保護猫から学ぶ心を開くことのむずかしさ 【靴の底 #23】
毎晩布団に入る前にブラインドを上げて夜中窓から外を眺められるようにすることが日課になった。
預かりボランティアをはじめてからの私の役目だ。
昼間は隠れ家に隠れて出てこず、夜皆が寝静まるとソロリソロリと出てきてこの窓から外を眺める。寝返りをうつと急いで隠れ家に隠れる。また出てくるの繰り返し。
人間は悪い、怖い、オレを傷つける。
保護猫からは私たちに対しての敵意と恐れを感じ、この家につれてきて可哀想なことをしてしまったのではないかと罪の意識を感じる日々だ。
その姿はむしろ、他人は敵だと思い、家に引きこもり、人に心を開こうとしない自分自身の姿にも似ている。
兎にも角にも保護猫のことが毎日心配で、「おいちぃ食べる?」と聞いてみたり、布団に隠れて猫じゃらしを振ってみたりした。
一日、姿を見せる時間が長くなり。
また一日、「おいちぃ食べる?」と聞くといつの間にかご飯の場所に座ったり。
さらに一日、興奮しながら猫じゃらしで遊ぶようになり、私たちも笑い声をたてるように。
一ヶ月・・・、お腹を撫でられてうっとりするようになった。
心を開くには時間と強さが必要なのだ。
毎朝、「飯くれ〜」の鳴き声とともに起きると不思議な感覚になる。
仕事を辞めてから一年。都会の満員電車に揺られる日々から一転、今は保護猫と旦那と三人で海風を感じながら鎌倉の街で暮らしている。
そういえば、今日は鎌倉で出会ったお友達がヤングコーンを持ってきてくれるらしい。
ヒゲの部分をアルミホイルで包み、トースターで焼くと美味しいらしく、しきりにバター醤油で食べるように言う。
彼女が家に来たら、また保護猫は隠れ家に隠れて身を潜めるだろう。
心を開くのに時間が必要な彼は突然の訪問に驚いてしまうから。
一年経つと環境や出会いはだいぶ変化するらしい。
そろそろ私も動き出さなくては。
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