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"映画館で映画を観るってどんな魅力があるんだろう" 連載企画/第一回 映画配給会社シンカ


7月23日(金)より全国順次公開の映画『最後にして最初の人類は、作曲家ヨハン・ヨハンソンが初めて長編監督として手掛け、遺作となってしまった本作。今回、「“映画館でしか味わえない映画体験”を存分にできる本作を映画館でお客様の皆様に観てもらいたい!」と日本での配給が決定しました。そんな本作の公開を記念し、第1回は、私たちシンカの作品買付調達の担当メンバーと一緒に「映画館で映画を観る魅力」を考えていきたいと思います。

第1回    映画配給会社 シンカ

スージュン(株式会社シンカ/代表取締役)
佐伯友麻 (株式会社シンカ/劇場営業マネージャー)
中川慧輔 (株式会社シンカ/オンライン事業開発担当)


まずは自己紹介を兼ねて、映画館で観て印象に残っている映画を教えてください。

(佐伯)大学時代、吉祥寺のバウスシアター(爆音上映で有名/現在は閉館)で爆音映画祭を実施していたことに興味をもって、よく通っていました。同企画の中で、スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナスが上映されることを知り、同時期に編成されていたエミール・クストリッツァ監督のアンダーグラウンドのポスターや宣伝コピーに強烈に引き寄せられ、観賞することにしました。当作はこの時が初見だったのですが、途中に休憩を挟むような5時間を超える大作だったことに驚きつつも、爆音ならではの迫力や、立体感を感じて、一切飽きずに、のめりこむように観れたことが新鮮でした。映画の味、というか魅力をさらに引き出す「爆音」という施策に魅了されたことは、私の印象的な映画体験の記憶のひとつです。

(中川)僕が体験といわれて思い出すのは、子供の頃に父に連れて行ってもらったジュラシックパーク3です。少年時代は恐竜図鑑を愛読書にしていて(笑)、確か親戚も一緒で、普段あまり行かない少し離れた映画館に観に行ったんですが、当時のロビーの様子も覚えているくらい、鮮明に記憶に残っています。

(スージュン)最初に観に行ったのは、母と一緒にいった『ウルトラマン』ですね。帰りにデパートに行った思い出があります。

(中川)前後の思い出がセットになっているんですね。

(スージュン)そうそう。映画公開というイベントに向けてカウントダウンしているようなところはありました。公開を楽しみにしているみたいな。映画館体験というと、中学生時代に地元の映画館が東映の映画館によく行ったのは覚えています。当時はお客さんがタバコを吸いながら映画を観ていて、そんな原風景も記憶に残っています。今とは大きく異なりますね(笑)時をかける少女』『セーラー服と機関銃とかメディアミックスで編み出した時代だったので、その辺の角川映画をよく観に行きました。

そもそも今回『最後にして最初の人類』を配給することになったのはどんな経緯だったのでしょうか?

(スージュン)劇場さんとのコミュニケーションのなかから出てきた候補作品でした。コロナを経て、ヒット作品の傾向が変わってきたこともあり、今後どういう作品を劇場公開していくか話をしているときに、東京テアトルの西澤さんにご紹介いただいたタイトルです。実際に試写をしてみて、映画館で観るべき作品だと思ったので、シンカで配給したいなと思いました。

(佐伯)今回、『最後にして最初の人類』の配給を決める前に、はじめはパソコンの画面で試写をしたのですが、映画館のスクリーンで観るような迫力は損なってしまうので、正直きちんとこの映画のポテンシャルを図れるか心配でした。ですが、壮大なSFの物語をモニュメントとナレーションだけで表現していくという、今まで見たことのないような映像体験となったことが衝撃的・かつ印象的で、この体験を是非多くの映画ファンにも届けたい、と思ったことがきっかけでした。

(中川)もともと作曲家のヨハン・ヨハンソン(代表作:『メッセ―ジ』など)は大好きで、アルバムやサントラも聞いていたので、彼の映画であることも興味を惹かれたのですが、実際にサウンドスケープとしても素晴らしく感動しました。とにかく音がすごいので、これは劇場のいい音響で聴きたいなと思いました。

ヨハン・ヨハンソン(1969年~2018年)数多くの楽曲を生んだ作曲家であり、演劇、ダンス、テレビ、映画など幅広い媒体に楽曲を提供。晩年は数多くの映画に携わり、『プリズナーズ』(2013)『ボーダーライン』(2015)、ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞の作曲賞にノミネートされた『メッセージ』(2016)など、数々のヒット作に楽曲を提供。スティーヴン・ホーキング博士の伝記映画『博士と彼女のセオリー』(2014)では、ゴールデングローブ賞の作曲賞を受賞した。手掛けた映画音楽として最後の作品となったのは、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』であった。2018年2月9日逝去。

先ほど、コロナを経てヒット作品の傾向が変わってきた、というお話も出ましたが、昨年から現在にかけて社内の買付体制も少し変化しました。現在、配給作品を決定する上で、いま大事にしていることはどんなことでしょうか?

(スージュン)シンカ設立10年目を迎えるにあたり、メンバーともどのような作品をポストコロナに向けて手がけていくのかについてもう一度話し合いました。コア価値としては変わっていないのですが、改めて確認をしたのは映画作品が持つ「衝撃と高揚感」というテーマ。映画に求めてる「非日常」は私たちの掲げている「衝撃と高揚感」に通じていると思っていて、そういう体験をMAXで出来るのが映画館というスペースだと考えています。なので、映画館に観に行く価値があるものを、より意識して、観客の皆さんにお届けしていきたいと強く思っています。

(シンカ/ABOUTより)素晴らしい映画との出会いは、世界を少しだけ違って見せてくれる。シンカは、映像の力で“衝撃”と“高揚”を創造し、日常を色彩る上質なエンターテイメントをお届けします。心揺さぶる映像体験を、“創る”“見つける”“届ける”。私たちがつくりたいのは、エンドロールのその先です。

実際に今年・昨年から買付にも参加されている佐伯さん&中川さんはどんなことを意識されているのでしょうか?

(佐伯)私はアジア圏を中心に担当しているのですが、コロナを経て、「愛の不時着」「梨泰院クラス」などのヒットもあり、お茶の間で観られるトレンドが出来たように感じています。実は、いままであまりアジア映画・韓流映画を観たことがなかったのですが、様々な作品に触れるうちに緻密な脚本・演技力・徹底的にエンタメを追求する姿勢や、そのクオリティの高さを知り、もっと見てみたい、と思うようになりました。いまでは社内でも積極的にアジア作品も配給していきたいね、と話をしています。トレンドは、何時、どんな風に変わっていくかわからないので、時流を捉えながらも、突出したエッジがあるもの、誰もが一つでもいいから同じ共感を得れるもの、そんな作品を見つけたいなと思っています。

(中川)基本的には佐伯さんと同じ気持ちがあるのですが、配信を取り巻く環境も変化するなかで、「なぜいま、映画館なのか」「この映画を映画館で観てもらうには価値があるのか」と問いながら、やっぱり自分自身が観ていいと思ったものを観客の皆さんに観てもらいたいと思っています。

(スージュン)非常にいいお話を聞いた気分です(笑)ますます、映画館に行くっていうのが、ハードルが上がっていると思います。それでも映画館に行く、そういう気にさせてくれる映画を届けないければいけないし、そういう場を映画館の皆さんと一緒に創っていきたいという気持ちでいます。今回の『最後にして最初の人類』もヒューマントラストシネマ渋谷やシネ・リーブル梅田の「odessa」(カスタムスピーカー)での上映が決定しているのはとても嬉しいですし、映画館ならではの鑑賞環境もどんどん研ぎ澄まして、その価値を伝えていくことを含め、我々映画に携わる者が頑張らなければいけないなと考えています。

お話をお伺いしていると配信と映画館の共存を踏まえ、価値の違いを見出しているように感じるのですが、配信で観るもの、映画館で観るものの価値基準の基準や変化について、皆さんが考えていることなどはありますか?

(スージュン)音楽でいう、ライブと音源に近いんじゃないんですかね?

(一同)あぁ(納得の声)

(スージュン)ベストは、ライブと一緒で映画館で大きなスクリーンで体験してもらうことですよね。同じ空間で観ることで、たくさんの人と共有することもできるし、非日常を体験できる、まったく見えるもの、伝わるものが変わってくる。そういった意味でも、鑑賞環境として一番いいのは、映画館だと考えています。もちろん物理的にも見れない人やその地域で公開していないなど事情もそれぞれだと思うので、カバーする意味で、動画配信などもあるのかなと思いますし、ライフスタイルや皆さんの価値で選択できるのは、とても良いことですよね。エンターテインメントは常にリアルとコピー(複製)で成り立っているので、それは共存できるのではないかと思っています。VHSやDVDが出てきたときも現在に似ている状況だと思いますし、ツールとして動画配信がそこに加ったように、より多くの人に映画を届けるきっかけが、時代によって変化しているのだと思います。

(佐伯)集約していただいて、いいなと思いました(笑)本当にその通りですね。

(中川)映画館での体験が素晴らしいというのはもちろんですが、その時々の体験まで含めたものが「映画体験」になると考えています。僕自身もVODサービスをもすごく活用しているのですが、どうしても家から出る気分でないときや、夜中に一人で布団にくるまって観た映画が、その人にとってとても意味がある映画体験になることも同じくらいあるとも思っています。どちらも共存していくべきで、鑑賞する皆さんがどちらに価値を感じていくのかを考えながら、同時に映画館での映画体験の価値を提示していくことも僕たちの仕事なのかなと思います。

いままでのお話にも出てきたところではあると思うのですが、
最後に「映画館で映画観る価値」についてぜひそれぞれ一言づつお願いします。

(スージュン)映画を創る人達は大きなスクリーン、大きな音響のある環境を想定して作っていているので、映画館はその最大価値を発揮する一番の環境だと考えています。ただ今は、ライフスタイルの違いでいろんな方法で映画に触れられますし、それも選択の自由だと思うので、改めて一番いい環境での映画の観方をいろんな方に知ってもらえたら嬉しいですね。

(佐伯)わたしは映画館での鑑賞は没入感が何百倍も大きくなると思っていて、その分、登場人物への感情移入がしやすくなり、感動の度合いも比例すると思います。映画を観に行くまでと、観に行ったあとの自分の行動や、そのとき自分がどんな気持ちだったのか、なぜその作品を選んだのかを含め、一連の流れや体験を忘れられないものにしていると思うんです。同様の体験を、是非皆さんに感じてもらえたら嬉しいですね。

(中川)常々思っているのは、映画館にいくことは、僕にとってはある種の儀式みたいなものに近いんです。チケットを買って、皆が一斉に会場に入って、照明が消えて、予告が始まって、いよいよ本編となったら少し姿勢を正してみたりして。あるいは、前日にスケジュールを立てたり、向かう電車の中や友人との待ち合わせも含めて、儀式の一環なのかもしれません。・・・そして『最後にして最初の人類』はその神聖さをより感じられる作品になっていると思います。ぜひ、劇場でお楽しみください!

(佐伯)なにかの番組をみていたような(笑)

(スージュン)番宣みたいになってきたね(笑)お二人のお話踏まえると映画って「非日常」ですよね。コロナを経てすごく思ったんですが、映画のいいところって、普段の生活とは違う「非日常」を疑似体験できるというか、その体験をより強く感じることができるのが映画館だと思いますし、そこに行くことがイベント化するし、没入感も得られると思うので、いろんな人に楽しんでほしいなと思います。

2021/06/28 

皆様連載1回目はいかがでしたでしょうか?第2回目以降は実際に映画館で作品を上映している皆様にもご登場いただいたく予定です。お楽しみに。


▶『最後にして最初の人類』をご覧いただいた皆様にオススメしたい作品

バラカ
世界中のロケーションをポエティックに撮影しているドキュメンタリー。映画体験として強烈な1本。
カッツィ』シリーズ
失われつつある第三世界の地域文化を豊かな色彩と美しい音楽で描いた文明ドキュメンタリー。アメリカ国内の都市風景と自然景観で構成された作品。

映画『最後にして最初の人類』7.23[FRI] 全国順次公開


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