「塔」2018年10月号(月詠)

文庫本伏せて机に置くときのかすかに揺れるせせらぎの音

切つてあるピザはパン屋にあれば買ふ頬張るたびにコーンこぼれて

これ以上ここには居られないやうで紙コップ手につぶして帰る

分からうとしてゐるやうに見えないと泥水がくる、分かつてたまるか

ラーメンを帰りに食べる体力の無くなりてわが二十代果つ

殺さずにゐられなかつた炎天にスローモーションめく蜃気楼

あちこちに蓋をしながら生きてゐる誰も知らないほんたうの顔

ひとの死に慣れてゆきたる頃合ひにあたためなほす茄子の味噌汁

(p.163)

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