱打戦です。

このあたりでユーザーサイドもはらはらしながら戦いを見守るようになりました。なぜなら「もしやコナミはこのまま業界を特許裁判攻めして全部を乗っ取ろうとしているのでは?」という危機感があったからです。

そんな戦いの最中、とんでもない情報がユーザー間で駆け巡りました。ジャレコの、訴えられている当の製品である「VJ」「ロックントレッド」の商標を、コナミが登録しようとしている……というものです。

いったいどういう理由で!? そこまでして差し止めたいのか!?

ユーザーの目はコナミに向けられました。そしてコナミの登録商標を探りに探った結果、とんでもない情報に第二弾があることに気がつきました。

「ビジュアルノベル」をコナミが登録しようとしている!

ビジュアルノベルとは美少女ゲームブランドLeafが提唱したジャンル名で、小説並の文章量を詰め込み、そこに挿絵とサウンドを混ぜたゲームを指すものです。この時点ですでにビジュアルノベル第三弾ソフトである「To Heart」が発売され、アニメ化に至るほどの人気を博していました。

コナミは他社が提唱したジャンルを丸々横から奪い取ろうとしているのだ!


これに気がついたユーザーたちは必死にコナミの情報を探ります。そしてとんでもない情報に第三弾があることも発見しました。

「機動警察」「パトレイバー」「沈黙の艦隊」「デジタルガンガン」「スラムダンク」「ホワイトベース」「XMEN」といった商標がこともあろうにコナミのものとして登録されている!

この情報の衝撃は大きく、一気に反コナミの声があちこちにあがりました。その急先鋒がゲーム好きとして知られている芸人、伊集院光氏でしょう。ラジオのコーナーでコナミをおちょくるネタを披露しまくり、「かたっぱしから権利をぶんどりゲーム業界征服を企む悪の企業」的なイメージを植え付けていきました。

こうして暗黒メガコーポコナミは誕生していくことになります。

しかしユーザーはコナミ製品をボイコットし、直接批判の声をコナミ自身にも届けるようになります。コナミは消費者であるユーザー自身と戦う羽目になってしまいました。

「ドーモ。コナミマン=サン。コナミスレイヤーです」
コナミスレイヤーと化したユーザーのアイサツがそよ風と共にコナミマンの元へと届いた。
『ドーモ。コナミスレイヤー=サン。コナミマンです』
暗黒メガコーポの一員であるコナミマンが頭を下げる。アイサツは絶対の礼儀だ。古事記にもそう書かれている。
「イヤー! フバイ-ウンドウ!!」
『グワー!』
「イヤー!」
『グワー!』
コナミスレイヤーの見事なカラテ技、フバイーウンドウがコナミマンの体を貫く! サヨナラ! コナミマンはしめやかに爆発四散した!

ユーザーとの戦いに至ってしまったコナミは方針転換を行います。既存の登録商標の、その多数を権利放棄しました。そして裁判で係争中だったジャレコ、ナムコと和解を成立させます。互いの殴り合っていた訴訟を引き下げ、痛み分けとすることにしました。これが2000年の話です。一年間にわたって繰り広げられたゴタゴタに終止符が打たれました。「ビジュアルノベル」の商標もコナミは取得できずに終わっています。

しかしこの係争の余波は大きく、今までコナミやナムコ間でゲームセンター用のゲームを融通しあう習慣があったのですが、それが打ち切られ、コナミの新型ゲーム機はコナミ系列、ナムコのゲームはナムコ系列のゲームセンターでしか遊べなくなりました。直接的に訴訟に絡んだわけではありませんが、セガとコナミ間も断絶しています。この断絶が目に見える形で解消されたのはなんと2014年のことです。10年以上も続く、かなり長い冷戦状態だったわけですね(実際にコナミの新作音ゲーが他社にも提供されるように戻ったのは2016年です)。


さて、こんな状況をつくるきっかけになった商標登録問題なのですが、困ったことにコナミ側からまったくなにも説明がないため、「いったい何を目的にそんなことをしようとしていたのか? やはり他社から商標権で金をせびるためか?」と邪推されたままです。

これに対する答えになりそうな会談が2016年になされました。以下、引用です。

高橋:今は伝説なんですけど、コナミという会社は、「機動警察パトレイバー」という商標を取ってたんですよ、その昔。

岡田
:えっ! すごいなあ!

高橋:あれは東北新社とバンダイビジュアルと小学館じゃないですか。あとネットギアとか。「何取ってんだよ!」と。
当時、コナミは取れそうな商標を申請して、その商標が取れたら社員に5万円、報奨金が出ると。社員がみんな「おこづかい、もらえる!」って、いろんなの考えついて調べて出すと5万円もらえるっていう。もうバカスカバカスカ商標を取ったんですね。

岡田:なんか、80年代の後半ぐらいで、どっかが「ロリコン」っていう商標登録を取りました(笑)。すげーの取ったなって。何に使うんだと思って!(笑)

高橋:使えないよ。捕まっちゃうよね(笑)。そんなのコナミは、一連のなかで……。

岡田:(コメントにて)「ハガキ職人も取られた」らしいですよ!

高橋:うひゃあ!

岡田:「ハガキ職人」っていう商標登録、取られちゃった(笑)。

高橋:ひどいね(笑)。

岡田:すごいなあ。

高橋:コナミの場合は、なぜたくさん取ったかっていうと、いずれ自分たちが商売するときに、取っておくとカードとして有効なんじゃないか、みたいなね。そんなことないでしょうと。案の定、東北新社さんとか、バンダイさんとか、小学館さんとかに、「何やってんの?」って叱られて、すぐ返上するっていう。

これを読んで「しょうもないなぁw」と笑えるかもしれません。なるほど、顛末としては非常に説得力があります。

が、残念なことにこの説明は間違いであることが確定しています。



前置きが長くなりましたが、そろそろ本題を始めましょう。「コナミの商標登録問題。その背景でいったい何が起きていたのか?」 その解説を。


2.「かたっぱしから他社の商標を奪っていた」という幻想



まず、上の会談で違和感を覚えたところはありませんか? そう、「商標を取れたら5万円」というのが事実だとしても、他社の商標を取る理由付けにはならないのです。勝手に造語をつくって、ロゴをつくって、それで登録してしまえばいいだけなのです。
それに「バカスカバカスカ商標を取った」というわりにはあまりに商標が少なすぎる、と思いませんか?

BoycottKONAMIのWebページ内で記載されている商標(他社っぽい雰囲気があるとして挙げられているもの)はざっくり100個程度です。かつ、この中には実際にコナミが発売しているゲームも含まれているので、それらを取り除いても概ね80個ほど(これは精査しているわけではないのでご勘弁あれ)。
「バカスカ取った」という表現のわりにはずいぶん控えめです。ちなみに現在コナミデジタルエンタテインメントの商標全体を検索してみたところ、有効無効含め1233件でした。

そしてもう一つ、出願した日時を確認してみましょう。たとえば「機動警察」「パトレイバー」の商標ですが、これは1989年10月です。なんと問題になる10年以上も前から出願していたことになります。これは他の商標に関しても同じようなもので、「1999年から短期間に100個ほど商標を取った」わけではなく、「10年以上にわたってチマチマ商標を取り続けていた」ということがわかります。

上記の会談では
「案の定、東北新社さんとか、バンダイさんとか、小学館さんとかに、「何やってんの?」って叱られて、すぐ返上するっていう。」
ということですが、10年近くほっとかれた上に「すぐ返上する」もなにもあったもんじゃありません。バンダイも小学館も、パトレイバー関連で動いていないんです。

「なんだと! コナミは問題になる10年以上前から商標ゴロしてたのか!」と思う方もおられるかもしれません。しかしそれもありえない話しです。なぜなら「機動警察パトレイバー」を銘打つゲームは普通に出続けていたからです。

ざっくり記述するとこんな具合になります。

機動警察パトレイバー
ファミリーコンピュータ ディスクシステム 1989年 バンダイ

PATLABOR 狙われた街1990
ゲームボーイ 1990年 ユタカ 

機動警察パトレイバー 〜98式起動せよ〜
メガドライブ 1992年 マーバ

機動警察パトレイバー 〜グリフォン篇
PCエンジン用ゲーム 1993年 リバーヒルソフト

機動警察パトレイバー
スーパーファミコン 1994年 バンダイ

PATLABOR OPERATION TOKYO BAY
PC-9801 1994年 バンダイ

「パトレイバー」「機動警察」に引っかかるタイトルがごくごく普通に他社から発売されています。つまりコナミ側としても別に商標権を振り回すことなく、スルーしています。バンダイや小学館が動かないのも当然です。

ちなみに判例を検索してみても「コナミが他社の登録商標で訴訟を起こした」という事例は見つかりません(最近こなみ珈琲を訴えてますが負けてます)。

裁判所を通さず「パトレイバーを使いたきゃウチにみかじめ料払えや」と直接因縁をつけにいった可能性はあるでしょうか? その可能性も非常に薄いです。なぜならそんなことをしてしまえばマスコミの餌食になります。
2000年前に発売されたゲーム業界本にて、「某社が他社の商標を勝手に取り、その利用権を振り回している」と記述された本は私が知る限り一冊もありません。こんな面白そうな話しをスルーする理由もないはずなのに。

そもそも「パトレイバー」「機動警察」ともに指定が「業務用テレビゲーム機その他の遊園地用機械器具その他」になっています。つまりアニメや漫画、家庭用ゲーム関連のほうには一切影響をもたらせるわけがないのです。

パトレイバーの話ばかりしてしまいましたが、これは他の作品の商標でも同じことです。「沈黙の艦隊」の出願日は1989年ですが、他社から普通に沈黙の艦隊のゲームが1992年に無事発売されています。

これはいったいどういうことでしょうか? コナミは当時から原作つきゲームを多数販売する会社でした。商標の出願日から察するに、「社内的なプランが立ち上がったと同時に商標を申請。しかしプランが途中で企画倒れになってしまった後も取り消しせずそのまま」という管理体制だったというのが見えるわけです。そのため、商標に関してこのような方針だったと推察できます。

さらに、コナミがこのような管理体制を取った理由もある程度説明できます。それは「グラディウス商標登録問題」です。


みなさん、「グラディウス」と聞くと「ああ、あの横スクロールSTGの名作だな」と思いつくかと思います。ところがそのグラディウスの登録商標、当初はナムコが取得していたことをご存じでしょうか?

グラディウスは1985年に稼働を開始した人気アーケードゲームです。なのですが、その商標を1984年にナムコが出願していたのです!

いったい何なのだ!? 産業スパイか!? ニンジャか!? と思われるかもしれませんが、実はこのとき読み方は「グラディウス」ではなく「グラデュース,グラジウス」で登録されています。おそらくは短剣を意味する「GLADIUS」では商標が登録できないだろうと判断して「GRADIUS」にしたところ、二社が被ってしまった……というのではないでしょうか。時間的にもナムコに開発が立ち上がった段階だろうグラディウスの存在がわかっていたようにも思えません(両社ともグラディウスの正しいスペルがGRADIUSと思い込んでいた、という説もあるにはあります)。
かつ区分が「家庭用テレビゲーム機おもちゃ他」となっています。そのためコナミとしてはアーケードゲームで展開するには問題がありません。が、グラディウスは人気作だったのでファミコン他各社ゲーム機に移植される運命でした。そこでこの商標登録問題が立ち塞がったわけです(ただし実際に商標権がナムコに発生するのは公告日の1986年11月28日ですので、それ以前に発売されたファミコン版グラディウスに関しては効力を発揮し得ません。すでに発売済みですので。その後、続編を展開するときにちょっと問題になりそうです)。

この話の詳細は不明ですが、顛末だけはわかっています。ナムコはコナミに対してグラディウスの商標を譲り渡しています。金を支払ったのか、無償だったのかはわかりませんが、現在のグラディウスの商標の持ち主はコナミです(まさかナムコ側も将来コナミに訴えられるとは思ってもみなかったでしょう)。

コナミ側としては良い教訓でした。さっさと商標を取っておかないと変なトラブルを呼び込みかねない。そう判断した結果、「とりあえず社内プランが立ち上がった時点でとりあえず商標を取る」という方針へと決めた、とわかります。

つまりユーザーが発掘したとんでもない情報第三弾は、なんてことはない、悪事にも繋がらない些細な話でしかなかったのです。それが「VJ商標登録問題」「ビジュアルノベル商標登録問題」と重なって、暗黒メガコーポコナミとしての虚像を拡大させていっただけ……というわけです。

しかし「ビジュアルノベル商標登録問題はいったいなんなんだ! これこそ暗黒メガコーポコナミの証拠じゃないか!」と思う方もおられると思います。ですので次に、ビジュアルノベル問題の解説を行っていきましょう。

3.ビジュアルノベル問題の問題点


まずはPS1版To Haertのパッケージをご覧下さい。おそらく何処のご家庭にも一つは常備してあると思います。
……ありませんか? しかたありません。私の家の備え付けのものを出しましょう(嘘です。このために買いました)。

届いて開けたところを
妻に見られました

よーくご覧下さい。どこにも「ビジュアルノベル」と記載がありません。
さらに当時の紙面広告をご覧下さい。

電撃王1999年4月号 雑誌広告
週刊ファミ通1999年4月9日号 1999年3月26日号 雑誌広告

ビジュアルノベルという単語がありません。
あわせて当時のゲーム雑誌の特集もみてみましょう。

週刊ファミ通1999年3月26日号
週刊ファミ通1999年2月5日号
電撃プレイステーション 100号

どれもこれも、「ビジュアルノベル」と書かれていません。おまけに道新スポーツでの開発者、高橋龍也氏へのインタビュー内でも「ビジュアルノベル」はありません。

道新スポーツ 1999年5月21日分

当時のデジタル会報のリリースデータを確認しても載っていません。


一応補足しますと、ありとあらゆる媒体から「ビジュアルノベル」が見当たらないわけではありません。おそらく担当者が詳しい場合、記事中に「ビジュアルノベル」と書いた特集も存在します

電撃プレイステーション 103号
Vジャンプ増刊 ヒロインゲームコレクション
げーむじん 1998年10月号

週刊ファミ通 1999年4月2日号


これはいったいどういうことでしょうか。To Haert制作者髙橋龍也氏に直接お伺いしました。

お答え頂きありがとうございます。その理由ははっきりとはしませんが、「ビジュアルノベル」をあえて前に打ち出さない広告は意図的であったとのことです。

つまりこういう仮説が立てられます。

コナミは「ビジュアルノベル」がすでに存在することを知らなかった。

この仮説を補強する状況証拠は他にもあります。本当にコナミが「他社の商標を奪って自分のものにしてやるぜゲヘヘ」と暗黒メガコーポらしい(?)ことを考えていたとしましょう。その場合、ビジュアルノベルよりももっと相応しいジャンル表記がそのときすでに存在しています。「サウンドノベル」です。

サウンドノベルはチュンソフトが1992年に発売した「弟切草」を初めとするゲームシリーズです。「文字主体で、選択肢ごとにゲームの展開ががらりと変わる」というのはまさしく発明で、一気に新しいジャンルを作り上げるに至りました。現に他社からも多数のノベルゲームが誕生しています。その波及はパソコンの、美少女ゲームにも及んでいます。

1996年、Leafが18禁ゲーム「雫」がPC向けに発売。これはサウンドノベルの流れを汲んだ作品でした。文章を読み進めて選択肢を選び、画面にはヒロインたちの絵が重なるというものです。これをLeafは「リーフ・ビジュアルノベル・シリーズ」と銘打ちます。これがビジュアルノベル第一弾です。

つまり源流はサウンドノベルであり、ビジュアルノベルは、あくまで美少女ゲームブランドLeafが提唱した派生です。そして大事なことですが、この1999年の時点では「サウンドノベル」は商標登録されていませんでした。つまりぶんどれるものならこちらのほうに手を伸ばすのが自然です。
それをしていない。
だからこそコナミは自社でノベルゲームをつくろうと思い企画を立ち上げたものの、サウンドノベルというジャンルを使わず別の名前である「ビジュアルノベル」を思いつき、それを商標登録しようと至ったと察せられます(ちなみにサウンドノベルはこの騒動がきっかけになったかどうかはわかりませんが、2000年10月にチュンソフトが出願しています)。

「いや、信用できない。コナミは美少女ノベルゲーの代名詞であるビジュアルノベルを奪おうとしたに違いない!」と思う方もまだ居られると思います。

ところでコナミが「ビジュアルノベル」と銘打って発売しようとしたゲームがあるのをご存じでしょうか? そのタイトルが何だったのか、気になりませんか? 私は気になります。

ときめきメモリアル? みつめてナイト? それともウインビー国民的アイドル化計画? 

すでに消されていますがコナミはニュースリリースを出したことがあり、それのコピーがBoycottKONAMI内に残っています。それを再度転載しましょう。

「美しいCG映像とテキストで異形の怪物が住まう世界を演出する”ビジュアルノベル”第一弾『サイレントヒルAGB(仮称)』」(以下略)

はい、コナミが出そうとしたビジュアルノベルとは「サイレントヒル」です。

ご存じない方もいるかと思いますので解説致しますと、サイレントヒルとはコナミが発売していたサイコホラー系作品で、バイオハザードの流れをくむアクションゲームです。怪物がでるわラジオからノイズが流れるわ裏世界に入り込むと廃墟が血の海だわと、恐怖と嫌悪感を著しく刺激される作品で、私は途中で挫折しました(夜にプレイするもんじゃありません)。

……どうですか? ビジュアルノベルというブランドをかっさらってつけるに相応しいゲームタイトルでしょうか? ちなみにこのサイレントヒルAGBですが、「プレイノベル サイレントヒル」としてGBAにて発売されました。ストーリーは初代のものをベースにオリジナル要素をつけくわえた、サウンドノベルになります。ビジュアルノベルは結局コナミが取得できなかったので、かわりに「プレイノベル」と銘打たれました。

「すでにビジュアルノベルが存在することを、コナミは把握できていなかった」……状況証拠的にそう判断せざるを得ません。

ちなみになのですが、なぜアクアプラス(Leafを有する会社です)が「ビジュアルノベル」を商標登録していなかったか、ですが。

ということです。コナミが「ビジュアルノベル」を登録できなかったのは、異議申し立てがあったからなのでしょう。

ちなみに結局コナミは「VJ」「ロックントレッド」においても商標を取ることができていません。理由は商標法第四条、「商標登録を受けることができない商標」にひっかかっていたためです。

この第四条では

他人の業務に係る商品 又は役務と混同を生ずるおそれがある商標

他人の業務に係る商品 又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一 又は類似の商標であつて、不正の目的をもつて使用をするもの」

商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

の商標登録を認めていません。すでに広く認知されている商標は認めないし、他人の商品の商標を勝手に取ることも認めないし、パクリ商標も許しません、ということです。おそらく「裁判で訴えてる相手の製品を取ろうなんて認めるわけないだろ!」というごくごく当たり前の話が展開されたものと思われます。ようするに、コナミは商標法にあまり詳しくなかったのでしょう。

仮の話になりますが、もしコナミがジャレコを訴えていなかったら、その場合このビジュアルノベル商標登録は問題になりえたでしょうか? ニュースリリースを出した瞬間に、コナミは物笑いの対象となって、静かにニュースリリースが訂正されて、いつのまにか「プレイノベル」になって、それを見てまた皆が笑い、次第に忘れていく……。そんな程度で終わっていたと思いませんか?


4.皆が求めていた暗黒メガコーポ


「他社製品商標登録問題」「ビジュアルノベル商標登録問題」も、元を正せば最終的に「コナミvsジャレコ・ナムコ裁判」から発生し、そこから疑惑が拡大していった事例と言えます。
この裁判の注目度が非常に高かった点としては、おそらくはじめて「パクリ製品が訴えられた裁判」だからと言えるでしょう(エムブレムサーガ裁判は勝手に続編をうたってしまった事例で、ファイターズヒストリー裁判はソースコード盗用が疑われてました。VJはそういった過去の事例とは違い、「類似しすぎた商品」として訴えられました)。
しかしコナミも本格的な特許裁判はこの事件が初めてです。ジャレコ相手だけならず、ナムコ相手にまで戦線を広げ、手痛い反撃を受けました。

ここから先、コナミは特許裁判の戦い方を洗練させていきます。韓国メーカー相手にビートマニアの類似品との特許裁判に向かうのですが……それはまた別の話にしましょう。ちなみに韓国勢の戦いでもコナミは苦戦を強いられている場合もあります。ユーザーが懸念していた業界全体を巻き込んだ特許抗争は起きていません。

そういった手法の洗練さとは裏腹にコナミのイメージは底をついたままでした。一度貼られたレッテルを剥がすことはなかなかに難しいのです。
しかし実際に当時の流れを見直しコナミがやらかした不手際は具体的になんだったのか、というと「商標法をよく理解しておらず、VJやロックントレッドを販売中止にするための手法として選択してしまった」だけではないでしょうか。それはそれで確かに悪事といえるでしょう。が、はたして暗黒メガコーポの所業として相応しいと言えるでしょうか。

コナミのイメージが落ちた原因である事件について、上記にいろいろと記述してきました。ここらで一度「コナミ外」の原因について語っていこうと思います。これは直接的な事実とは関係ない、あくまで当時の空気を知っているものの一人としての回想であると思ってください。

1999年6月、当時のネットの海に静かに広がっていく一つの騒動がありました。「東芝クレーマー事件」と呼ばれるものです。東芝のVHSビデオデッキ(多分若い子にはわからないと思いますので補足を入れますと、DVDのご先祖様です。DVDがわからない? ……ええと、ググってください)にて不具合が発生したため、東芝のサポートセンターに連絡した1ユーザーであるAkkyさんが、その東芝の担当者からクレーマー扱いされ暴言を吐かれた、というのです。その暴言を録音し、インターネット上に公開し、それを聞いた人が他の人に教えて、騒動が時間とともに加速していったのです。

7月にはその騒動が無視できない規模にまで発展。東芝は謝罪会見を開いた上、副社長が出向き、Akkyさんに直接謝罪することで解決に至りました。

この事件により、インターネットを通じてユーザーに一つの教訓を与えました。

「大企業が悪事を働いても、今までは見逃されるだけだった。しかし今はインターネットがある。インターネットならば、1個人が大企業を動かすこともできる」

当時はインターネットが普及しはじめの時期でした。その未知の可能性を皆が模索していた最中、ともいえます。これは幻想ではなく、ただの事実であることは時代が進んだ今であれば肌感覚として皆が周知していることかと思いますが、当時としては衝撃的な出来事だったのです。
我々はインターネットという武器を手に入れることができた、という感銘を受けました。そんなときにコナミというやらかし企業が現れました。それならば武器を使うべきです。手に入れたばかりの、威力が申し分ないそれを。

しかしその武器を使う前によく精査したと言えるでしょうか。商標がジャンル分けされていて、効果は限定的だということを当時の人達は知っていたでしょうか。パトレイバーが89年から出願されていたことの意味を、どれだけ深く考えたでしょうか? 
当時のコナミは稚拙でした。そして同時に、批判するユーザー側もまた、稚拙であったといえなくはないでしょうか。

自分たちが強大な力を得た、と実感したユーザーが心のどこかで求めていたもの。それは戦うべき相手であり、思う存分叩くことができる暗黒メガコーポだったのではないでしょうか。その標的としてコナミが選ばれ、叩かれた。今振り返るとそう思えてなりません。
つまり「暗黒メガコーポのコナミが叩かれた」わけではなく、「コナミを叩くためには暗黒メガコーポである必要があった」という逆説的な話になるわけです。

ところで上記で出てきた東芝クレーマー事件なのですが、その後、意外な展開を迎えていたことをご存知でしょうか? 当のAkkyさんは、2009年に窃盗罪で逮捕されています。母親が入院している病院に忍び込み、そこのノートパソコンを盗んだのです。病院側は幾度となく同氏からクレームを受けていた、とのことで、そのいざこざから正義を暴走させた事例なのかもしれません。

今年は2022年です。この事件から20年以上が経ちました。ずいぶんと長くかかってしまいましたが、当時コナミを叩いていた1ユーザーの深い反省として、この記事をかきあげました。少しでもご理解いただけたら幸いです。


最後にこの言葉をもってして、本記事を締めようと思います。

To Heartはガチの神ゲーなので全人類やってください。HMX-12最高。


2022/8/2 追記:補足版を書きました

Special Thanks 資料・情報を提供してくださったTwitterの皆様

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🅾🅺🅰🆉 @okaz6809
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ちゆ12歳(21周年) @tiyu12sai
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