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月詠log(2017.04〜)

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「塔」誌上に掲載された月詠のログです。
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2018年11月の記事一覧

「塔」2018年11月号(月詠)

副業を持てと謳へる広告のSNSにばらばらと降る

酔ふまへにもう泣きさうだ 取り敢へずビールの人を数へ上げつつ

死ぬことの容易からずや黙々と真夜に飲み干す水の一杯

まぼろしの一人となりて校庭に花の重さを見届けてゐる

特急の通過待ちたる鈍行に赤きシートのつややかに見ゆ

泣き虫を囃す子供も泣き出して夏の終はりの海は遠のく

(p.182)

「塔」2018年10月号(月詠)

文庫本伏せて机に置くときのかすかに揺れるせせらぎの音

切つてあるピザはパン屋にあれば買ふ頬張るたびにコーンこぼれて

これ以上ここには居られないやうで紙コップ手につぶして帰る

分からうとしてゐるやうに見えないと泥水がくる、分かつてたまるか

ラーメンを帰りに食べる体力の無くなりてわが二十代果つ

殺さずにゐられなかつた炎天にスローモーションめく蜃気楼

あちこちに蓋をしながら生きてゐる誰も知ら

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「塔」2018年9月号(月詠)

たましひはあぢさゐに似て色彩の膨らむうへに雨のしたたる

夕闇が窓に凭れてゐる内に生きのびる言ひ訳を見つける

台風の眼のごときものわが内の怒りにもあり生ぬるき風

指入れて引き裂くための目印を男の喉は晒してゐたり

湖【うみ】ひとつ干上がるごとき憔悴よわれの脳【なづき】を貫きわたる

(p.120)

「塔」2018年8月号(月詠)

海を見に行かうと君に伝へたらもう満たされてしまふ気がする

墓地をゆくわれにゆふべの風ながれ樹々のしらべのゆうらりと過ぐ

続篇がすぐに始まる番組の不幸がどんどん安つぽくなる

速やかに感情の死ぬ音含むエレベーターは地下へ降りゆく

フリスビー咥へて持つてくる犬に似てゐる、距離の取り方が変

眩しがるあなたに朝を告げる時ひかりの波をなすブラインド

「チンしても美味しいよ」つて触れ込みに従つてみる

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