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喧嘩をインド人に諭される【靴の底 #10】

今回の喧嘩の理由は、ペットボトルが机に放置されていたからだ。
昨晩、飲んだペットボトルをそのままにしていたから「分別してゴミ箱に捨てて」と言うと「明日の朝やるわ」と言って寝室に向かった。
朝、起きてみるとペットボトルはそのまま鎮座されていた。

女が怒る理由はそれぞれあるが、私の場合蓄積された怒りが小さな引き金により爆発する。
そのまま怒りラウンドがはじまり、途中鎮火はしたが、ムカムカは止まらず火種はくすぶり続けた。

ペットボトルを旦那が放置→見つけた私が分別をしてゴミ箱へ→スーパーへペットボトルを持っていきポイント交換。
という流れを2年間続けており、私の気持ちも限界だったのだ。

なぜ分別してゴミ箱に入れることができないのだ!!!!!

棘のある私の言葉にうんざりした旦那は、夜は外でご飯を食べてくると言って、外に出ていった。
部屋に一人になっても怒りはやまず、なぜかムカムカしてたまらない。
そもそも彼は私に甘えすぎなのだ。仕事のことだけすれば良いと思っているのだ。私だって傷病手当のお金を家に入れているのだから、彼も家事を積極的にすればいいんだ!!

「腹立つ!!家出してやる!!!!!」

部屋着のまま家を飛び出し、道をぐんぐん進んでいく。
知らないジジイに何か野次を飛ばされても、今なら絶叫しながら言い返せる自信がある。
近所をグルグル回っているとカレーの良い匂いがしてきた。
そう言えば、お腹が空いている。。
近所のカレー屋さんは南インド出身の店主が営んでいる地元から愛されるお店で、私も旦那も大好きなお店だ。
「私だって!外でご飯食べてやる!!!」
意気込んで店の扉を開けると「いらっしゃいませ〜」とインド人の店主が笑顔で迎えてくれた。
結構な大きな声で「今日は一人です!!」と言うと、少し間を開けてから壁際の席を進めてくれた。

「バターチキンカレーとチーズナン!あとラッシーください!!」
メニュー表が運ばれてくると同時に注文をし、しばらくするとセットのサラダとラッシーが運ばれてきた。
勢いよくサラダを口に運ぶ。ここのサラダは最高だ。なんたってアボガドが入ってるからな!!
「これどうぞ〜」と店主がサービスでパパダを運んできてくれた。このパパダが旦那は大好きで、単品で頼んではビールを飲んでいるのを思い出す。
ヤツのことはどうでも良いんだ!!と、思い出した旦那を振り切り、パリパリのインドのおせんべいを食べる。
しばらくすると湯気がたつ、バターチキンカレーとチーズナンがやってきた。
みじん切りにされた生姜とともに、まずはカレーを口に含む。さっぱりしていて、濃厚。とろみと甘さが抜群だ。ここのカレーに勝るものはなし!!
熱々のチーズナンも手に取り、千切るとチーズが伸びる、伸びる。
チーズナンをカレーに付けて、勢いよく食べる。
なんて美味しいんだろう〜〜〜。
幸せだ。。幸せだけど、何か物足りない。いつものなら眼の前にある光景が今日はない。

勢いよく食べに食べて、ホッと一息食べ終わる。
「どうぞ。ヒミツね」
満腹になりお腹をさすっていると絶妙なタイミングで、チャイがでてきた。
「ありがとうございます!あの、このチーズナン、テイクアウトで!」
「はーい」
南インドに家族を残す店主は日本語が堪能で、彼の努力や丁寧さが合間に感じられる。
チャイにシュガーを入れて、スプーンでくるくると混ぜる。この店のチャイはさらに美味しくて、心が暖かくなる。
「今日どうしたの?一人で来て」
「・・・喧嘩した」
私の言葉に店主がニヤリと笑う。
「喧嘩?なにで喧嘩したの?」
「ペットボトルが・・・」
喧嘩の理由を思い返してみる。とてつもなくどうでも良くて。とてつもなくくだらない理由だ。
「許してあげてください」
インド人の店主が笑顔で手をパンと叩く。
「旦那さんもあなたもとても良い人。たまに喧嘩するかもしれないけどね」
真っ黒な瞳でウィンクをされると、これまた喧嘩がどうでもよくなってしまった。

チーズナンは彼も大好きだから、明日のおやつに出してあげよう。
テイクアウトの袋を持ち、コンビニの前を通ると店先に花束が売っていた。
今回創刊のHanakoと花束を持って家に帰る。

外に出ると自分の視野が変わるのはなぜだろう。

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