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物と物語をもっと 【アドベントエッセイ(270/365)】

早いものでクリスマスまであと95日を切った。

どこよりも早いアドベント企画、270日目は「物と物語」の話。


最近、「週刊日本の天然記念物」という雑誌をオークションで手に入れた。


2002年に小学館から発売された週刊誌で、毎号テーマの天然記念物について解説する冊子と、精巧に作られた動物のフィギュアがついてくる。



50巻まで出ていたが、当時小学生だった私は恐竜に夢中で、動物は射程圏外だった。



大人になって、この週刊誌についていたフィギュアがとんでもなく精巧に作られていたことを知り、酷く惜しいことをしたと思っていたのだ。



そんな幻の雑誌が、なんと全巻未開封の状態で、格安で出品されていた。思い切って買い、今我が家には巨大なダンボール2箱分の幸せがでんと鎮座している。



毎日1巻ずつ読むのが最近の楽しみになった訳だが、この中身が本当にすごい。



フィギュアの出来もさることながら、1巻に詰まった情報量が凄いのだ。


天然記念物の生態解説に始まり、人間との歴史、保護活動の現状、モチーフを取り上げた芸術作品の紹介に至るまで、ターゲットの情報をあらゆる角度からまとめている。しかも、フルカラーだ。


私は過去に雑誌編集に携わった経験があるので、雑誌作りの大変さを一部ながら知っている。なので、このクオリティの雑誌を、週刊で、しかも850円で発刊できていたことがにわかに信じられない。


1冊読むうちに、その天然記念物の情報が頭の中に蓄積されて、フィギュアに対する思い入れがめっちゃ深くなる。


動物本体の造形は、体の部位単位で楽しむことができるし、フィギュアで再現されているポーズの意味や、生息地の自然を再現した台座に至るまで、細かく観察できる。


いわば、フィギュア自体が、冊子の情報をコンパクトに凝縮したメディアになるのだ。



人間は、物の中にある物語に価値を見出す生き物だ。


なんの情報も持たない人から見たら全然凄さが分からない芸術作品に、何億円もの値がついたり、

森の中にある1本の木に、囲いをつけて祀ったり、

知らない人から見たらゴミのように見える古びたアイテムを、誰かとの思い出の証として大切に持ち続けたり。


色んな例が浮かぶが、趣味のコレクションも同じである。


日本の天然記念物に出会ったことで、今自分の手元にある色んな収集物についても、もっと深くストーリー知った上で所有したいという気持ちが強くなった。


「これはなんですか?」


と聞かれた時、背景を全然知らない人にも、魅力を伝えられるくらい。集めたものにまつわる物語を、体に取り込みたいものだ。

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