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作家が書くペースは早くない

作家は年間で書くペースを決めている

例外はあるだろう。
もちろん、すべてではない。
しかし、私の好きな作家のお二人は、このように話している。
「年間に一冊書ければいい」

作家の村田沙耶香さんは、『コンビニ人間』でブレイクした作家だ。
2016年当時は作家仲間の中では「クレイジー沙耶香」と言われており、その奇抜な発想と人間の嫌な部分をリアリティをもって描くことにおいては、右に出るものはいなかった。
そのため、ニックネームも奇抜なニュアンスで呼ばれていたのだが、この立ち位置は現在の2024年でも変わらない。
「クレイジー沙耶香」そのものである。

しかし、彼女のような作家でも、一年に一冊というペースで書いているという。もっと、すさまじい勢いで書いているように感じるが、意外と「筆が進まない」という悩みを話していた。
それでも、アイデアは無限に降ってくるようで、常に頭の中では、物語を創って遊ぶことがリラックス法だという。
しかし、それを文字化すると「自分でも結末がわからなくなる」という状態になるそうだ。
頭の中では、結末まで物語を創るのに、書きだすと物語がどこへ行くのか見えなくなる。そのため、筆が走り出すまで待つような感じになるのかもしれない。

作家の平野敬一郎さんに至っては、三年に一本の長編小説が書ければいいと思っていらっしゃるようで、それまでは短編を積み重ねるのだそうだ。

しかし、お二人ともに共通しているのは、「十年先までしか出版社とは約束しない」とのことだった。それは「それ以上は自分でも責任を持てない」からだというのだが、お二人とも共通している数字に疑問を持った。

『十年』という単位だが、これに関しては多くのビジネス書でもテーマにされている数字だ。
『十年計画』→『五年計画』→『三年計画』→『年間計画』→『四半期計画』→『半年計画』→『月間計画』→『週間計画』→『今日の計画』
このように落とし込んでいくことによって、大きな夢や目標の【実現可能性】をあげていくという方法である。
わたしは、敬愛する二人の作家さんが、口をそろえておっしゃる『十年』という単位に、こうした計画を立てているのではないかと推測した。
もしかしたら壮大な目標に向かって、計画しているのかもしれないし、なんとなく偶然に、漠然と考えていることが自然とそのような形となって表現されているのかもしれない。
しかし、こうした偶然の産物の中には、必ず“必然性”が潜んでいるものである。そこには必ず、譲れない理由がある。
そう考えたとき、わたしの中では、「こうした多くの書籍の中で言われている数字には必ず意味があるのではないか」という答えが導き出された。

作家の多くは、それほど筆が早くない人が占めている。
そのように聞いたことはあったが、わたしの好きな作家のお二人が、年間を通して一冊以上の成果を求めていないことに、改めて驚いた。

それにしても、こうした『十年計画』だが、よくよく考えてみたら、私も知らず知らずのうちに立てていたことを思い出した。
心から無意識で、『十年後の未来』を思い描いていた。
「十年後までには達成したい」と、公言すらしていた。
何かのビジネス書で読んだ中に、「人は十年以上先の未来を想像できない」とあった。そうかもしれない。
今から十年前、自分の生き方を思い出した時、今の生き方を想像できていた人は、どのくらいいるのだろうか。
そう考えてみると、わたし自身、十年後の未来を思い描くことはできない。想像すらできない。
経験していないことは想像できないという人間の特性にもつながっているが、十年後というのは“手が届きそう”なのにも関わらす、果てしない未来でもある。

すごく感動した作品に出会ったとき、「あの作品はすごかった」と余韻に浸るのだが、その余韻冷めやらぬ内に、次の作品が出てくる。
しかしそれは、よくよく考えてみると、数年経っていたりする。
わたしたちは意外にも、自分の感覚よりも早く、年齢を重ねているような錯覚に陥ることがある。それにかなり近い。
改めて、自分の年齢を考えたとき「今年で〇〇歳か……。え?! もう〇〇歳!?」という具合に、驚くことがある。
もはや、こんなにも月日が経っていた。
そんな人生は、実は幸せなのかもしれない。
幸せであればあるほど、時は残酷なほど早く進む。
「幸福を感じている暇など無かった」と、ついつい言いがちだが、その瞬間瞬間は幸せに感じていた時間が、間違いなく存在した。

長く人間をやっていると、『十年』くらいの時間はあっという間に感じる。
それでも、長すぎず、短すぎず、ちょうどいい時間でもある。
それでも、そんな未来すら、予測できない。
だから人生は面白いのかもしれない。

予測不可能な時間の積み重ねによって、あっという間に時が経とうとも、その瞬間に必ず自分の存在はそこにあった。
そういうことを、数回重ねて、私たちは人生を終える。
それは、何よりも幸福な時間の積み重ねなのかもしれないと、今は思う。

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