鶴岡八幡宮で大凶を引いて女友達との友情を育んだ日 【靴の底 #25】
女友達との悪口大会ってどうしてこんなに楽しいんだろう。
一年以上ぶりに友人に会うことになり、私はわくわくしていた。
友人のアイちゃんは前の職場の同僚で、お互い長く付き合う彼氏との結婚の悩みや愚痴をランチタイムどころか、仕事中も吐き出しまくった戦友だ。
そんな私たちもランチタイムのネタになっていた彼氏と結婚し、アイちゃんは一児の母にもなった。
私が鎌倉に引っ越したことや無職ライフをしていて平日が暇だということから、一年以上ぶりに鎌倉で遊ぶことになったのだ。
「もうさ!私、仕事クビになっちゃって!A派遣会社最悪だよ!」
鎌倉駅の鶴岡八幡宮改札口で再会したアイちゃんが挨拶もそうそうに早口で話し始める。
「もうさ!リモートワークで、仕事も楽だったから最高だったのに!」
「私もさ!熱中症で倒れて会社に連絡できなかったときの社長の一言『本当に熱中症?仕事いやで逃げ出したんじゃない?』だよ!クソ社長!もうお前の不倫話は聞きたくないんだわ!」
「やめちゃって正解!正解!せーかい!!」
私たちの挨拶に「ひさしぶり〜」「元気〜」という呑気な会話は一切ない。
とうとう再会できたドブ女仲間への感嘆の気持ちが次から次へとでてくる。
どんどん出てくる、沼の中から今まで溜めにためた悪口と愚痴の塊。
ドブ女のサイヤ人化した私たちはお互いでカメハメ波を打ち合い、大声で話し、時には大笑いしながら、せっかくのオシャレなランチを無惨にもたいらげ、なんたらかんたらという上品な紅茶と可愛い杏仁豆腐を喉に流し込み、ひたすら悪口大会を盛り上げていった。
「あ、ここのカフェさ。雪ノ下にあるじゃん。鶴岡八幡宮が近いから寄ってみる?」
せっかく鎌倉に来てもらったのだから一応観光もするべきだろう。
店を出て鶴岡八幡宮に向かう途中で、話題は自分たちの旦那に変わった。
「ほとんどワンオペなんだけどさ。もう眠れなくて疲れて台所の排水溝の掃除できてなかったのよ。そしたら旦那がめずらしく掃除して「排水溝真っ黒だったよ〜ちゃんと掃除しなきゃダメじゃん」って言ってきて。私その時はじめて「おめぇ!たまにやったからって調子のんな!」って言っちゃったんだわ」
「わかるわー。なんかたまにしかやらないのに、めっちゃあいつら(旦那)って調子乗るんだよな。で、いいとこ取りうまくてさ」
「ほんといいとこ取りうまい!子供可愛がるくせに、嫌がることはしないから私より好かれててさ!」
鳥居をくぐっても止まない私たちはそのまま大階段を上り、参拝までした。
さすがに手を合わせている最中は黙っていた。
「ねぇ!おみくじひこうよ!」
もうアラサー真っ只中の私たちだけど、「おみくじ」という言葉に20代の頃を思い出す。
そう言えばアイちゃんと新宿の母に占ってもらったことあったな。
新宿の母に「その彼氏と別れる」って言われたけど、結婚したよ、母!占いってあてにならないね!
200円払い、二人でおみくじをひく。
大凶!!
しかもふたりとも!!
「悪口ばかり言ってたからだよ!!」
「完全に鶴岡八幡宮の神様に怒られてんじゃん私たち!!」
先程の無双状態から一変、プチパニックを起こす私たち。
もうそりゃ、神様に手を合わせている以外ずっと人の悪口いってたから罰があたる要素満点だ。
「まって!!ちょ!怖い!!」
ーーー身の振り方を考えろ
ーーー相手への思いやりを持て
おみくじには鶴岡八幡宮の神様からのお叱りの言葉も書かれていた。
そういえば!とアイちゃんが少し涙目でおみくじから顔を上げた。
「私の高校時代の社会科の先生が、おみくじで悪いのが出たら良いのがでるまで引き続けろって言ってた!!」
「それだ!やるしかない!!」
急いでおみくじ売り場まで行き、200円払う。
凶
「ちょっと上がった!凶になったよ!」
「ってか二人で凶ってさ!まだ神様怒ってるよ!」
私たちは大人・・・。金はある。
もう一度、200円払っておみくじをひく。
吉
「やったーーー!!!!もうこれいいんじゃない!?」
「もう大丈夫だよ!!きっと許してくれるって!!」
プチパニックを起こすアラサーの大人は600円を神様に支払い、安心を得た。
きっとこの騒動に神様も関わりたくなくなったのかもしれない。
鳥居をくぐるまで悪口を言うのはやめとこう。
ドブ女が悪口を言わないのは、息ができないのと一緒なのだが我慢して鳥居をくぐった。途中呼吸困難になりそうだった。
「でさ。さっきの続きなんだけど」
「まだあるんかい!私もまだ話しあるよ!」
子どもの迎えがある16時まで散々ドブ女トークをし、たくさん笑って鎌倉駅でアイちゃんを見送った。お互い晴れやかな顔をしている。
やりきった・・・。こんな清々しい気持ち、いつぶりだろう・・・。
心の底に溜め込んでいた黒い塊が彼女との会話ですべて消えていったような気がした。
観光客の波をかき分けて歩く帰り道がとても軽い。
「今日は旦那の好きな手羽先でも焼いてあげよう」
鶴岡八幡宮でひいたおみくじに書かれていた言葉を思い出し、スーパーYAMAKAに入っていた。