「できた!」という喜びをもたらすデザイン~物語のデザイン2~


SYNTプログラマーの井上です。

最近は『「ついやってしまう」体験のつくりかた』という本を読んでいます。

ゲームを題材に人の心を動かす「体験デザイン」について学べる本です。



前回の記事では「物語のデザイン」というものを紹介しました。

前回の記事はこちら
https://note.mu/synt/n/n0ba05b11be1a


今回はその続きになります。


前回の記事では、私たちは「物語る本能」を持っており、常に物語を見出そうとしているというお話を紹介しました。


今回は、物語のデザインの重要な要素の一つである「成長のモチーフ」について紹介します。


ゲームや小説、漫画、ドラマ、ドキュメンタリー・・・などなど、私たちの周りには物語が溢れています。


では、最も身近にある物語とは、何でしょうか?




それは、私たちそのもの、です。




私たちの人生と言い換えてもいいかもしれません。


自分の人生を振り返った時、自身の成長した瞬間というのは印象に強く残っているのではないでしょうか?

今まで出来なかったことが出来るようになったという経験は、私たちにとってはとても大きなものです。

成長は私たちにいい刺激を与えます。



これは物語をデザインするときでも同じです。



つまり、プレイヤーが成長を実感できる物語を構築できるか、ということです。



逆に成長が実感できないゲームは、飽きられてしまいます。

どれだけやっても上手くならなければやる気がなくなってしまいますよね?


ゲームに限らず、勉強やスポーツなどあらゆる分野で「自分の成長を実感できる」というのは、モチベーションの維持に重要な役割を果たしています。



ここで大事なのはプレイヤーが成長を実感できることです。

ゲームの中の主人公が成長するだけでは意味がありません。単に主人公のパラメーターが上がるだけでは意味がないのです。



ゲームの中で展開される架空の物語をプレイヤーの物語に落とし込む必要があります。



その方法として、本書では2つの内容が紹介されていました。



一つ目は、「収集と反復」です。


「収集と反復」の最も分かりやすい例は『ポケットモンスター』に登場する『ポケモン図鑑』です。



成長するために必要な要素は何でしょうか?




勉強やスポーツをイメージすると分かりやすいかもしれません。

例えば数学の問題などでは反復して練習することが大事ですし、野球などでも素振り何十本などのように基礎の反復練習が大事だと言われます。



反復練習は成長にとって肝となります。



しかし、反復は得てして苦痛なことが多いです。


数学の計算問題を何十ページも出されたらげんなりしますよね?楽しむためのゲームでそんなもの出されたら嫌気がさしてしまいます。

そこで、苦痛なく反復をしてもらうために、ポケモンでは「反復」に加えて「収集」という仕掛けを施しました。

これは、人間のある心理を利用したものです。




それは、私たちは「穴があると埋めたくなるという心理」です。




ポケモンでは、物語の初めに白紙の『ポケモン図鑑』というものを渡されます。ポケモンを捕まえる度にこの図鑑に書き込まれていきます。

初めに図鑑という全体像を提示したうえで、そこに空いた穴を認識させる。

そしてこの穴を埋めたいという欲求が働き、自然とポケモン「収集」に勤しんでしまうのです。


収集の過程では、必然的に何度も同じ行為を繰り返さないといけません。いつの間にか反復してしまっているのです。

この「反復と収集」のデザインは様々なゲームで見られます。


私の弟もポケモンにハマっているのですが、その記憶力には驚愕します。何しろ100匹以上ものポケモンの名前を覚えているのですから。


ポケモン「収集」の過程で、ポケモンの捕獲を「反復」することで、ポケモンの名前の暗記という「成長」が得られるのです。





二つ目は、「選択と裁量」です。



成長にとって反復はとても大事な要素です。しかし、プレイヤーがどんな行動をしても毎回同じリアクションが返ってくるようでは飽きてしまいます。

いくら「成長」が大事と言っても、ゲームオーバーがないゲームは面白いとは思いませんね?何をやってもクリアしちゃうゲームには魅力を感じません。




成長を実感するためにも、失敗の経験というのは必要になってきます。


失敗して、後悔して、「次こそは」という感情が芽生えることで成長につながります。

後悔という感情が芽生えるのは、その失敗が自分の責任であった場合です。自分ではない別の誰かのせいであれば、後悔したりはしません。




自分の意志でその選択をしたか、がとても重要になってきます。



本書では、例として難易度調整が挙げられています。ゲームの最初に”かんたん”、”ふつう”、”むずかしい”のような選択画面がでるゲームは多くあります。

これはとてもシンプルな「選択と裁量」です。

もし最初に”ふつう”で挑戦して失敗したら、次は”かんたん”を試してみようという心理が働きます。

”かんたん”が出来るようになったら、次は”ふつう”をするようになります。そして”ふつう”が出来るようになったら今度は”むずかしい”に挑戦するでしょう。

シンプルながら成長をとても実感しやすいデザインになっています。


単に自動で難易度が上がっていくのではなく、「自分で選択している」というのが大事なのです。


自分で選んだからこそ、「できた」ときの喜びはとても大きいものです。





今回は、物語のデザインの上で大事な要素である、「成長のモチーフ」を紹介しました。

ゲームに限らず、成長したい、何かできるようになりたいという欲求は多くの方が持っているのではないでしょうか?


今回紹介したお話は日常でも実践できることが多かったと思います。

「収集と反復」では、穴を埋めたくなる心理を利用するというものでした。


例えば、本を読んで勉強するとき、私たちは一ページ目から読み始めがちです。

それで三日坊主に終わるという話をよく耳にします。

一ページ目から詰めていくのではなく、まずざっくりと全体像を把握することが肝要です。

なぜならば全体像を把握すれば、必然的に穴が見えてくるからです。

教えるのが上手な人はこの全体像を見せるのが上手な人だと思います。




さて、もう一方の「選択と裁量」ですが、これは成長という点でも大事な要素でしたが、実は他にも大きな影響を与えます。


それは「幸福」です。


次回は「選択と裁量」と「幸福」の関係について紹介したいと思います。


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